「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第9部
白猫夢・跳猫抄 8
麒麟を巡る話、第478話。
「予知」と現実をつなぐもの。
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8.
跳びかかってはみたが、葛は攻めの手を見出せないでいた。
(さっきのだって、何がなんだか分かんないうちにやられちゃったしなー)
それでも刀を振りかぶり、葵に袈裟斬りを仕掛ける。
しかし、やはり容易にかわされ、葵が突きを放ってきた。
「わわ、っと」
先程と違ったのは、ここからだった。
まったく把握できなかった葵の太刀筋を、この時の葛は完全に見切り、空中で体をひねってかわしていた。
「それッ!」
そして着地した瞬間、葛は刀を横に薙ぐ。
「……っ」
ギン、と鋭い金属音が鳴る。葛はその向こうに、姉が息を呑んだそのわずかな音を、はっきりと確認した。
「油断してたよ」
葵は一歩後方へ跳び、刀を構え直す。その右手からは、血がポタポタとこぼれていた。
「そうだよね。あんたにも黄家の血が流れてる。だったらばーちゃんやパパと同じ力が備わってても、何にもおかしくない。
……でも、ここまではあたしの予知の範囲内。4割か、5割弱くらいは、あんたが蘇ってくるって未来を見たことがある。そして、その後のことも」
今度は、葵の方から仕掛けてきた。
「あんたは、ここで死ぬよ。もう、その未来しか無い」
幾太刀もの鋭い斬撃が、葛を襲う。
「そんなの、誰が信じるもんか!」
葛も刀を目まぐるしく振り回し、その全てを防ぎきる。
「予知? 未来? 予定調和? 誰がそんなの、信じると思ってるのよ!?
あたしは絶対信じない! そんな寝言を信じてるのは、この世でただ2人だけよ! アンタと、アンタの間抜けな雇い主だけ!
ううん、ソレどころかその雇い主すら、自分の予知が絶対実現するなんて、コレっぽっちも信じてないはずよ!」
「どう言う意味?」
再び、二人は間合いを取る。
「あたしはこう思ってた。白猫はあたしたちがどうあがこうと結果が確定してるような、絶対的に不変の未来を見てるんじゃない。
無数に存在する色んな未来、ううん、単なる『可能性』って言っていいようなものたちの中から、自分に都合のいいものを選んで、ソコに行き着くように誘導してるだけだ、って。
その未来を決定するのは、今、ココにいるあたしたちよ。この世界に体を持たない白猫には、決定権が無い。ココとは遠い世界にいる白猫は、口を出すコトしかできない。だから延々アンタに指示を送って、軌道修正しまくってるのよ。
何度も言ったコトだけど、アンタがそのバカみたいな指示を聞きさえしなければ、そんなあやふや極まりない『予知』なんて、絶対外れる。ソレを現実のものにしてるのは、他でもないアンタよ」
「同じ答えは何度も返してるはずだよ」
葵が、刀に火を灯す。
「そうしなきゃ、もっと悪い未来になる。あんたも、あたしも、他の皆も、もっと悪い目に遭う」
「ソレも予知? 違うよね」
葛も、応じるように火を灯す。
「その言い訳をする度、言葉を濁してごまかしてる。はっきり何が起こるなんて、全然言わない。何故ならソレは、断言できないから。つまりソレって『絶対来ると確信してる予知』じゃなくて、『もしかしたら来るかも知れない予測』だからでしょ?
