「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第4部
蒼天剣・黒峰録 2
晴奈の話、第169話。
天空の霊園。
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2.
晴奈は前に一度、大火に連れられて中に入り、その広さに辟易したことがあったが、外側から改めて眺めると、その巨大さが良く分かる。
宮を囲む壁が、山の端から端まで続いているのだ。
「山頂部でこの壁の長さと高さとは、驚嘆に値しますね。一つの街と言っても、過言ではない」
「そうねー。何しろ屏風山脈の一角、黒狼山を丸々覆っているから。あたしも中に入ったコト無いけど、割と快適みたいよ。こーんな山のてっぺんなのにね」
小鈴はぐるりと辺りを見回し、ため息をつく。
(中に入れば黒炎殿やウィルのことが何か、分かるかも知れぬが……)
晴奈もため息をつき、その考えを自ら却下した。
(休戦したとは言え、焔と黒炎は仲が悪い。障らぬ神に祟りなし、だ。
それに黒炎は密教と聞く。焔と関係の無い橘殿であってもすんなり入らせてくれるとは、到底思えぬ)
晴奈の予想通り、黒鳥宮の入口には門番が2名、矛を持って立っており、目が合うと、彼らはギロリとにらんでくる。
彼らの後ろにある扉も堅く閉ざされており、誰でも入れるような気配はまるで無かった。
「どしたの、晴奈? 行きましょ」
「あ、はい」
晴奈はもう一度ため息をつき、その場から去った。
黒鳥宮を過ぎた二人は、そのまま道を下っていく。
やがて右手一面に、広々とした平原と、そこに林立する石碑群が見えてきた。
「あれは……」
小鈴が短く、答える。
「お墓ね。教団の霊園ってトコかしら」
「そう、ですか」
そこでまた、晴奈は立ち止まった。
「さっきからどしたの、晴奈?」
「あ、いえ。……あの、戦争で戦った相手も大勢いるでしょうから、少し、参ってきます」
「は?」
目を丸くする小鈴に一礼し、晴奈は霊園に足を踏み入れた。
風の強いこの山では、始終口笛のような風の音が、途切れること無く吹き続けている。
その強い音はまるで――。
(死者の囁きのようだ)
ごうごう、びゅうびゅうと絶え間なく鳴り続ける風は確かに、誰かの話し声のようなざわめきをはらんでいる。
晴奈は背筋にひやりと、冷たいものを感じた。
(私を、拒んでいるのか)
そう思った瞬間、急に風が強くなる。
「わ……」
その風に、晴奈がかぶっていた帽子が飛ばされる。
「あっ」
晴奈は帽子を追いかけ、霊園をさらに奥へと進んで行く。
少し歩いたところで不意に風がやみ、帽子はすとんと地面に落ちた。
「まったく。……本当に、死者のいたずらか?」
体を屈めて地面に落ちた帽子を手に取り、ほこりを払う。
と――。
「あなた……、旅の方? ここで、何をしているの?」
屈んでいた晴奈に、影が落ちる。
晴奈は帽子を被って立ち上がり、前に立ったその人物に軽く頭を下げた。
「いかにも、旅の者です。
先の戦争で、央南側として戦っておりました。央南人は戦い、死んだ者に敬意を表する習慣がある故、一応の弔いをせねばと思い立ち、ここに足を踏み入れた次第です」
前に立っていた、眼鏡をかけた「狼」の女性は、晴奈の言葉に複雑な顔をする。
「そう。……そう言う気持ちなら、ここには来ないで欲しい。
敵に弔われるなんて、彼らには耐えがたい屈辱だろうし」
冷たくそう返され、晴奈は帽子を取って深々と頭を下げた。
「失敬しました。あなた方がこの行為を冒涜とされるならば、速やかにここを離れます」
と、帽子を取った晴奈の顔を見て、「狼」は驚いた様子を見せた。
「あなたは……? どこかで会ったわね?
……そう、思い出した。テンゲンの、講和会議。大将さんの後ろに立っていらした方ね?」
「え?」
そう問われ、晴奈はこの女性が誰だったか記憶を探る。
そしてすぐに、ある者の名が浮かんできた。
「あなたは確か、……ウェンディ司教? ウェンディ・ウィルソン台下でしょうか」
女性はやはり冷たい表情のまま、静かにうなずいた。
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天空の霊園。
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2.
