「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第9部
白猫夢・跳猫抄 9
麒麟を巡る話、第479話。
Beat The Oracle!;預言をブッ壊せ!
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9.
「……消えた。『星剣舞』だね」
葛が目の前から消えても、葵にうろたえた様子は無い。
「でもそれはもう、パパの時に見切ってる」
葵は刀を構え直し、周囲を警戒する様子を見せた。
この時、葵は周囲だけではなく、別のものを見ていた。
これまで散々と語ってきた、あの恐るべき予知能力によってもたらされた「複数の未来」――彼女たちが「スクリーン」と呼んでいたものである。
(『どの』カズラかな)
その何十もの「スクリーン」に、それぞれ違う世界が映し出される。その中の半分以上で、既に葛は事切れており、ぴくりとも動かない。
(これは、さっき仕留めた時のまま。カズラは生き返らなかった)
他の「スクリーン」にもまた、別の死に方をした葛が映し出されている。
(こっちは、復活しかけたカズラにとどめを刺してる。これも、生き返ったカズラに即、刀を投げつけて串刺しにしてる。これは、……そう、これだ)
やがて葵は、葛が生きている世界を発見する。そしてそこからたぐり寄せるように、別の、葛が生きている並行世界を比較対照していく。
(これも。
これも。これも。
これも。これも。これも。
これも。これも。これも。これも。これも。これも。これも。これも。これも。これも。これも。
そして、これも。……19通り、カズラはあたしの背後から斬りつけてくる)
葵はぐるんと踵を返し、やって来るはずの斬撃を待ち構える。
「……?」
しかし、数瞬待っても、葵は来るはずの衝撃を受けない。
「……いた……いっ!?」
肩から突然、痛みを感じる。思わず手を当て、そして愕然とした。
(今のは、なに? こんな未来は、一つも見えなかった)
それでもなお、葵は冷静さを失わず、次の予知を行う。
(ここから派生する未来は――待って? これ、どう言うこと?)
葵の目には、先程と変わらない世界が映っている。
相変わらず、別のある世界では、葵が葛の死骸を抱えて泣いている。別のある世界では、一聖が血塗れの葛を抱え、微動だにすること無くうずくまっている。また別のある世界では、復活した葛の首を、葵が刎ねている。
その30通り、40通りもの並行世界のどこにも、今、葵が受けたものと同じ事象は発生していなかった。
それを確認した途端、葵は生まれて初めて、刀を構えられないほどに狼狽した。
「なんで? なんで、あたしに分からないの?」
無意識に、言葉が漏れる。
「カズラ! あんた、どこにいるの!? 今、何をしてるの!?」
それは、彼女らしからぬ叫びだった。
「……くっ!」
混乱しつつも、葵はもう一度、未来を見ようと試みた。
「……えっ……?」
その瞬間、葵は信じられないものを見た。
葛が壁に磔にされた別の世界で、その前を一瞬、葛が横切ったのだ。
「いまの、なに……!?」
さらに別の、葛と一聖が並んで串刺しになった世界にも、葛が一瞬だけ現れて、すぐに消える。
いや、消えたのではなく――「スクリーン」から「スクリーン」へ飛び移るように、葛が移動しているのだ。
「なに……これ」
葵が、その場から弾かれる。
「ぐはっ……!」
刀が葵の手を離れ、遠くへ飛んで行く。
どうにか立ち上がるが、体のあちこちからボタボタと血を流しており、葵はすぐに膝を着いた。
「ど……どうして……?」
それに応じたのは、一聖だった。
「見えなかったか? お前の未来視の中に、『この世界の』葛は見当たらなかったか?」
「……!」
葵は一聖をにらみ、焦りきった声色で尋ねる。
「何か知ってるの!?」
「仮説ってレベルでだが、な」
一聖はニヤニヤと笑っていた。
「だけど教えてやんねー。そのままブッ飛ばされてろ」
「……ぅぅぅうう、うあ、ああああッ!」
葵は半ば野獣じみたうめき声を漏らし、踵を返す。
「分かってるか、葵?」
ふらふらとした足取りで逃げ出すその背中に、一聖は嘲った声をぶつけた。
「葛は死ななかったし、お前にはもう殺せない。
つまりお前さんが100%起こると豪語した予知、妹君に対してご大層に言い放ったあの預言は、完膚なきまでに外れたってワケだ。
この勝負、葛の完全勝利だ。言い訳したいってんなら聞くぜ?」