アンタは怖がってる――自分の予知を超えた、不確定の未来を。だから悪い結果になると分かってて、ソレでもその予知を現実にしようとする。
どんなに望まない未来でも、その方が自分に扱えると思ってるから。アンタはその素晴らしい予知能力のせいで、却って何にもできない、人並み以下の木偶の坊になってるのよ」
「……ッ!」
葛が指摘したその瞬間、葵のぼんやりとしていた顔に、初めて険が差した。
「それ以上、言わないでくれる?」
声色も、今までのようなぼんやりしたものではない。明らかに不快感を漂わせた、荒い声だった。
「『言わないで』? ソレは当たってるから? 自分は敷かれたレールの外を歩けない臆病者だって、認めるの?」
「黙れ!」
再度、葵が仕掛ける。
「『月輪』!」
ひゅぱっ、と音を立て、葵の前方に亀裂が走る。
「キレんな、このバカ姉貴ッ!」
葛は空中に跳び、ぐるんと体をひねって斬撃をかわす。
「アンタの預言、ブッ壊してやる。
あたしは死なない。あたし以外の誰かが死んだりもしない。ううん、誰も死なせたりなんかしない。
あたしはアンタだけを、アンタ一人だけを、……討つッ!」
そう叫び――そのまま、葛はその場から消えた。
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「予知」と現実をつなぐもの。
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跳びかかってはみたが、葛は攻めの手を見出せないでいた。
(さっきのだって、何がなんだか分かんないうちにやられちゃったしなー)
それでも刀を振りかぶり、葵に袈裟斬りを仕掛ける。
しかし、やはり容易にかわされ、葵が突きを放ってきた。
「わわ、っと」
先程と違ったのは、ここからだった。
まったく把握できなかった葵の太刀筋を、この時の葛は完全に見切り、空中で体をひねってかわしていた。
「それッ!」
そして着地した瞬間、葛は刀を横に薙ぐ。
「……っ」
ギン、と鋭い金属音が鳴る。葛はその向こうに、姉が息を呑んだそのわずかな音を、はっきりと確認した。
「油断してたよ」
葵は一歩後方へ跳び、刀を構え直す。その右手からは、血がポタポタとこぼれていた。
「そうだよね。あんたにも黄家の血が流れてる。だったらばーちゃんやパパと同じ力が備わってても、何にもおかしくない。
……でも、ここまではあたしの予知の範囲内。4割か、5割弱くらいは、あんたが蘇ってくるって未来を見たことがある。そして、その後のことも」
今度は、葵の方から仕掛けてきた。
「あんたは、ここで死ぬよ。もう、その未来しか無い」
幾太刀もの鋭い斬撃が、葛を襲う。
「そんなの、誰が信じるもんか!」
葛も刀を目まぐるしく振り回し、その全てを防ぎきる。
「予知? 未来? 予定調和? 誰がそんなの、信じると思ってるのよ!?
あたしは絶対信じない! そんな寝言を信じてるのは、この世でただ2人だけよ! アンタと、アンタの間抜けな雇い主だけ!
ううん、ソレどころかその雇い主すら、自分の予知が絶対実現するなんて、コレっぽっちも信じてないはずよ!」
「どう言う意味?」
再び、二人は間合いを取る。
「あたしはこう思ってた。白猫はあたしたちがどうあがこうと結果が確定してるような、絶対的に不変の未来を見てるんじゃない。
無数に存在する色んな未来、ううん、単なる『可能性』って言っていいようなものたちの中から、自分に都合のいいものを選んで、ソコに行き着くように誘導してるだけだ、って。
その未来を決定するのは、今、ココにいるあたしたちよ。この世界に体を持たない白猫には、決定権が無い。ココとは遠い世界にいる白猫は、口を出すコトしかできない。だから延々アンタに指示を送って、軌道修正しまくってるのよ。
何度も言ったコトだけど、アンタがそのバカみたいな指示を聞きさえしなければ、そんなあやふや極まりない『予知』なんて、絶対外れる。ソレを現実のものにしてるのは、他でもないアンタよ」
「同じ答えは何度も返してるはずだよ」
葵が、刀に火を灯す。
「そうしなきゃ、もっと悪い未来になる。あんたも、あたしも、他の皆も、もっと悪い目に遭う」
「ソレも予知? 違うよね」
葛も、応じるように火を灯す。
「その言い訳をする度、言葉を濁してごまかしてる。はっきり何が起こるなんて、全然言わない。何故ならソレは、断言できないから。つまりソレって『絶対来ると確信してる予知』じゃなくて、『もしかしたら来るかも知れない予測』だからでしょ?
アンタは怖がってる――自分の予知を超えた、不確定の未来を。だから悪い結果になると分かってて、ソレでもその予知を現実にしようとする。
どんなに望まない未来でも、その方が自分に扱えると思ってるから。アンタはその素晴らしい予知能力のせいで、却って何にもできない、人並み以下の木偶の坊になってるのよ」
「……ッ!」
葛が指摘したその瞬間、葵のぼんやりとしていた顔に、初めて険が差した。
「それ以上、言わないでくれる?」
声色も、今までのようなぼんやりしたものではない。明らかに不快感を漂わせた、荒い声だった。
「『言わないで』? ソレは当たってるから? 自分は敷かれたレールの外を歩けない臆病者だって、認めるの?」
「黙れ!」
再度、葵が仕掛ける。
「『月輪』!」
ひゅぱっ、と音を立て、葵の前方に亀裂が走る。
「キレんな、このバカ姉貴ッ!」
葛は空中に跳び、ぐるんと体をひねって斬撃をかわす。
「アンタの預言、ブッ壊してやる。
あたしは死なない。あたし以外の誰かが死んだりもしない。ううん、誰も死なせたりなんかしない。
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