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    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第9部

    白猫夢・聖媒抄 2

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    麒麟を巡る話、第467話。
    橘一聖の人物評。

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    2.
     双月暦570年6月、トラス王国再生医療研究所、通称「フェニックス」。
    「この子が本日からうちの研究顧問として参加する、橘一聖ちゃん。よろしくね、みんな」
    「よろ……し、く」
     まだ10代にしか見えない彼女の姿に、研究員一同は一様に、面食らった表情を浮かべている。
     その動揺を見て取った一聖は、こんな質問をぶつけた。
    「そこの長耳のおっさん。オレの見た目、いくつに見える?」
    「お、おっさん? 私のことか?」
     指差されたエイブが、憮然とした顔をしながらも答える。
    「そうだな……、14、15と言うところだろうか」
    「ほーぉ」
     ニヤッと笑い、一聖はこう返した。
    「オレが15歳だってんなら、アンタはまだ2ヶ月、3ヶ月の赤ん坊だぜ?」
    「なに?」
    「オレの見た目の若さは、魔術研究の賜物(たまもの)ってヤツさぁ。実際にゃその何倍も歳食ってんだぜ?」
    「まさか!」
     鼻で笑ったエイブに対し、一聖は笑みを崩さない。
    「ま、ホントかウソかは、オレの仕事で評価してくれ。よろしくな、みんな」
    「……よろしく」
     初対面からいきなりこんな剣呑な調子で挨拶したため、一聖に対する研究員からの評価は当初、総じて低いものだった。



     しかし彼女が、魔術に関して本当に高い技術と知識を持っていたことと、そしてどこか憎めない性格から、次第に打ち解けていった。
    「……ってワケだ。土術は単に『鉱物を操る魔術』ってだけじゃないんだぜ?」
    「いや、でも僕のいた大学院では……」
    「下手クソな教え方されたもんだな。一体ドコの馬の骨なんだか」
     一聖にこき下ろされ、研究員は顔を真っ赤にして怒鳴りかける。
    「ば、馬鹿にするな! テスラー教授は天狐ゼミを出た英才……」「テスラー? もじゃもじゃ頭にビン底メガネでガリガリの短耳、ヘス・テスラーのコトか?」「えっ?」
     きょとんとした研究員に、一聖はニヤニヤしながらこう返す。
    「アイツから教わったのか。ゼミにいた当時から教えるのに苦労したもんだぜ」
    「知ってるんですか? って言うか、『教えた』って……?」
    「ま、一緒に勉強したってコトさ。でもこっちの意見にまったく耳貸そうとしなくてさ、『いや、こうあるべきなのだ!』つって、聞きゃしねー」
    「……ぷっ」
     途端に、研究員の顔から険が消える。
    「確かに良く言ってましたね、それ。講義の時いつも、3回は聞きましたよ」
    「ま、頭は悪くねーんだけど、カタくてな。思い込みが激しいっつーか」
    「あれ? でも教授と同窓ってことは、タチバナさんって」
    「ケケケ、女の子の歳を邪推するもんじゃねーぜ? そもそも同窓生どころじゃねーし。
     あと、『一聖ちゃん』って呼んでくれて構わねーから、な」
    「あ、はい」

    「ふーん、お前のばあちゃんって晴奈の姉さ……、『蒼天剣』と一緒に戦争で戦ってたのか」
    「そうなんですよぅ」
     クオラと世間話をしていた一聖が、不意に笑い出す。
    「……くく」
    「どしたんですかぁ、カズセちゃん?」
    「いやな、その『蒼天剣』のコトで、いっこ思い出したコトがあるんだ。
     ある時オレが、その『蒼天剣』に雷術を真正面から当てたコトがあったんだが、その時『蒼天剣』はどうしたと思う?」
    「えぇ!? 『蒼天剣』と戦ったんですかぁ!?」
    「おう」
    「えーっとぉ……、雷術って、電気のアレですよねぇ?」
    「ああ、ソレだ」
    「それはぁー……、まぁ、逃げますよねぇ、普通は」
    「普通は、な。だが『蒼天剣』は普通じゃない。
     って言うか魔術系の知識に関しては、てんでからっきしだったらしくてな。オレの放った電撃に対して、真正面から突っ込んできたんだ」
    「えーっ!? し、死んじゃいますよぅ、そんなことしたら!?」
     目を丸くしたクオラに、一聖はチッチッ、ともったいぶって否定する。
    「ところがソコは『蒼天剣』だ。あろうコトか、オレの魔術をブッた斬りやがったのさ」
    「ちょ、ちょっと待ってくださいよぉ。魔術って切れるものなんですかぁ?」
    「だから言ったろ、『蒼天剣』は普通じゃねーって。だからこそ伝説にもなるってもんだ」
    「……ホントに伝説って言うか、眉唾って言うか、ぶっちゃけ胡散臭いですよぅ」
    「いや、コレにもちゃんと理論的説明は付けられるんだ。まず彼女が持ってた武器ってのが……」



     元々の知識の深さと観察眼の鋭さに加えて、長年ゼミの教師として培ってきた話術もあり、彼女が語る話は造詣が深く、そして明解であり、何より機知に富んでいて面白い。
     そのため一聖の参与から3ヶ月が過ぎる頃には、彼女はすっかり、所内の人気者になっていた。
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