「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第9部
白猫夢・跳猫抄 5
麒麟を巡る話、第475話。
姉妹対決。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
葵は刀を下げ、淡々と声をかける。
「カズラ、やめて」
だが、葛は激昂に任せ、怒鳴り返す。
「バカばっかり言ってんじゃないわよ!」
葛は「夜桜」を構え、葵と対峙する。
「こないだから思ってたけど、ずーっと自分勝手なコトばっかり言ってるって、自分で分かんないの!?
パパを斬った時も、あたしと再会した時も! 今のもよ! 全部アンタの自分本位な考えと理屈で通そう、通そうってしてる! 『こうなるのは自分には見えてた』? 『これはそうなるべき流れ』? 『あたしと戦えば死ぬしか無い』? ……ふざけるな!
全部アンタがその場にいたから起こったんだ! アンタがソコにいさえしなかったら、パパは傷つかなかったし、ウォーレンさんも殺されたりしなかった! ましてや、あたしが死ぬなんてコトも絶対、起こったりなんかしない!
全部、全部、全部! 全部アンタが原因だ! 何もかもアンタが、アンタが……ッ」
葛の刀に、すっと火が走る。
「来い、アオイ・ハーミット!
そんなにあたしが死ぬのが見たいなら、かかって来いーッ!」
「……」
葵はまだ何かを言おうとしていたが、やがて口を閉ざし、刀を構えた。
「分かった。あんたがそう決意したんなら、あたしは、あんたを――殺す」
その瞬間、葵がこれまで見せていた、気だるげな様子が一変した。
「……っ」
無意識に、葛は固唾を飲んでいた。
(なに……コレ? 一瞬、体が底の方から凍ったかと思った。コレ……もしかして、『殺気』ってヤツなのかな)
表情こそ、いつも見てきたように眠たそうで、やる気を欠片も見せないものではあったが、彼女の体全体から冷え冷えとした、突き刺すような気配が感じられる。
その威圧感に押され、葛は刀を構え直しつつ、一歩後ずさった。
「来ないの?」
その様子を見ていた葵が、ぼそっと尋ねる。
「口だけだった?」
「……っ」
葛の中で、葵に対する怒りと恐れが交錯する。
1秒か、2秒か――心の中で何度も感情がせめぎ合い、そして怒りが勝った。
「りゃああッ!」
葛は刀を振り上げ、葵に迫る。
それに対し葵は、刀を構えようともせず、すたすたと近付いて行く。
「カズラ」
ぼそ、と葵が――この上なく残念そうに――つぶやく。
「見苦しいよ」
葛の耳に、ざく、と音が響く。
「……ごぼ……」
自分では、何が、と言ったつもりだったが、それはただの水音として喉からあふれる。
己の胸の奥に冷たいものを感じながら、葛はその場に倒れた。
葵は自分の妹に背を向け、またぼそぼそとつぶやく。
「生きてたんだね、その人」
「元々タフだったし、オレが治したからな」
血塗れのウォーレンに肩を貸しながら、一聖が答える。
「とうとうやりやがったってワケだ」
「そうなるね。やりたく、なかったけど」
「ふざけんな」
一聖は憤った顔で、葵をにらみつける。
「やりたくない、だと? だったら、やらなきゃいいだけだろ。葛が言った通りじゃねーか。
はっきり言ってやる。お前さんの精神は分裂・破綻しかかってるんだ。その原因は、強度のストレスだ。ソレも尋常なものじゃない、少しでも気を緩めれば、たちどころに発狂しかねない域の、な。そのストレスの根源は、白猫からの重圧に他ならねー。
一体なんで、お前さんは白猫に粛々と付き従う? お前さんほどの力と知恵、才能があれば、白猫に隷属する理由は無いはずだ」
「あるんだよ」
葵は刀に付いた葛の血を振り払いつつ、こう返す。
「もしもあたしがいなかったら、あの方は誰を手先にすると思う?」
「……その懸念のために、お前は結局、最悪の選択をしたってワケだ。
自分で自分のコトを、愚か者だと分からねーのか?」
「分かってるよ。分かってるけど、もう、他には……」
「しかかってる、じゃねーな。もう破綻してる。お前さんは、おかしくなってるよ」
「そうだね」
葵は刀を構え、一聖たちに近付く。
「あたしの心はもう死んでるも同然だよ。この手でパパをひどく傷付け、そして今、カズラも殺した。
あたしにはもう、まともに生きる資格なんか無い。この先ずっと、あたしはあの方の人形でいなきゃならないだろうね」
「ヘッ、……バカが」
一聖はウォーレンを投げ、鉄扇を構えた。
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葵は刀を下げ、淡々と声をかける。
「カズラ、やめて」
だが、葛は激昂に任せ、怒鳴り返す。
「バカばっかり言ってんじゃないわよ!」
葛は「夜桜」を構え、葵と対峙する。
「こないだから思ってたけど、ずーっと自分勝手なコトばっかり言ってるって、自分で分かんないの!?
