「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第9部
白猫夢・跳猫抄 7
麒麟を巡る話、第477話。
葛、発奮。
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7.
兎獣人のその言葉に、葛は思わず怒鳴っていた。
「なんでそうなるのよッ!」
「どうされました?」
表情を変えず、そう尋ねてきた兎獣人に、葛はこう主張する。
「じゃあ、じーちゃんがやったコトも全部無かったコトになるって、そう言うコトなの?」
「じーちゃん、とは?」
「ネロ・ハーミット卿よ! じーちゃんはソレこそ、世界を変えるほどのコトをした人だった! その業績も無かったコトになるって言うの?」
「ですから、彼岸においては一切関係の無い……」
言いかけた兎獣人が、そこで黙り込む。
「……なに?」
葛が尋ねたが、兎獣人は答えない。
「どうしたの?」
再度尋ねたところで、兎獣人はばつが悪そうに、こう返した。
「まあ、そのですな。無論、原則的に、例外無く、此岸(しがん:この世のこと)における業績は、彼岸において何ら関係の無いこととなります。それは動かしようの無い事実です。
ですが、まあ、それはそれとして、彼岸において業績を成したと言うのであれば、無論、それはそれで、彼岸で評価されると言うことに、まあ、ええ、……なりますね」
「どう言うコト?」
三度目の問いにははっきりとは答えず、兎獣人は一瞬、そっぽを向く。
「『向こう』に着けば、いくらでも分かることです。さあ、そろそろお急ぎくだ……」
兎獣人が振り返ったところで、彼は絶句した。
何故ならその時既に、葛は逆方向に駆け出していたからである。
「ま、待ちなさい!」
兎獣人は慌てて追いかける。だが、葛は止まらない。
「待てって言われて待つ人なんかいる!?」
周りの黒ずくめや、それらに連行される者たちが唖然と眺めている中を、葛は全速力で駆け抜けて行く。
「待ちなさい! 待って! 待って下さい!」
「ソレしか言えないの!? じゃーねっ!」
葛は先程まで座っていたベンチも越え、遠くへ、遠くへと走って行った。
祖父の功績を無碍にされたことで激昂し、怒鳴ったせいか、葛にまとわりついていた怖気や寒気、倦怠感は消えていた。
それらが消えると共に、葛は自分の中に、煌々とした火が点るのを感じた。その途端、彼女は強い衝動に突き動かされた。
それは紛れも無い、生への欲求だった。
(こんなトコで、こんなトコで……!)
葛はあらん限りの声で、絶叫していた。
「誰がこんなトコで、死んでやるもんかーッ!」
駆けに駆けて、葛は駅の外に出る。
「……え、っと」
しかし――それ以上は前に進めなかった。
目の前には、真っ暗な空間が広がっていたからである。
「ど、……どうしよっかな」
駅を一歩出た辺りから既に、足元も見えないほどに暗い。それはまるで、そこに地面が無いかのようだった。
いや、恐る恐る駅の階段から一歩だけ脚を出し、探ってみても、何の感触も無い。
「止まりなさい! そこで止まって!」
背後から、あの兎獣人が追いかけてくる。さらにその後方からも、警吏風のコートを着た黒ずくめたちが走ってくるのが見える。
「……」
葛は前後を何度も繰り返し、きょろきょろと見返し、逡巡する。
(どうしよー……。パッと駆け出して来ちゃったけど、……まさかこんな風になってるなんて、想像してなかったもんなー)
葛は足元の虚空を見つめ、ごくりと喉を鳴らす。
「……うーん」
それでも、元来決断が早い方である。
「行っちゃえっ」
葛は意を決し、その暗闇へと飛び込んだ。
葛はがばっ、と勢い良く起き上がった。
「……!」
そしてすぐ、自分の胸を確認する。
(んー、……少なくともココはアイツに勝ってるな。一回りくらいおっきいかな?
……じゃないって)
刺し貫かれたはずの胸には、今は痛み一つ感じられない。
「……カズラ」
数メートル先に、葵が立っている。
その前には肩を押さえ、うずくまる一聖がいた。
「ケケ……、やーっと目ぇ覚ましたか。どーよ、『向こう』に行った気分は」
「行ってないよ、ギリギリだったけど」
葛は立ち上がり、落ちていた刀を手に取る。
「寸前で逃げてきた」
「逃げたぁ? ……はっは、すげーなお前。
まあ、場はつないでやったんだ。そろそろ活躍してくれなきゃ、困るぜ?」
一聖は鉄扇を葵に向けつつ、後ずさる。
「行け、葛!」
その声に応じる代わりに、葛は葵目がけて跳躍した。
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葛、発奮。
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7.
