「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第9部
白猫夢・跳猫抄 2
麒麟を巡る話、第472話。
古戦場考察。
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2.
ウォーレンはその若干無骨な見た目と口調とは裏腹に、気さくな性格を持っており、気配りも細やかだった。
珍しく訪れた観光客、葛と一聖を、彼自らがもてなし、案内してくれたのだ。
「君は存じているかも知れないが、我が黒炎教団とプラティノアール王国、と言うよりもネロ・ハーミット卿には繋がりがあるのだ」
「あ、聞いたコトありますー。なんでか知らないけど、おじーちゃんとタイカ・カツミが仲良かったって」
「うむ。その関係により、教団と王国との間に貿易路が作られていた。
もっともここ2、3年の騒ぎで、貿易は封鎖されてしまったと聞いているがな」
「実はあたしの家も、その騒ぎで隣国に引っ越したんですよねー」
「と言うと、グリスロージュへか」
「はいー。元々パパ……、あ、いえ、父が向こうの人たちと親しかったので」
「ふむ……、大変な目に遭ったのだな。
おっと、ここだ」
一見、ただのゴツゴツした岩山にしか見えないところで、ウォーレンが立ち止まる。
「ここが、黒炎様の刀が落ちたのではないかと推定されている溶鉱炉跡だ。
工場を建てた者が遺した設計図や、ここで行われた戦いに参加したとされる英雄、ニコル3世の日記などの古い文献を綜合し、その上で綿密な計算・計測を行った結果、ほぼ間違いなく、この『ミスリル化珪素』と言われる物質の下に、刀が落ちていると考えられている」
「ミス……、リル、化?」
「私も詳しいことは、良くは知らない。何でも魔術、とりわけ錬金術の類に使う合成樹脂の一種だそうだ。
しかしそのことが、様々な物議をかもしてもいる。知っての通り、合成樹脂などと言うものは、ここ数十年で研究・開発された新素材だ。それが何故、4世紀前半に建設されたはずのこの工場に、岩と見紛うほど大量に存在しているのか? 残念ながら前述の文献にも、詳しく言及したものは一切、見つからなかった。
無論、私もそれに目を通してみたが、この工場で精製されていたものに関しては、それらしい記述や言及が何ら見つからず、今もって不明のままなのだ。
それに、黒炎様がここで瀕死の重傷を負ったと言うこと。それは我々黒炎教団の人間には、天地が引っくり返るよりも信じられぬ出来事だ。しかもニコル3世の日記によれば、重傷を負わせたのはこの工場の所有者であった、アバント・スパスとか言う無名の人間だと言う。何故そのような者が、黒炎様に深手を負わせるほどに肉薄できたのか。それも謎だ。
何より、その重傷を負わせた武器だ。現在は我々が所蔵し、教団本拠の奥深くに封印している代物だが、何度か研究したところ、紛れも無く神器であろうと言う結論に達した。ではその神器を、一体誰が造ったのか? それもまた、今なお解けぬ謎のままだ」
「へー……」
「……あ、すまない」
と、ウォーレンはぺこりと頭を下げる。
「またぺらぺらと、一人で話してしまったな。
私の悪い癖だと常々承知してはいるのだが、どうも直せない。この悪癖で猊下にも不興を買ってしまい、中央大陸から追いやられる始末だ。
……あ、いや、別にこの国が嫌いだと言うわけではない。むしろ3年この地に住んでいるが、すっかり馴染んだ覚えがある。西方語も上手いだろう?」
「ええ、自然に聞けますねー。ちょっと堅い感じがありますけど」
「それは良かった。……ん?」
二人が話している一方、一聖はその、ミスリル化珪素の山をじっとにらんでいた。
それにウォーレンが気付き、声をかける。
「タチバナさん?」
「一聖ちゃんでいいぜ。……深さ30メートルってトコか」
「ん? ああ、そのくらいだろうと予想しているが」
「ちっと硬そうだな」
「加工すれば人の肌のような滑らかさと柔軟性を発するそうだが、あまりに長い間風雨にさらされているからな。珪素本来の硬度を取り戻してしまったようだ」
「あー、そっか、加工な」
そう返し、一聖は山のすぐ前に進む。
「言っておくが、手を触れては……」
ウォーレンが注意しかけたところで、一聖が呪文を詠唱し始めた。
「まっ、待て! 何をしようとしている!?」
「黙ってろ」
一聖は意に介さず、魔術を放った。
「『ホールドピラー:トリプル』!」
岩山からにょきにょきと、そのミスリル化珪素でできた柱が伸びていく。
「待て! やめろ! 遺跡が……!」
責任者のウォーレンは顔を真っ青にし、一聖を止めようとする。
しかし彼が一聖の肩をつかんだ瞬間、一聖はくい、と体をひねり、鳩尾に蹴りを入れて突き放す。
「おげっ!?」
「邪魔すんな。……ほれ、ソレっぽいのが出てきたぜ」
