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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第9部

    白猫夢・探葵抄 6

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    麒麟を巡る話、第465話。
    きっと彼女ならば。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    6.
    「きゃっ……」「うゎっ……」「これ……は……」
     ルナ、フィオ、そしてパラの声が、異様に遠のきつつ、鈍く響いてくる。
    「ちっくしょー……! こんな大掛かりな罠仕掛けやがって!」
     一聖の体も、部屋の奥へと吸い込まれそうになる。
     しかし壁に突き刺した鉄扇に何とかつかまり、ルナたち3人のように吸い込まれずに済む。
    「コレは多分、次元操作術の一種――麒麟の姉さんと昔ちょこっとだけ研究して、結局どのアイデアも実現不可能だって結論に至って、放っぽってたヤツだな。
     まさか完成させてたとは、思ってもみなかったぜ」
     ルナたち3人もぺたりと壁に貼り付き、まるで壁画のように、ピクリとも動かなくなる。
     一聖は魔術で壁から鋼線を造りつつ、周囲を見回す。
    「解除用のスイッチとかコンソールとか、制御装置みたいなのは、……見当たらねーな。葵がいない時だけ罠が発動、って感じか」
     一聖は首を横に振って、大火たちに声をかけた。
    「聞こえてっか分かんねーが、とりあえず言っとくぜ。
     ソイツがどう動いてるかは分かんねー。だが相当の魔力源を必要とするってコトは、理論上で明らかにはしてある。だからその魔力源を絶てば術は効力を失い、解除されるはずだ。
     多分この近くにある。ソレさえ見つけりゃ何とかなる。……と思う」
     一聖は鋼線を造り終え、それを部屋の反対側に引っ掛けてよじ登り、どうにかその場から脱出した。



    「……え? ソレでその話、終わり?」
     時間は、葛と一聖が出会った日に戻る。
     話し終えた一聖は、残念そうに首を振った。
    「ああ。結論から言うとな、解除できなかったんだよ、オレには」
    「どうして?」
    「魔力源が見つからなかった」
    「どう言うコト?」
    「その手前の部屋のドコにも、ソレらしい設備やら装置やらが見つからなかったんだよ。
     恐らく魔力源は、罠が仕掛けてある部屋の奥にあるらしい」
    「ソレって……、どうしようも無いんじゃないの? 通らなきゃ入れないってコトでしょ?」
    「そうなる」
     うなずいた一聖に、葛は唖然とする。
    「どうすんのよ?」
    「ソコでお前さんを頼ってきたワケだ」
    「どう言う意味よ?」
    「お前さんなら、あの部屋を通らずにその奥へ行けるんじゃねーかと思って、な」
    「できるワケないじゃない」
    「いや、お前さんならきっとできるはずなんだ」
    「……?」
     一聖の言葉に、葛は首をかしげた。
    「だから、どう言う意味なのよ? あたしに何ができるって言うのよ」
    「『星剣舞』だ。あの技がお前さんに使えるなら、その部屋を通らずに奥へ行くコトは、簡単にできるはずなんだ」
    「は?」
     一聖が何を言っているのか分からず、葛は頭を抱える。
    「もうちょっと、……ううん、もっと分かりやすく説明してくれない? あたし大学生だし、そこそこ頭いいつもりだけど、アンタの言ってるコト、ちっとも分かんないよー……」
    「ああ、悪い悪い。ついつい話を端折っちまった」
     一聖はひょい、とベッドから離れ、立ち上がって話を続ける。
    「まず、『星剣舞』ってのが何か、お前さんは知ってるか?」
    「ソコから分かんない」
    「そっか。まあ、『星剣舞』ってのは、かつて晴奈の姉さん……、お前の父方のばーちゃんの黄晴奈って人が使った技だ。
     ソレはマジで反則的な技でな。誰にも気取られるコトなく、敵を滅多斬りにできるんだ」
    「へぇ?」
    「この技のすごいトコはな、仮にこの世の全てを見通す目を持ってるヤツがいたとしても、その技を見切るコトは、ソイツにすら不可能なんだ」
    「どうして?」
    「ソレはな……」
     一聖はまた、どこからかあの光る金属板を取り出し、そこに図を描いて説明する。
    「……ってワケだ」
    「うーん……?」
     しかし、葛にはその話が理解ができなかった。
    「どう……うーん……ちょっと、良く、……うーん、分かんない」
    「まあ、そもそも荒唐無稽な話だからな。オレだって実証しろって言われたらお手上げだ」
    「ちょっ……、ソレをどうやって、あたしが使えるようになれって言うのよ? 無茶ばっかり言わないでよ、もおー……」
     葛は頭を抱え、うなだれる。
    「無茶は承知だ。だけどお前さんが使えないと、お前さんもオレも困るだろ?」
    「何言ってんのよ? アンタの事情なんかあたしに関係ないでしょ?」
     にらむ葛に対し、一聖は肩をすくめながらこう返す。
    「関係あるぜ。葵のコトだ」
    「……」
    「お前さんはいずれ、アイツと戦わなきゃならない。でも今のままの状態で、葵に勝てると思うのか?」
    「ソレは……」
    「無論、戦いたくなきゃ一生戦わなくてもいいさ。アイツから逃げまわって、象牙の塔でコソコソ生きてりゃいいんだ。
     葵だってお前さんに戦う意志がコレっぽっちもねーと分かれば、無理矢理攻めてきたりしねーだろうし、な」
    「……ムカつく言い方するなぁ。そりゃ、このままにはしておけないけどさー」
    「だろ? じゃあ、何の武器も技も用意しないまま、ってワケにゃ行かないよな」
    「まあ、そうね。理屈はそう。でもさー……」
    「とりあえず、だ」
     一聖は人差し指をピンと立て、こう締めくくった。
    「まずは武器だ。明日スカーレットヒルに、取りに行くぜ」

    白猫夢・探葵抄 終
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