「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第9部
白猫夢・聖媒抄 4
麒麟を巡る話、第469話。
変人学を得て不善を成す。
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4.
マークが予想していた通り、ビッキーの件を聞いた一聖は、しれっとこう返して来た。
「お、成功したのか。じゃあビッキーに『ソレにチョコ付けて送ってくれ』つっといてくれ」
「そうじゃないです」
マークは頭を抱えながら、恐る恐るこう続ける。
「あんまりビッキーに、変なことを教えないで下さい。と言うか、みだりにあっちこっちで腕を振るったり、魔術を吹聴したりしないでほしいんです」
「なんで?」
尋ねられ、マークはぼそぼそと答える。
「なんでって……、そりゃ、ただでさえビッキーは変わり者で、いきなり何しだすか分からない子なんです。
そこにカズセちゃんの入れ知恵が加わったら、もう僕や父上には制御できなくなっちゃうんですよ」
「情けねーなぁ。ビシッと言えばいいじゃねーか」
「言っても聞かないんですよ。ああ言えばこう言う、って感じで。一応、女の子だから、まさか折檻するわけにも行かないし。
それを置いてもですね、父上の耳に入るくらい悪目立ちしてるみたいですし、カズセちゃん、もうちょっと自省してほしいんですが」
「してるぜ、ソレなりに。
街中で魔術ブッ放しもしてねーし、白猫党やら麒麟の姉さんやらの話も一切してねー。あくまでこの研究所の関係者の本分を逸脱するよーなコトは、やってねーはずだけどな。
ソレともマーク、お前さんはオレに『この研究所から一歩も外に出るな』とでも言うつもりか?」
「い、いや、そこまでは……。でも、評判が立ち過ぎてるのは事実ですし……。
あんまりうわさが広まると、それこそあの、アオイさんとか、ナンクン? でしたっけ、その人たちの耳に入るかも知れませんし……」
二人の名前を出した途端、一聖は一転、苦い顔をする。
「……あー、まあ、ソレはめんどいな。ココを強襲されたら、ソレこそとんでもない迷惑かけちまうだろーし、な。
分かった、もうちょい自重する。……ただ」
一聖は申し訳無さそうな表情を浮かべながら、マークに小さく頭を下げた。
「ビッキーとの話はさせてくれねーか? アイツは面白いヤツだからな、構いたくなるんだ」
「あ、いえ、するなって話じゃないんで、それは大丈夫なんですけど、……まあ、あんまり変なことを吹きこまないでって話で」
「ああ、気を付けるさ」
一応は約束し、一聖も気を付けてくれていたようだが――ビッキーの奇行は、留まるところを知らなかった。
「勘弁して下さい、本気で」
「……いや、マジで今回のは悪かった」
マークの説得からわずか3日後、ビッキーがまたも事件を起こしたのである。
城内に飾られていたトラス王の銅像を、なんとビッキーが破壊してしまったのだ。
「オレが思ってた以上にムチャクチャするヤツだったわ、アイツ……。
そりゃまあ、電磁誘導や雷術と土術の組み合わせの話をしたのは確かにオレだけどさ、ソコから自分で応用利かせて電磁加速砲を組むとは予想外だったぜ……」
「おかげで父上、倒れちゃいましたよ……。銅像も、本人も。
今回ばかりは母上からきつく叱られて、ビッキーは今、自分の部屋で謹慎させられてます。多分今後も、カズセちゃんとの接触は禁じられると思います」
「済まねーな、本当。……まあ、しばらくほとぼりを冷ますしかねーな。
ちょうど遠出する用事もできたし、ビッキーにはうまく伝えといてくれ」
「用事?」
尋ねたマークに、一聖は壁に貼っていた地図を指差した。
「ほら、去年の暮れにフィオが持ってた写真からアレコレ検討してたろ? あの延長線上の話だ。
葵が何か画策してるとすれば、何かしらの痕跡をドコかに残してるはずだ。だけど、どーにも葵の足取りがつかめねーからな。ルナとパラとオレの3人で広域に散って、捜索するつもりなんだ。
交差法っつって、複数地点から現象の観測を行ってその発生地点を割り出す方法でな。『テレポート』で葵がドコかに痕跡を残してないか、調べるコトにしたんだ」
「なるほど……」
と、ここでマークが、話題をビッキーのことに戻す。
「ビッキーは、僕みたいな感じなんですよね」
「ん?」
「研究熱心で、こうと決めたら突き進む。王族よりも研究者が似合うタイプなんですよ。
ただ、僕がこの仕事をやってるせいで、父上は――口では『構わん』とか『気にせず務めよ』とか言ってますが――がっかりしてるんですよね。跡を継ぐ意思が全く無いって、落胆してるんですよ。
だから妹には期待してたと思うんです、『自分の跡を継いでくれるだろう』って。……それが、こんなことになってますからね。そりゃ、倒れもしますよね」
「でもフィオによれば、次の国王は……」
「フィオの、元いた世界では、ですよ。僕が生きてて、カズセちゃんとビッキーが出会ったこっちの世界じゃ、あの子は研究者をやるかも知れません」
それを聞いて、一聖がケラケラと笑う。
「そうなったらそうなったで、今度はフィオが真っ青になりそうだな。『歴史と違う』つって」
「いやぁ……、彼自身が元々、歴史を変えるために来たわけですし、これはこれでと思ってるかも知れません」