兎獣人のその言葉に、葛は思わず怒鳴っていた。
「なんでそうなるのよッ!」
「どうされました?」
表情を変えず、そう尋ねてきた兎獣人に、葛はこう主張する。
「じゃあ、じーちゃんがやったコトも全部無かったコトになるって、そう言うコトなの?」
「じーちゃん、とは?」
「ネロ・ハーミット卿よ! じーちゃんはソレこそ、世界を変えるほどのコトをした人だった! その業績も無かったコトになるって言うの?」
「ですから、彼岸においては一切関係の無い……」
言いかけた兎獣人が、そこで黙り込む。
「……なに?」
葛が尋ねたが、兎獣人は答えない。
「どうしたの?」
再度尋ねたところで、兎獣人はばつが悪そうに、こう返した。
「まあ、そのですな。無論、原則的に、例外無く、此岸(しがん:この世のこと)における業績は、彼岸において何ら関係の無いこととなります。それは動かしようの無い事実です。
ですが、まあ、それはそれとして、彼岸において業績を成したと言うのであれば、無論、それはそれで、彼岸で評価されると言うことに、まあ、ええ、……なりますね」
「どう言うコト?」
三度目の問いにははっきりとは答えず、兎獣人は一瞬、そっぽを向く。
「『向こう』に着けば、いくらでも分かることです。さあ、そろそろお急ぎくだ……」
兎獣人が振り返ったところで、彼は絶句した。
何故ならその時既に、葛は逆方向に駆け出していたからである。
「ま、待ちなさい!」
兎獣人は慌てて追いかける。だが、葛は止まらない。
「待てって言われて待つ人なんかいる!?」
周りの黒ずくめや、それらに連行される者たちが唖然と眺めている中を、葛は全速力で駆け抜けて行く。
「待ちなさい! 待って! 待って下さい!」
「ソレしか言えないの!? じゃーねっ!」
葛は先程まで座っていたベンチも越え、遠くへ、遠くへと走って行った。
祖父の功績を無碍にされたことで激昂し、怒鳴ったせいか、葛にまとわりついていた怖気や寒気、倦怠感は消えていた。
それらが消えると共に、葛は自分の中に、煌々とした火が点るのを感じた。その途端、彼女は強い衝動に突き動かされた。
それは紛れも無い、生への欲求だった。
(こんなトコで、こんなトコで……!)
葛はあらん限りの声で、絶叫していた。
「誰がこんなトコで、死んでやるもんかーッ!」
駆けに駆けて、葛は駅の外に出る。
「……え、っと」
しかし――それ以上は前に進めなかった。
目の前には、真っ暗な空間が広がっていたからである。
「ど、……どうしよっかな」
駅を一歩出た辺りから既に、足元も見えないほどに暗い。それはまるで、そこに地面が無いかのようだった。
いや、恐る恐る駅の階段から一歩だけ脚を出し、探ってみても、何の感触も無い。
「止まりなさい! そこで止まって!」
背後から、あの兎獣人が追いかけてくる。さらにその後方からも、警吏風のコートを着た黒ずくめたちが走ってくるのが見える。
「……」
葛は前後を何度も繰り返し、きょろきょろと見返し、逡巡する。
(どうしよー……。パッと駆け出して来ちゃったけど、……まさかこんな風になってるなんて、想像してなかったもんなー)
葛は足元の虚空を見つめ、ごくりと喉を鳴らす。
「……うーん」
それでも、元来決断が早い方である。
「行っちゃえっ」
葛は意を決し、その暗闇へと飛び込んだ。
葛はがばっ、と勢い良く起き上がった。
「……!」
そしてすぐ、自分の胸を確認する。
(んー、……少なくともココはアイツに勝ってるな。一回りくらいおっきいかな?
……じゃないって)
刺し貫かれたはずの胸には、今は痛み一つ感じられない。
「……カズラ」
数メートル先に、葵が立っている。
その前には肩を押さえ、うずくまる一聖がいた。
「ケケ……、やーっと目ぇ覚ましたか。どーよ、『向こう』に行った気分は」
「行ってないよ、ギリギリだったけど」
葛は立ち上がり、落ちていた刀を手に取る。
「寸前で逃げてきた」
「逃げたぁ? ……はっは、すげーなお前。
まあ、場はつないでやったんだ。そろそろ活躍してくれなきゃ、困るぜ?」
一聖は鉄扇を葵に向けつつ、後ずさる。
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その声に応じる代わりに、葛は葵目がけて跳躍した。
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