「……」
葵は振り返ることなく、その場から走り去った。
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「……消えた。『星剣舞』だね」
葛が目の前から消えても、葵にうろたえた様子は無い。
「でもそれはもう、パパの時に見切ってる」
葵は刀を構え直し、周囲を警戒する様子を見せた。
この時、葵は周囲だけではなく、別のものを見ていた。
これまで散々と語ってきた、あの恐るべき予知能力によってもたらされた「複数の未来」――彼女たちが「スクリーン」と呼んでいたものである。
(『どの』カズラかな)
その何十もの「スクリーン」に、それぞれ違う世界が映し出される。その中の半分以上で、既に葛は事切れており、ぴくりとも動かない。
(これは、さっき仕留めた時のまま。カズラは生き返らなかった)
他の「スクリーン」にもまた、別の死に方をした葛が映し出されている。
(こっちは、復活しかけたカズラにとどめを刺してる。これも、生き返ったカズラに即、刀を投げつけて串刺しにしてる。これは、……そう、これだ)
やがて葵は、葛が生きている世界を発見する。そしてそこからたぐり寄せるように、別の、葛が生きている並行世界を比較対照していく。
(これも。
これも。これも。
これも。これも。これも。
これも。これも。これも。これも。これも。これも。これも。これも。これも。これも。これも。
そして、これも。……19通り、カズラはあたしの背後から斬りつけてくる)
葵はぐるんと踵を返し、やって来るはずの斬撃を待ち構える。
「……?」
しかし、数瞬待っても、葵は来るはずの衝撃を受けない。
「……いた……いっ!?」
肩から突然、痛みを感じる。思わず手を当て、そして愕然とした。
(今のは、なに? こんな未来は、一つも見えなかった)
それでもなお、葵は冷静さを失わず、次の予知を行う。
(ここから派生する未来は――待って? これ、どう言うこと?)
葵の目には、先程と変わらない世界が映っている。
相変わらず、別のある世界では、葵が葛の死骸を抱えて泣いている。別のある世界では、一聖が血塗れの葛を抱え、微動だにすること無くうずくまっている。また別のある世界では、復活した葛の首を、葵が刎ねている。
その30通り、40通りもの並行世界のどこにも、今、葵が受けたものと同じ事象は発生していなかった。
それを確認した途端、葵は生まれて初めて、刀を構えられないほどに狼狽した。
「なんで? なんで、あたしに分からないの?」
無意識に、言葉が漏れる。
「カズラ! あんた、どこにいるの!? 今、何をしてるの!?」
それは、彼女らしからぬ叫びだった。
「……くっ!」
混乱しつつも、葵はもう一度、未来を見ようと試みた。
「……えっ……?」
その瞬間、葵は信じられないものを見た。
葛が壁に磔にされた別の世界で、その前を一瞬、葛が横切ったのだ。
「いまの、なに……!?」
さらに別の、葛と一聖が並んで串刺しになった世界にも、葛が一瞬だけ現れて、すぐに消える。
いや、消えたのではなく――「スクリーン」から「スクリーン」へ飛び移るように、葛が移動しているのだ。
「なに……これ」
葵が、その場から弾かれる。
「ぐはっ……!」
刀が葵の手を離れ、遠くへ飛んで行く。
どうにか立ち上がるが、体のあちこちからボタボタと血を流しており、葵はすぐに膝を着いた。
「ど……どうして……?」
それに応じたのは、一聖だった。
「見えなかったか? お前の未来視の中に、『この世界の』葛は見当たらなかったか?」
「……!」
葵は一聖をにらみ、焦りきった声色で尋ねる。
「何か知ってるの!?」
「仮説ってレベルでだが、な」
一聖はニヤニヤと笑っていた。
「だけど教えてやんねー。そのままブッ飛ばされてろ」
「……ぅぅぅうう、うあ、ああああッ!」
葵は半ば野獣じみたうめき声を漏らし、踵を返す。
「分かってるか、葵?」
ふらふらとした足取りで逃げ出すその背中に、一聖は嘲った声をぶつけた。
「葛は死ななかったし、お前にはもう殺せない。
つまりお前さんが100%起こると豪語した予知、妹君に対してご大層に言い放ったあの預言は、完膚なきまでに外れたってワケだ。
この勝負、葛の完全勝利だ。言い訳したいってんなら聞くぜ?」
「……」
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