「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第9部
白猫夢・跳猫抄 1
麒麟を巡る話、第471話。
西方の中の黒炎教団。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
市街地からバスにのんびり揺られて30分後、葛と一聖は目的地、スカーレットヒル工場跡に到着した。
「黒炎教団の人たちがいるって言うから、物々しい感じなのかなーって思ってたけど」
「言ったろ? 特に重要な場所じゃなくなって久しいって」
工場跡周辺は柵で囲まれており、その入口には黒衣の短耳や狼耳がうろうろしている。
「お、アイツ……?」
「え? 知り合い?」
「いや、そうじゃない。あそこに黒い毛並みの狼獣人がいるだろ?」
「うん。口ヒゲとあごヒゲ生やしてて、あたしよりちょっと年上くらいの人だよねー?」
「ああ。黒炎教団の僧兵長服を着て、しかもあの黒い耳。もしかしたらアイツ、教団の教主一族かも知れねーなって」
「へー……?」
遠巻きに観察すると、その狼獣人は周囲の者に何かを命じるように動いており、確かに人の上に立つ類の者であることが察せられた。
と、その狼獣人がこちらに気付き、いぶかしげに眺めてくる。
「どーも」
それに対し、一聖はひょい、と手を挙げて会釈した。
「何者だ?」
一方、狼獣人はいぶかしげな表情を崩さず、堅い口調で尋ねてくる。
「観光客だよ。入っちゃまずいか?」
「そうか、失礼した。いやなに、こちらをじろじろと見てくるものだから」
「ケケ……、お兄ちゃん、割りとイケてる顔してるからさ」
「な、なに?」
ぎょっとした顔を見せた狼獣人にぺらぺらと手を振りながら、一聖はそのまま柵の内側へ進む。
「葛、早く来いよー」
「あ、うん。お邪魔しますー」
葛も狼獣人に軽く会釈してから、一聖に続いた。
「ねえ、カズセちゃん」
「ん?」
一聖に追い付いたところで、葛が尋ねる。
「ココ、入っちゃっていいの?」
「今、許可もらったろ?」
「そうだけどさー」
「心配すんなって。さっき言った通り、ココは教団もどう扱っていいか持て余してる物件なんだよ。
発掘するにもコストがかかる、かと言って放棄して誰かが神器を掘り出しても困る、じゃあどうしようかってんで、アレコレ試行錯誤してるらしい。
で、観光資源にしてみちゃどうかって話も出たらしい。だもんで、こうして試しに一般開放してるってワケだ」
「へー」
観光地と聞かされ、葛は辺りをきょろきょろと眺める。
と、そこで先程の狼獣人が、自分たちのすぐ後ろに立っていることに気付いた。
「あの……?」
「そちらの短耳の子は、我々の事情を良く存じているようだな。概ねその通りだ。
確かに我々の方でも、この地を持て余しているのは確かだ。特にこの国が共和国化されて以降は土地にかかる資産税や維持費が、著しく高騰している。
現教主、ウィリアム5世――私の叔父だが――は吝嗇家で知られていてな、ささやかな出費が積み上がることを嫌っている。無論、教団全体の出納としては十分に黒字ではあるのだが、この土地のように漫然と維持費・管理費や税を支払い、何ら益をもたらさぬものをことごとく忌み嫌い、総じて収入源に転化できぬかと常々考えている。
この地はその試みの一環として、観光地にできぬかと試みているのだ。……とは言え、私が派遣されて既に3年経つが、相変わらず赤字続きだ」
「はあ……」
突如ぺらぺらと話しだした狼獣人に、葛は面食らっている。
その様子を察したらしく、狼獣人は「おっと」と声を漏らした。
「失礼した。前述の通り、ここは未だ観光地としての成果を挙げられずにいてな、……率直に言えばヒマなのだ。珍しく観光客が来たから、少し話でもと思ったのだ。
申し遅れた。私の名はウォーレン・ウィルソン。このスカーレットヒル工場跡の管理を任されている者だ」
「あ、……はい、どうも。あたしはカズラ・ハーミットです」
「橘一聖だ」
「ほう?」
二人から名前を聞いたウォーレンは、目を丸くする。
「ハーミットと言うのは、もしやプラティノアールの?」
「あ、はい。そのハーミット家ですー」
「そしてそちらは、央南人か? 不思議な組み合わせだな」
「大学が一緒なんだ。コッチにはその研究で、な」
「大学?」
ウォーレンは再度いぶかしげな表情で、一聖をじろじろと見る。
「見たところ14、5歳と言うところだが……?」
「若作りってヤツさぁ。中身はコイツよりオトナだぜ」
「むむむ……?」
煙に巻かれ、ウォーレンは面食らっていた。