パパを斬った時も、あたしと再会した時も! 今のもよ! 全部アンタの自分本位な考えと理屈で通そう、通そうってしてる! 『こうなるのは自分には見えてた』? 『これはそうなるべき流れ』? 『あたしと戦えば死ぬしか無い』? ……ふざけるな!
全部アンタがその場にいたから起こったんだ! アンタがソコにいさえしなかったら、パパは傷つかなかったし、ウォーレンさんも殺されたりしなかった! ましてや、あたしが死ぬなんてコトも絶対、起こったりなんかしない!
全部、全部、全部! 全部アンタが原因だ! 何もかもアンタが、アンタが……ッ」
葛の刀に、すっと火が走る。
「来い、アオイ・ハーミット!
そんなにあたしが死ぬのが見たいなら、かかって来いーッ!」
「……」
葵はまだ何かを言おうとしていたが、やがて口を閉ざし、刀を構えた。
「分かった。あんたがそう決意したんなら、あたしは、あんたを――殺す」
その瞬間、葵がこれまで見せていた、気だるげな様子が一変した。
「……っ」
無意識に、葛は固唾を飲んでいた。
(なに……コレ? 一瞬、体が底の方から凍ったかと思った。コレ……もしかして、『殺気』ってヤツなのかな)
表情こそ、いつも見てきたように眠たそうで、やる気を欠片も見せないものではあったが、彼女の体全体から冷え冷えとした、突き刺すような気配が感じられる。
その威圧感に押され、葛は刀を構え直しつつ、一歩後ずさった。
「来ないの?」
その様子を見ていた葵が、ぼそっと尋ねる。
「口だけだった?」
「……っ」
葛の中で、葵に対する怒りと恐れが交錯する。
1秒か、2秒か――心の中で何度も感情がせめぎ合い、そして怒りが勝った。
「りゃああッ!」
葛は刀を振り上げ、葵に迫る。
それに対し葵は、刀を構えようともせず、すたすたと近付いて行く。
「カズラ」
ぼそ、と葵が――この上なく残念そうに――つぶやく。
「見苦しいよ」
葛の耳に、ざく、と音が響く。
「……ごぼ……」
自分では、何が、と言ったつもりだったが、それはただの水音として喉からあふれる。
己の胸の奥に冷たいものを感じながら、葛はその場に倒れた。
葵は自分の妹に背を向け、またぼそぼそとつぶやく。
「生きてたんだね、その人」
「元々タフだったし、オレが治したからな」
血塗れのウォーレンに肩を貸しながら、一聖が答える。
「とうとうやりやがったってワケだ」
「そうなるね。やりたく、なかったけど」
「ふざけんな」
一聖は憤った顔で、葵をにらみつける。
「やりたくない、だと? だったら、やらなきゃいいだけだろ。葛が言った通りじゃねーか。
はっきり言ってやる。お前さんの精神は分裂・破綻しかかってるんだ。その原因は、強度のストレスだ。ソレも尋常なものじゃない、少しでも気を緩めれば、たちどころに発狂しかねない域の、な。そのストレスの根源は、白猫からの重圧に他ならねー。
一体なんで、お前さんは白猫に粛々と付き従う? お前さんほどの力と知恵、才能があれば、白猫に隷属する理由は無いはずだ」
「あるんだよ」
葵は刀に付いた葛の血を振り払いつつ、こう返す。
「もしもあたしがいなかったら、あの方は誰を手先にすると思う?」
「……その懸念のために、お前は結局、最悪の選択をしたってワケだ。
自分で自分のコトを、愚か者だと分からねーのか?」
「分かってるよ。分かってるけど、もう、他には……」
「しかかってる、じゃねーな。もう破綻してる。お前さんは、おかしくなってるよ」
「そうだね」
葵は刀を構え、一聖たちに近付く。
「あたしの心はもう死んでるも同然だよ。この手でパパをひどく傷付け、そして今、カズラも殺した。
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