「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第9部
白猫夢・聖媒抄 1
麒麟を巡る話、第466話。
西方の東。
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1.
正直なところ――葛は当初、一聖のことを信用していなかったし、好意を覚えていたわけでも無かった。
(図々しーし、態度デカいし、ムチャクチャ言ってくるしー……)
だが結局、葛は一聖と西方東部のこの国、サングフェル共和国を訪れている。
(なーんか……、断れなかったのよね。
まあ、お姉ちゃんの件もあるし、コイツの言う『神器』がどんなのか気になるって言うのもあるけど、……なーんか、さ)
「なあ、葛」
「なーに?」
「ハラ減らね?」
「減ってるよー」
「丁度さ、あそこ。屋台みたいなのあるじゃん?」
「あるねー」
「……うまそうに見えね?」
「見えるよ。食べたいの?」
「おう」
目をキラキラさせる一聖に、葛は内心、苦笑していた。
(なーんか……、構っちゃうのよねー。
偉ぶってる割に、コドモだし。目を離すと何するか分かんなくて、放っとけないし)
「いいよ、食べよっかー」
「おうっ」
葛が答えるや否や、一聖はバタバタと屋台に駆け出していく。
(なーんか、なー。……妹がいたらこんな感じ?)
そんなことをぼんやり考えていると、既に屋台の前に並んでいた一聖が声を張り上げる。
「おーい! 早く来いよー!」
「はーい、はい」
屋台でサンドイッチを買った二人は、そのまま近くの公園へと移動する。
「もぐ……、そう言えばこの国って」
葛はハムとレタスとトマトを挟んだサンドイッチをぱくつきながら、半ば世間話のつもりで、この国の情勢を話し始めた。
「旧エカルラット王国が今のサングフェル共和国に変わったのって、20年くらい前なんだってー」
「ふーん」
一方の一聖は、チョコレートソースをたっぷり塗ったサンドイッチを頬張りながら、生返事で返す。
「元々、おじーちゃん――ハーミット卿がプラティノアールで王政内閣制をうまくやってたから、この国の人たちが30年くらい前に、ソレを真似したんだけどねー」
「ほむ」
「でも結果は散々だったんだって。権力を得た大臣層が勝手なコトばっかりしだして、経済は急落するし、政治はマヒするし」
「んぐ……、アホだなぁ」
「ホントだよねー。で、政治権力を私物化した大臣派と、ソレに反発した市民派とで、内戦になっちゃったのよ。
内戦は結局10年近く続いて、ようやく市民派が勝利。当時の大臣たちは全員処刑されちゃった上に、彼らに好き勝手やらせてた王様も終身刑で投獄。
一方で勝った方の首脳陣も、誰が王様になるかで大揉めに揉めて、2、3人殺されちゃったらしいのよ」
「どっちもどっち、って感じだな」
「だねー。ま、そんなワケで、誰か一人が王様になろうとしたら話がまとまらないってコトになって、残った首脳陣で共和制を採択。
コレは何とかうまくいったっぽくて、現在までの20年間、大きな争いは特に起こっていない、……って学校で習った」
「歴史のお勉強、どーも。……んー」
一聖はサンドイッチを包んでいた紙ナプキンで口をゴシゴシ拭きながら、残念そうにつぶやく。
「西方のチョコって、ドコもこんななのか?」
「え?」
「まずい。変な臭いするし、気色悪い甘みがあるし。変な混ぜ物がてんこ盛りって感じだぜ」
「屋台のだもん、安物なんでしょ。美味しいトコのはホントに美味しいよー」
「口直しに食いたいなー」
「まだ食べるの?」
尋ねた葛に、一聖はいたずらっぽく笑って返した。
「こんなもんで食べた気にならねーよ。さ、口直し口直しっと」
ひょいっとベンチを離れ、市街地へと歩き出した一聖に、葛は苛立った声をぶつけた。
「待ってよ。あたし、まだ食べてるじゃない」
その言葉に、一聖はくる、と踵を返した。
「あ、悪りい。ゴメンな、せっかちなもんで」
「もー」
一転、一聖はぺこっと頭を下げる。
「食べ終わるまで待つからさ、他にも何か聞かせてくれよ」
「だから食べてるんだってば。あたし、口の中にモノ入れて、もごもごしゃべりたくないもん」
「そりゃそうか、悪り悪り」
「今度はカズセちゃんがしゃべってよー」
「オレ?」
きょとんとした目を向けた一聖に、葛はこう続けた。
「何だかんだ言って、あたしカズセちゃんのコト、全然知らないもん」
「そー言や自己紹介も、半端にしかしてなかったっけ。
いいぜ。さらっとで良けりゃ、話してやるよ」
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西方の東。
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正直なところ――葛は当初、一聖のことを信用していなかったし、好意を覚えていたわけでも無かった。
(図々しーし、態度デカいし、ムチャクチャ言ってくるしー……)
だが結局、葛は一聖と西方東部のこの国、サングフェル共和国を訪れている。
(なーんか……、断れなかったのよね。
まあ、お姉ちゃんの件もあるし、コイツの言う『神器』がどんなのか気になるって言うのもあるけど、……なーんか、さ)
「なあ、葛」
「なーに?」
「ハラ減らね?」
「減ってるよー」
「丁度さ、あそこ。屋台みたいなのあるじゃん?」
「あるねー」
「……うまそうに見えね?」
「見えるよ。食べたいの?」
「おう」
目をキラキラさせる一聖に、葛は内心、苦笑していた。
(なーんか……、構っちゃうのよねー。
偉ぶってる割に、コドモだし。目を離すと何するか分かんなくて、放っとけないし)
「いいよ、食べよっかー」
「おうっ」
葛が答えるや否や、一聖はバタバタと屋台に駆け出していく。
(なーんか、なー。……妹がいたらこんな感じ?)
