「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第9部
白猫夢・聖媒抄 5
麒麟を巡る話、第470話。
化学反応。
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5.
「これはこれで、面白い流れになってるのかも知れない」
一応、トラス王国に軍籍を置いているフィオも、城内におけるビッキーの奇行は耳にしていた。
「どう言う意味?」
尋ねたルナに、フィオはこう説明する。
「僕の元いた世界の歴史ではビッキー、即ちビクトリア・トラスが女王に即位するのは577年。その1年後に央南における白猫軍との交戦相手、そして従属させられていた央中諸国の権力者たちと密かに連絡を取る。
さらにその1年後の579年、中央大陸を挙げての大規模な反乱・反撃計画、通称『コンチネンタル』作戦を決行する。その勢いに西方も加わり、白猫党は結党以来の窮地に見舞われ、そしてアオイが新たな党首となり……、と言う流れになった。
その、ビクトリアが即位を志したきっかけは、死んだ兄の恨みと、そして『新央北』全土を征服されて打ちひしがれた父への反発からだ。……しかし」
「あたしたちの世界ではマークは死んでないし、『新央北』もトラス王の下にあるまま。ビッキーが女王になろうなんて要素が、無くなっちゃってるのよね」
「そう、だから懸念してたんだ。このままじゃビクトリアが女王にならず、『コンチネンタル』も決行されないんじゃないかって。
元の歴史では、確かにこの作戦は失敗に終わる。でも白猫党を揺るがしたのは確かだ。現在その地盤を固め、既に盤石の体制を築きつつある白猫党にダメージを与えるには、これが決行されるしか無い。
だからここ数年の流れは――勿論そう促したのは他でもない、僕なんだけども――かなり不安な流れでもあった。
でも、カズセちゃんが僕らの仲間になって以降、僕が全く知らない流れが、明らかに生まれている」
「それが今回の銅像破壊事件、ってこと?」
「ああ。元々、父親以上の風雲児だったビクトリアが、カズセちゃんとの邂逅で、明らかにその片鱗を見せるのが早まってる。
僕の世界じゃ即位は577年、彼女が24歳の時だったけど、もっと早くに名乗りを挙げるかも知れないよ」
「『化学反応』ってワケか」
と、そこへ一聖がやって来た。
「かがくはんのう?」
「オレが触媒になって、本来よりずっと早く、ビッキーの変化が起こってるってワケだ」
「まあ、そうなるかな」
「だけどマークは、そうは思ってねーらしいぜ」
「って言うと?」
一聖は先程マークと話した内容を、ルナたちに伝えた。
「あー……、それも有り得るな」
「それはそれで、心強い兵器開発者が誕生するけどね」
「いや、そうなると『コンチネンタル』作戦を考える人が……」
「ケケケ……、どう転んでも悩みもの、か」
「……と、まあ。央北でのオレの生活は、そんなもんだ」
「ふーん」
サンドイッチを食べ終えた葛は、一聖に尋ねる。
「ソレが570年、571年くらいの話だっけ?」
「ああ。翌年からほぼ2年間、中央大陸のあっちこっちで観測してたからな。ソコら辺の話まですると、晩メシまで引っ張るぜ?」
「ソレは遠慮かなー。また今度、ヒマがある時で」
「おう」
一聖は立ち上がり、街の北、丘になっている場所を指差す。
「アレがオレたちが目指す、スカーレットヒル工場跡だ。
調べによれば、今は中央の黒炎教団ってトコが工場跡一帯を買い占めてるらしい」
「なんで?」
「オレたちと同じモノを探してるからさ。
双月暦4世紀に親父があそこで死にかけて、オレが打った刀を真っ二つにされちまった挙句、溶鉱炉に落としちまったんだ。その直後、工場は大爆発。周囲300メートルに渡って焦土と化す、ものすげー被害をもたらしたとか何とか。
で、親父を信奉してる教団のヤツらからすりゃ、その刀は二つとない神器だ。絶対ドコかに埋まってるって信じて、土地を買い占めてからの約80年、ずーっと掘り続けてるらしい。
とは言え一方で、ソコまで本気では掘ってないらしいってコトも聞いてる」
「カミサマの刀なのに?」
「親父は別に刀を打っちまったからな。『既に刀を得ている今、そう対して重要なものでもない、な』つったせいで、教団のヤツらは掘る気が失せたらしい。
としても、万が一他の誰かに刀が見つけられちまったら、ソレはソレでオオゴトだ。だから土地を手放さず、かと言って積極的に発掘もせず、ずーっと放置しっぱなしってコトらしいぜ」
「へー」
葛はしばらく丘を眺めていたが、くる、と一聖に振り返る。
「でも、溶鉱炉に落ちたって話なんでしょ? 刀だったら溶けちゃってるんじゃ……」
「フン、折れても神器だぜ? 5000度の炎で炙ろうが、濃塩酸を吹きかけようが、壊れるワケがねー。折れたのは、相手の得物も神器だったからさ」
「神器って、ソコまですごいの?」
「耐久性だけじゃねーぜ? 持ち主と神器の相性によっては、尋常じゃねー力を引き出してくれる。
そしてソレが、オレがお前に期待してるコトなんだ。お前がその刀を手にするコトで、何かしらの『化学反応』が起こってくれねーか。オレはそう、期待してるんだ」
「できるかなぁ……」
難色を示した葛に、一聖は自信満々そうにうなずく。