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西方の中の黒炎教団。
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市街地からバスにのんびり揺られて30分後、葛と一聖は目的地、スカーレットヒル工場跡に到着した。
「黒炎教団の人たちがいるって言うから、物々しい感じなのかなーって思ってたけど」
「言ったろ? 特に重要な場所じゃなくなって久しいって」
工場跡周辺は柵で囲まれており、その入口には黒衣の短耳や狼耳がうろうろしている。
「お、アイツ……?」
「え? 知り合い?」
「いや、そうじゃない。あそこに黒い毛並みの狼獣人がいるだろ?」
「うん。口ヒゲとあごヒゲ生やしてて、あたしよりちょっと年上くらいの人だよねー?」
「ああ。黒炎教団の僧兵長服を着て、しかもあの黒い耳。もしかしたらアイツ、教団の教主一族かも知れねーなって」
「へー……?」
遠巻きに観察すると、その狼獣人は周囲の者に何かを命じるように動いており、確かに人の上に立つ類の者であることが察せられた。
と、その狼獣人がこちらに気付き、いぶかしげに眺めてくる。
「どーも」
それに対し、一聖はひょい、と手を挙げて会釈した。
「何者だ?」
一方、狼獣人はいぶかしげな表情を崩さず、堅い口調で尋ねてくる。
「観光客だよ。入っちゃまずいか?」
「そうか、失礼した。いやなに、こちらをじろじろと見てくるものだから」
「ケケ……、お兄ちゃん、割りとイケてる顔してるからさ」
「な、なに?」
ぎょっとした顔を見せた狼獣人にぺらぺらと手を振りながら、一聖はそのまま柵の内側へ進む。
「葛、早く来いよー」
「あ、うん。お邪魔しますー」
葛も狼獣人に軽く会釈してから、一聖に続いた。
「ねえ、カズセちゃん」
「ん?」
一聖に追い付いたところで、葛が尋ねる。
「ココ、入っちゃっていいの?」
「今、許可もらったろ?」
「そうだけどさー」
「心配すんなって。さっき言った通り、ココは教団もどう扱っていいか持て余してる物件なんだよ。
発掘するにもコストがかかる、かと言って放棄して誰かが神器を掘り出しても困る、じゃあどうしようかってんで、アレコレ試行錯誤してるらしい。
で、観光資源にしてみちゃどうかって話も出たらしい。だもんで、こうして試しに一般開放してるってワケだ」
「へー」
観光地と聞かされ、葛は辺りをきょろきょろと眺める。
と、そこで先程の狼獣人が、自分たちのすぐ後ろに立っていることに気付いた。
「あの……?」
「そちらの短耳の子は、我々の事情を良く存じているようだな。概ねその通りだ。
確かに我々の方でも、この地を持て余しているのは確かだ。特にこの国が共和国化されて以降は土地にかかる資産税や維持費が、著しく高騰している。
現教主、ウィリアム5世――私の叔父だが――は吝嗇家で知られていてな、ささやかな出費が積み上がることを嫌っている。無論、教団全体の出納としては十分に黒字ではあるのだが、この土地のように漫然と維持費・管理費や税を支払い、何ら益をもたらさぬものをことごとく忌み嫌い、総じて収入源に転化できぬかと常々考えている。
この地はその試みの一環として、観光地にできぬかと試みているのだ。……とは言え、私が派遣されて既に3年経つが、相変わらず赤字続きだ」
「はあ……」
突如ぺらぺらと話しだした狼獣人に、葛は面食らっている。
その様子を察したらしく、狼獣人は「おっと」と声を漏らした。
「失礼した。前述の通り、ここは未だ観光地としての成果を挙げられずにいてな、……率直に言えばヒマなのだ。珍しく観光客が来たから、少し話でもと思ったのだ。
申し遅れた。私の名はウォーレン・ウィルソン。このスカーレットヒル工場跡の管理を任されている者だ」
「あ、……はい、どうも。あたしはカズラ・ハーミットです」
「橘一聖だ」
「ほう?」
二人から名前を聞いたウォーレンは、目を丸くする。
「ハーミットと言うのは、もしやプラティノアールの?」
「あ、はい。そのハーミット家ですー」
「そしてそちらは、央南人か? 不思議な組み合わせだな」
「大学が一緒なんだ。コッチにはその研究で、な」
「大学?」
ウォーレンは再度いぶかしげな表情で、一聖をじろじろと見る。
「見たところ14、5歳と言うところだが……?」
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NoTitle
勘当・破門されたウィルバーやウォンの子孫と言うことにはならないでしょうし。
少なくとも前々教主の血は引いているかも知れませんが。