晴奈は前に一度、大火に連れられて中に入り、その広さに辟易したことがあったが、外側から改めて眺めると、その巨大さが良く分かる。
宮を囲む壁が、山の端から端まで続いているのだ。
「山頂部でこの壁の長さと高さとは、驚嘆に値しますね。一つの街と言っても、過言ではない」
「そうねー。何しろ屏風山脈の一角、黒狼山を丸々覆っているから。あたしも中に入ったコト無いけど、割と快適みたいよ。こーんな山のてっぺんなのにね」
小鈴はぐるりと辺りを見回し、ため息をつく。
(中に入れば黒炎殿やウィルのことが何か、分かるかも知れぬが……)
晴奈もため息をつき、その考えを自ら却下した。
(休戦したとは言え、焔と黒炎は仲が悪い。障らぬ神に祟りなし、だ。
それに黒炎は密教と聞く。焔と関係の無い橘殿であってもすんなり入らせてくれるとは、到底思えぬ)
晴奈の予想通り、黒鳥宮の入口には門番が2名、矛を持って立っており、目が合うと、彼らはギロリとにらんでくる。
彼らの後ろにある扉も堅く閉ざされており、誰でも入れるような気配はまるで無かった。
「どしたの、晴奈? 行きましょ」
「あ、はい」
晴奈はもう一度ため息をつき、その場から去った。
黒鳥宮を過ぎた二人は、そのまま道を下っていく。
やがて右手一面に、広々とした平原と、そこに林立する石碑群が見えてきた。
「あれは……」
小鈴が短く、答える。
「お墓ね。教団の霊園ってトコかしら」
「そう、ですか」
そこでまた、晴奈は立ち止まった。
「さっきからどしたの、晴奈?」
「あ、いえ。……あの、戦争で戦った相手も大勢いるでしょうから、少し、参ってきます」
「は?」
目を丸くする小鈴に一礼し、晴奈は霊園に足を踏み入れた。
風の強いこの山では、始終口笛のような風の音が、途切れること無く吹き続けている。
その強い音はまるで――。
(死者の囁きのようだ)
ごうごう、びゅうびゅうと絶え間なく鳴り続ける風は確かに、誰かの話し声のようなざわめきをはらんでいる。
晴奈は背筋にひやりと、冷たいものを感じた。
(私を、拒んでいるのか)
そう思った瞬間、急に風が強くなる。
「わ……」
その風に、晴奈がかぶっていた帽子が飛ばされる。
「あっ」
晴奈は帽子を追いかけ、霊園をさらに奥へと進んで行く。
少し歩いたところで不意に風がやみ、帽子はすとんと地面に落ちた。
「まったく。……本当に、死者のいたずらか?」
体を屈めて地面に落ちた帽子を手に取り、ほこりを払う。
と――。
「あなた……、旅の方? ここで、何をしているの?」
屈んでいた晴奈に、影が落ちる。
晴奈は帽子を被って立ち上がり、前に立ったその人物に軽く頭を下げた。
「いかにも、旅の者です。
先の戦争で、央南側として戦っておりました。央南人は戦い、死んだ者に敬意を表する習慣がある故、一応の弔いをせねばと思い立ち、ここに足を踏み入れた次第です」
前に立っていた、眼鏡をかけた「狼」の女性は、晴奈の言葉に複雑な顔をする。
「そう。……そう言う気持ちなら、ここには来ないで欲しい。
敵に弔われるなんて、彼らには耐えがたい屈辱だろうし」
冷たくそう返され、晴奈は帽子を取って深々と頭を下げた。
「失敬しました。あなた方がこの行為を冒涜とされるならば、速やかにここを離れます」
と、帽子を取った晴奈の顔を見て、「狼」は驚いた様子を見せた。
「あなたは……? どこかで会ったわね?
……そう、思い出した。テンゲンの、講和会議。大将さんの後ろに立っていらした方ね?」
「え?」
そう問われ、晴奈はこの女性が誰だったか記憶を探る。
そしてすぐに、ある者の名が浮かんできた。
「あなたは確か、……ウェンディ司教? ウェンディ・ウィルソン台下でしょうか」
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