黄輪雑貨本店 新館


    「白猫夢」
    白猫夢 第9部

    白猫夢・聖媒抄 3

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    麒麟を巡る話、第468話。
    イタズラっ娘と変人娘。

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    3.
     マーク自身は一聖が研究所に参与したことについては、非常に喜ばしく、そして心強く思っていたし、何より率直に嬉しかった。
     何故なら、彼女の中身はそっくりそのまま、ゼミ時代の恩師なのである。色々と込み入ったことも気軽に話すことができたし、自分の専門に対しても、これ以上求めようが無いくらい的確に答え、教えてくれるのだ。
     それを抜きにしても、これまでどちらかと言えばくすぶっていた感じのあった「フェニックス」が、一聖の参与以後、明らかに調子を上げていたことが、(名目上の)オーナーであるマークを喜ばせていた。
     実際、これまでは1~2年かけてようやく研究開発が1つ成功するかしないかと言う具合だったものが、一聖参与以後の2年で、3件もの開発成功の実績を挙げており、一聖が「フェニックス」にもたらした効果は、非常に大きいものと言えた。



     とは言え――その一方で、マークと、そして彼の父であるトラス王が頭を悩ませる問題もまた、一聖を原因として発生していた。

    「マーク。最近、なんだ、お前の研究所も、あれだ、人が増えたそうではないか」
     ある日、トラス王が突然、マークの部屋を訪れた。
    「ええ、大分増えましたね。生体接着剤の商品化に成功してから、働きたいと言う人が大勢来られまして。
     今のところ20人くらいと言うところですね、所員の数は」
    「ふむ……。ああいや、お前が望んだ仕事で成功を収めていることは、非常に喜ばしいことだと思っているのだ。元よりお前には王としての執務より、そうした研究者としての生き方が適うと思っていたからな。
     その点に関しては、あれだ、不満だとかそう言った悪感情の類は抱いてはおらん。それは確かだ。安心してくれ」
    「……?」
     トラス王が何かを言いたそうにしていることをマークは察したが、とりあえず何も聞かず、うなずいておく。
    (父上のことだし、何かにかこつけて説教する気だろうしなぁ。自分から厄介事を聞き出すのも面倒だし)
    「しかしだな。何と言うか、なんだ、その……」
     トラス王はもごもごとつぶやいていたが、やがて意を決したように、しかし依然として曖昧な口調で尋ねてきた。
    「妙な人間も入り込んでいると言う、その、うわさと言うかだな、評判をだな、方々で聞いているのだ」
    「妙な人間?」
    「聞いた話だが、見た目は10代半ばの少女然としていて、全身真っ黒と言う奇怪な出で立ちで、色目を振りつつ軽佻浮薄な会話をあちこちで立て並べ、いたずらに評判を集めている者がいる、とか、何とか」
    (あー、カズセちゃんか)
     マークはどう答えようか迷ったが、ある程度は肯定しておくことにした。
    「ええ、思い当たる人物は確かにおります。
     ただ、父上が聞き及んだ悪評は事実無根です。確かに性根の明るい方で、面白く、かつ有意義な話であれば聞いた覚えがありますが、その出処不明なうわさに上っているような、はしたない発言をしていたと言う覚えは、僕には一切ありません」
    「ふーむ、そうか……」
     息子にきっぱりと否定されたためか、トラス王はうなずきかける。
     だが一転、ぶるぶると首を振り、こう続けてきた。
    「いや、しかしだな。ビッキーがどうも、件のその人物に感化されておるようなのだ」
    「ビッキーが?」
    「うむ。いや、確かに元々からあの子は多少、変わったところが無いわけではなかった。親の欲目を差し引いても、あの子には扱いかねる性質があると言うことは、認めないわけにはいかん。ただ、その性質が最近悪化、ああいや、強まっていると言うか。
     この間もあの子の部屋からボン、と異様な破裂音が響き、すわ一大事、と思って駆け込んでみれば、あの子がケラケラ笑いながら、『お兄様の研究所にいらっしゃる方、なかなか面白い魔術をご存知ですね。おかげで美味しいお菓子ができました』などと、訳の分からんことを言い出す始末だ!」
    「お菓子?」
    「うむ」
     トラス王は懐から、一包みの袋を取り出す。
    「何でも小麦に圧力をかけて作ったものだとか。いや、確かに今まで食べたことの無い、不可思議な食感で、その実、香り豊かな風味がある。うまいと言えばうまい」
    「僕にも分けていただけますか?」
    「そのつもりで持ってきた」
    「いただきます」
     マークがその菓子を受け取ったところで、トラス王が続いてこう嘆いてきた。
    「しかしだな、まだ歴史が浅いとは言え、このセレスフォード城は我々トラス家の住む王宮なのだ。
     その誇りある城で白昼堂々、ボンは無いだろう、ボンは! 戦争でも始まったのかと、国民にいらぬ不安を与えてしまうではないか!」
    「まあ、確かに」
    「事実、事件のあったその時、私の他にも衛兵やら官吏やらが大勢武器を手に取り、詰めかけて来ていたのだ。
     それだけでも顔から火を噴くかと言う失態であるのに、ビッキーときたら『折角ですから皆様もお召し上がりくださいな』などと言って、お前にやったその菓子袋を、その場に集まった皆に配る始末だ!
     ああ、嘆かわしい! 無論、その場で即刻ビッキーを説教したが、全く意に介しておらんのだ! 平然と『これは科学の勉強です。王族たるもの、十分な教養を身に付けて置かねばならんと仰ったのは、お父上ご自身でございましょう?』と返してきよる!」
    「ああ……でしょうね」
    「マーク!」
     もそもそと小麦菓子を頬張っていたマークの肩をぐい、とつかみ、トラス王は半ば悲哀を帯びた怒鳴り声を上げた。
    「頼むから、ビッキーに変なことを教えないように、その黒少女を諭してくれ! 万が一できないと言うのならば、実力行使で研究所を閉鎖させるからな!」
    「はあ、まあ、一応言ってみます」
     口ではそう答えたものの、マークは内心では、説得を諦めていた。
    (どっちも無理ですってば、父上……。
     カズセちゃんやビッキーがそんなの聞くわけ無いし、ルナさんたちの実力なら、この国の一個大隊だろうが一個連隊だろうが、1時間かそこらで壊滅しちゃえるだろうし)

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    作中の、ビッキーが作ったお菓子。
    http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%B3%E8%8F%93%E5%AD%90
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