「アハハ、かもな」
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変人学を得て不善を成す。
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マークが予想していた通り、ビッキーの件を聞いた一聖は、しれっとこう返して来た。
「お、成功したのか。じゃあビッキーに『ソレにチョコ付けて送ってくれ』つっといてくれ」
「そうじゃないです」
マークは頭を抱えながら、恐る恐るこう続ける。
「あんまりビッキーに、変なことを教えないで下さい。と言うか、みだりにあっちこっちで腕を振るったり、魔術を吹聴したりしないでほしいんです」
「なんで?」
尋ねられ、マークはぼそぼそと答える。
「なんでって……、そりゃ、ただでさえビッキーは変わり者で、いきなり何しだすか分からない子なんです。
そこにカズセちゃんの入れ知恵が加わったら、もう僕や父上には制御できなくなっちゃうんですよ」
「情けねーなぁ。ビシッと言えばいいじゃねーか」
「言っても聞かないんですよ。ああ言えばこう言う、って感じで。一応、女の子だから、まさか折檻するわけにも行かないし。
それを置いてもですね、父上の耳に入るくらい悪目立ちしてるみたいですし、カズセちゃん、もうちょっと自省してほしいんですが」
「してるぜ、ソレなりに。
街中で魔術ブッ放しもしてねーし、白猫党やら麒麟の姉さんやらの話も一切してねー。あくまでこの研究所の関係者の本分を逸脱するよーなコトは、やってねーはずだけどな。
ソレともマーク、お前さんはオレに『この研究所から一歩も外に出るな』とでも言うつもりか?」
「い、いや、そこまでは……。でも、評判が立ち過ぎてるのは事実ですし……。
あんまりうわさが広まると、それこそあの、アオイさんとか、ナンクン? でしたっけ、その人たちの耳に入るかも知れませんし……」
二人の名前を出した途端、一聖は一転、苦い顔をする。
「……あー、まあ、ソレはめんどいな。ココを強襲されたら、ソレこそとんでもない迷惑かけちまうだろーし、な。
分かった、もうちょい自重する。……ただ」
一聖は申し訳無さそうな表情を浮かべながら、マークに小さく頭を下げた。
「ビッキーとの話はさせてくれねーか? アイツは面白いヤツだからな、構いたくなるんだ」
「あ、いえ、するなって話じゃないんで、それは大丈夫なんですけど、……まあ、あんまり変なことを吹きこまないでって話で」
「ああ、気を付けるさ」
一応は約束し、一聖も気を付けてくれていたようだが――ビッキーの奇行は、留まるところを知らなかった。
「勘弁して下さい、本気で」
「……いや、マジで今回のは悪かった」
マークの説得からわずか3日後、ビッキーがまたも事件を起こしたのである。
城内に飾られていたトラス王の銅像を、なんとビッキーが破壊してしまったのだ。
「オレが思ってた以上にムチャクチャするヤツだったわ、アイツ……。
そりゃまあ、電磁誘導や雷術と土術の組み合わせの話をしたのは確かにオレだけどさ、ソコから自分で応用利かせて電磁加速砲を組むとは予想外だったぜ……」
「おかげで父上、倒れちゃいましたよ……。銅像も、本人も。
今回ばかりは母上からきつく叱られて、ビッキーは今、自分の部屋で謹慎させられてます。多分今後も、カズセちゃんとの接触は禁じられると思います」
「済まねーな、本当。……まあ、しばらくほとぼりを冷ますしかねーな。
ちょうど遠出する用事もできたし、ビッキーにはうまく伝えといてくれ」
「用事?」
尋ねたマークに、一聖は壁に貼っていた地図を指差した。
「ほら、去年の暮れにフィオが持ってた写真からアレコレ検討してたろ? あの延長線上の話だ。
葵が何か画策してるとすれば、何かしらの痕跡をドコかに残してるはずだ。だけど、どーにも葵の足取りがつかめねーからな。ルナとパラとオレの3人で広域に散って、捜索するつもりなんだ。
交差法っつって、複数地点から現象の観測を行ってその発生地点を割り出す方法でな。『テレポート』で葵がドコかに痕跡を残してないか、調べるコトにしたんだ」
「なるほど……」
と、ここでマークが、話題をビッキーのことに戻す。
「ビッキーは、僕みたいな感じなんですよね」
「ん?」
「研究熱心で、こうと決めたら突き進む。王族よりも研究者が似合うタイプなんですよ。
ただ、僕がこの仕事をやってるせいで、父上は――口では『構わん』とか『気にせず務めよ』とか言ってますが――がっかりしてるんですよね。跡を継ぐ意思が全く無いって、落胆してるんですよ。
だから妹には期待してたと思うんです、『自分の跡を継いでくれるだろう』って。……それが、こんなことになってますからね。そりゃ、倒れもしますよね」
「でもフィオによれば、次の国王は……」
「フィオの、元いた世界では、ですよ。僕が生きてて、カズセちゃんとビッキーが出会ったこっちの世界じゃ、あの子は研究者をやるかも知れません」
それを聞いて、一聖がケラケラと笑う。
「そうなったらそうなったで、今度はフィオが真っ青になりそうだな。『歴史と違う』つって」
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