そんなことをぼんやり考えていると、既に屋台の前に並んでいた一聖が声を張り上げる。
「おーい! 早く来いよー!」
「はーい、はい」
屋台でサンドイッチを買った二人は、そのまま近くの公園へと移動する。
「もぐ……、そう言えばこの国って」
葛はハムとレタスとトマトを挟んだサンドイッチをぱくつきながら、半ば世間話のつもりで、この国の情勢を話し始めた。
「旧エカルラット王国が今のサングフェル共和国に変わったのって、20年くらい前なんだってー」
「ふーん」
一方の一聖は、チョコレートソースをたっぷり塗ったサンドイッチを頬張りながら、生返事で返す。
「元々、おじーちゃん――ハーミット卿がプラティノアールで王政内閣制をうまくやってたから、この国の人たちが30年くらい前に、ソレを真似したんだけどねー」
「ほむ」
「でも結果は散々だったんだって。権力を得た大臣層が勝手なコトばっかりしだして、経済は急落するし、政治はマヒするし」
「んぐ……、アホだなぁ」
「ホントだよねー。で、政治権力を私物化した大臣派と、ソレに反発した市民派とで、内戦になっちゃったのよ。
内戦は結局10年近く続いて、ようやく市民派が勝利。当時の大臣たちは全員処刑されちゃった上に、彼らに好き勝手やらせてた王様も終身刑で投獄。
一方で勝った方の首脳陣も、誰が王様になるかで大揉めに揉めて、2、3人殺されちゃったらしいのよ」
「どっちもどっち、って感じだな」
「だねー。ま、そんなワケで、誰か一人が王様になろうとしたら話がまとまらないってコトになって、残った首脳陣で共和制を採択。
コレは何とかうまくいったっぽくて、現在までの20年間、大きな争いは特に起こっていない、……って学校で習った」
「歴史のお勉強、どーも。……んー」
一聖はサンドイッチを包んでいた紙ナプキンで口をゴシゴシ拭きながら、残念そうにつぶやく。
「西方のチョコって、ドコもこんななのか?」
「え?」
「まずい。変な臭いするし、気色悪い甘みがあるし。変な混ぜ物がてんこ盛りって感じだぜ」
「屋台のだもん、安物なんでしょ。美味しいトコのはホントに美味しいよー」
「口直しに食いたいなー」
「まだ食べるの?」
尋ねた葛に、一聖はいたずらっぽく笑って返した。
「こんなもんで食べた気にならねーよ。さ、口直し口直しっと」
ひょいっとベンチを離れ、市街地へと歩き出した一聖に、葛は苛立った声をぶつけた。
「待ってよ。あたし、まだ食べてるじゃない」
その言葉に、一聖はくる、と踵を返した。
「あ、悪りい。ゴメンな、せっかちなもんで」
「もー」
一転、一聖はぺこっと頭を下げる。
「食べ終わるまで待つからさ、他にも何か聞かせてくれよ」
「だから食べてるんだってば。あたし、口の中にモノ入れて、もごもごしゃべりたくないもん」
「そりゃそうか、悪り悪り」
「今度はカズセちゃんがしゃべってよー」
「オレ?」
きょとんとした目を向けた一聖に、葛はこう続けた。
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