「できるさ。……さ、メシも食ったし、いざ出発だ」
「はーい」
葛と一聖は、丘へ向かって歩いて行った。
白猫夢・聖媒抄 終
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「これはこれで、面白い流れになってるのかも知れない」
一応、トラス王国に軍籍を置いているフィオも、城内におけるビッキーの奇行は耳にしていた。
「どう言う意味?」
尋ねたルナに、フィオはこう説明する。
「僕の元いた世界の歴史ではビッキー、即ちビクトリア・トラスが女王に即位するのは577年。その1年後に央南における白猫軍との交戦相手、そして従属させられていた央中諸国の権力者たちと密かに連絡を取る。
さらにその1年後の579年、中央大陸を挙げての大規模な反乱・反撃計画、通称『コンチネンタル』作戦を決行する。その勢いに西方も加わり、白猫党は結党以来の窮地に見舞われ、そしてアオイが新たな党首となり……、と言う流れになった。
その、ビクトリアが即位を志したきっかけは、死んだ兄の恨みと、そして『新央北』全土を征服されて打ちひしがれた父への反発からだ。……しかし」
「あたしたちの世界ではマークは死んでないし、『新央北』もトラス王の下にあるまま。ビッキーが女王になろうなんて要素が、無くなっちゃってるのよね」
「そう、だから懸念してたんだ。このままじゃビクトリアが女王にならず、『コンチネンタル』も決行されないんじゃないかって。
元の歴史では、確かにこの作戦は失敗に終わる。でも白猫党を揺るがしたのは確かだ。現在その地盤を固め、既に盤石の体制を築きつつある白猫党にダメージを与えるには、これが決行されるしか無い。
だからここ数年の流れは――勿論そう促したのは他でもない、僕なんだけども――かなり不安な流れでもあった。
でも、カズセちゃんが僕らの仲間になって以降、僕が全く知らない流れが、明らかに生まれている」
「それが今回の銅像破壊事件、ってこと?」
「ああ。元々、父親以上の風雲児だったビクトリアが、カズセちゃんとの邂逅で、明らかにその片鱗を見せるのが早まってる。
僕の世界じゃ即位は577年、彼女が24歳の時だったけど、もっと早くに名乗りを挙げるかも知れないよ」
「『化学反応』ってワケか」
と、そこへ一聖がやって来た。
「かがくはんのう?」
「オレが触媒になって、本来よりずっと早く、ビッキーの変化が起こってるってワケだ」
「まあ、そうなるかな」
「だけどマークは、そうは思ってねーらしいぜ」
「って言うと?」
一聖は先程マークと話した内容を、ルナたちに伝えた。
「あー……、それも有り得るな」
「それはそれで、心強い兵器開発者が誕生するけどね」
「いや、そうなると『コンチネンタル』作戦を考える人が……」
「ケケケ……、どう転んでも悩みもの、か」
「……と、まあ。央北でのオレの生活は、そんなもんだ」
「ふーん」
サンドイッチを食べ終えた葛は、一聖に尋ねる。
「ソレが570年、571年くらいの話だっけ?」
「ああ。翌年からほぼ2年間、中央大陸のあっちこっちで観測してたからな。ソコら辺の話まですると、晩メシまで引っ張るぜ?」
「ソレは遠慮かなー。また今度、ヒマがある時で」
「おう」
一聖は立ち上がり、街の北、丘になっている場所を指差す。
「アレがオレたちが目指す、スカーレットヒル工場跡だ。
調べによれば、今は中央の黒炎教団ってトコが工場跡一帯を買い占めてるらしい」
「なんで?」
「オレたちと同じモノを探してるからさ。
双月暦4世紀に親父があそこで死にかけて、オレが打った刀を真っ二つにされちまった挙句、溶鉱炉に落としちまったんだ。その直後、工場は大爆発。周囲300メートルに渡って焦土と化す、ものすげー被害をもたらしたとか何とか。
で、親父を信奉してる教団のヤツらからすりゃ、その刀は二つとない神器だ。絶対ドコかに埋まってるって信じて、土地を買い占めてからの約80年、ずーっと掘り続けてるらしい。
とは言え一方で、ソコまで本気では掘ってないらしいってコトも聞いてる」
「カミサマの刀なのに?」
「親父は別に刀を打っちまったからな。『既に刀を得ている今、そう対して重要なものでもない、な』つったせいで、教団のヤツらは掘る気が失せたらしい。
としても、万が一他の誰かに刀が見つけられちまったら、ソレはソレでオオゴトだ。だから土地を手放さず、かと言って積極的に発掘もせず、ずーっと放置しっぱなしってコトらしいぜ」
「へー」
葛はしばらく丘を眺めていたが、くる、と一聖に振り返る。
「でも、溶鉱炉に落ちたって話なんでしょ? 刀だったら溶けちゃってるんじゃ……」
「フン、折れても神器だぜ? 5000度の炎で炙ろうが、濃塩酸を吹きかけようが、壊れるワケがねー。折れたのは、相手の得物も神器だったからさ」
「神器って、ソコまですごいの?」
「耐久性だけじゃねーぜ? 持ち主と神器の相性によっては、尋常じゃねー力を引き出してくれる。
そしてソレが、オレがお前に期待してるコトなんだ。お前がその刀を手にするコトで、何かしらの『化学反応』が起こってくれねーか。オレはそう、期待してるんだ」
「できるかなぁ……」
難色を示した葛に、一聖は自信満々そうにうなずく。
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