そう言って一聖は術を止め、高さ20メートルほどに伸びたいつくもの柱の一つを指差す。
その中には確かに、黒く長細い塊が2つ見えた。
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ウォーレンはその若干無骨な見た目と口調とは裏腹に、気さくな性格を持っており、気配りも細やかだった。
珍しく訪れた観光客、葛と一聖を、彼自らがもてなし、案内してくれたのだ。
「君は存じているかも知れないが、我が黒炎教団とプラティノアール王国、と言うよりもネロ・ハーミット卿には繋がりがあるのだ」
「あ、聞いたコトありますー。なんでか知らないけど、おじーちゃんとタイカ・カツミが仲良かったって」
「うむ。その関係により、教団と王国との間に貿易路が作られていた。
もっともここ2、3年の騒ぎで、貿易は封鎖されてしまったと聞いているがな」
「実はあたしの家も、その騒ぎで隣国に引っ越したんですよねー」
「と言うと、グリスロージュへか」
「はいー。元々パパ……、あ、いえ、父が向こうの人たちと親しかったので」
「ふむ……、大変な目に遭ったのだな。
おっと、ここだ」
一見、ただのゴツゴツした岩山にしか見えないところで、ウォーレンが立ち止まる。
「ここが、黒炎様の刀が落ちたのではないかと推定されている溶鉱炉跡だ。
工場を建てた者が遺した設計図や、ここで行われた戦いに参加したとされる英雄、ニコル3世の日記などの古い文献を綜合し、その上で綿密な計算・計測を行った結果、ほぼ間違いなく、この『ミスリル化珪素』と言われる物質の下に、刀が落ちていると考えられている」
「ミス……、リル、化?」
「私も詳しいことは、良くは知らない。何でも魔術、とりわけ錬金術の類に使う合成樹脂の一種だそうだ。
しかしそのことが、様々な物議をかもしてもいる。知っての通り、合成樹脂などと言うものは、ここ数十年で研究・開発された新素材だ。それが何故、4世紀前半に建設されたはずのこの工場に、岩と見紛うほど大量に存在しているのか? 残念ながら前述の文献にも、詳しく言及したものは一切、見つからなかった。
無論、私もそれに目を通してみたが、この工場で精製されていたものに関しては、それらしい記述や言及が何ら見つからず、今もって不明のままなのだ。
それに、黒炎様がここで瀕死の重傷を負ったと言うこと。それは我々黒炎教団の人間には、天地が引っくり返るよりも信じられぬ出来事だ。しかもニコル3世の日記によれば、重傷を負わせたのはこの工場の所有者であった、アバント・スパスとか言う無名の人間だと言う。何故そのような者が、黒炎様に深手を負わせるほどに肉薄できたのか。それも謎だ。
何より、その重傷を負わせた武器だ。現在は我々が所蔵し、教団本拠の奥深くに封印している代物だが、何度か研究したところ、紛れも無く神器であろうと言う結論に達した。ではその神器を、一体誰が造ったのか? それもまた、今なお解けぬ謎のままだ」
「へー……」
「……あ、すまない」
と、ウォーレンはぺこりと頭を下げる。
「またぺらぺらと、一人で話してしまったな。
私の悪い癖だと常々承知してはいるのだが、どうも直せない。この悪癖で猊下にも不興を買ってしまい、中央大陸から追いやられる始末だ。
……あ、いや、別にこの国が嫌いだと言うわけではない。むしろ3年この地に住んでいるが、すっかり馴染んだ覚えがある。西方語も上手いだろう?」
「ええ、自然に聞けますねー。ちょっと堅い感じがありますけど」
「それは良かった。……ん?」
二人が話している一方、一聖はその、ミスリル化珪素の山をじっとにらんでいた。
それにウォーレンが気付き、声をかける。
「タチバナさん?」
「一聖ちゃんでいいぜ。……深さ30メートルってトコか」
「ん? ああ、そのくらいだろうと予想しているが」
「ちっと硬そうだな」
「加工すれば人の肌のような滑らかさと柔軟性を発するそうだが、あまりに長い間風雨にさらされているからな。珪素本来の硬度を取り戻してしまったようだ」
「あー、そっか、加工な」
そう返し、一聖は山のすぐ前に進む。
「言っておくが、手を触れては……」
ウォーレンが注意しかけたところで、一聖が呪文を詠唱し始めた。
「まっ、待て! 何をしようとしている!?」
「黙ってろ」
一聖は意に介さず、魔術を放った。
「『ホールドピラー:トリプル』!」
岩山からにょきにょきと、そのミスリル化珪素でできた柱が伸びていく。
「待て! やめろ! 遺跡が……!」
責任者のウォーレンは顔を真っ青にし、一聖を止めようとする。
しかし彼が一聖の肩をつかんだ瞬間、一聖はくい、と体をひねり、鳩尾に蹴りを入れて突き放す。
「おげっ!?」
「邪魔すんな。……ほれ、ソレっぽいのが出てきたぜ」
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