「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第9部
白猫夢・跳猫抄 10
麒麟を巡る話、第480話。
跳び猫が跳んだ理屈。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
10.
いつの間にか床にへたり込んでいた葛に気付き、一聖が声をかける。
「よお」
「……」
「どうだった? 次元を飛び越えた気分は」
「アンタの話、……ようやく分かった気がする」
辛うじて上半身を起こしていた葛は、そこで仰向けに寝転がった。
「もー無理。マジ動けないー」
「そのまま寝てていい。もう葵は襲ってなんかきやしねーよ」
「そう?」
「葵にとっちゃコレ以上無いってくらいにショックを与えたんだ。立ち直るには時間がかかるさ」
「だといーけど」
と、ここで恐る恐る、ウォーレンが近付いてきた。
「すまないが……」
「お、目ぇ覚めたか」
「あれ? ……ウォーレンさん、生きてたの!?」
「ええ、何とか。
私は死人がいないか、少々見て回ってくる。その後で水か何か、持ってくる。それまで安静にしているといい」
「おう。後、食い物もあれば。できればチョコとか。とびきりうまいのがほしい」
「相分かった」
ウォーレンが去ったところで、葛はちょいちょい、と一聖に手招きする。
「ねえ、カズセちゃん」
「ん?」
「もう一回、整理させてもらっていい?」
「何をだ?」
「『星剣舞』ってどんな技かって言う、カズセちゃんの仮説」
「ああ、いいぜ」
一聖が傍らに座ったところで、葛は横になったまま、彼女に尋ね始めた。
「この技のすごいトコはな」
昨晩、葛の部屋。
一聖は「星剣舞」がどんな技であるか、その仮説を葛に聞かせていた。
「仮にこの世の全てを見通す目を持ってるヤツがいたとしても、その技を見切るコトは、ソイツにすら不可能なんだ」
「どうして?」
「ソレはな……」
一聖はどこからか光る金属板を取り出し、そこに図を描いて説明する。
「例えば今、この地点Pにお前さんが立ってるとする。そしてちょっと離れた地点Qに、葵のヤツが立ってるとする。
この状況において、お前さんは葵に攻撃を行おうとしている。……と言うのが、話の前提だ」
「うん」
「葵はこの平面上の、すべての場所を観測するコトができる。
当然、お前さんの動きもはっきり見えてて、お前さんがP地点からQ地点へどう動こうと、葵にはお見通しってワケだ。そしてその高々精度の観測によって、葵は万全の防衛体制を整えるコトができる。
その『観測』ってのが即ち、葵の予知能力だ。このままだと、お前さんは葵に傷一つ与えられないまま迎撃を受け、返り討ちにされる。ココまでは大丈夫だな?」
「うん」
「しかし葵のこの防衛体制には、一つの欠陥がある。ソレは『観測』によって得た情報を基にしている、ってコトだ。
逆に言えば、『観測』できないモノに対しては、全くの無防備なんだ」
「でもあたしがどう動こうと、観測できるんでしょ? じゃあ、観測できないモノって何も無いんじゃないの?」
「言ったろ? 葵は『この平面上の』すべての場所を観測してる、と。
ソコで、こうだ」
一聖は葛の机にあったメモ用紙を手に取り、そこに「R」と書いて金属板に貼り付ける。
「このR地点は見ての通り、このPとQが書かれた場所とは別のトコ、つまり別の次元にある。
お前さんがこのR地点に移れば、たちまち葵はお前さんを『観測』できなくなるし、そして何の防御策も講じられなくなる。
つまり、『星剣舞』ってのはそう言う技なんだ。別次元と自分の世界とを瞬間的に、須臾(しゅゆ)のうちに移動し、相手がどんな察知能力を持とうとも、無関係に攻撃できる。
この説はかなり有力だと思うぜ。何しろ昔、オレが晴奈の姉さんと戦った時、オレは誰にも真似できねーような、ソレこそさっき言ってた『全てを見通す目』に近い索敵術を使ったんだが、ソレでもまるで、姉さんの位置を捉えられなかったんだから、な。ソレはもう、この世から消えたとしか思えないくらいだったぜ。
勿論、この仮説にはちゃんと根拠がある。姉さんと戦った場所を後で調べてみたコトがあったんだが、ソコで夥しい数の空間振動痕が検出されたんだ。だけど、その時オレは『テレポート』を使ってなかったし、そもそも『テレポート』にしちゃ、あまりにも回数が多過ぎる。
何しろ計算上、1秒間に平均5~60回も使ってたコトになるからな。オレや親父でも、一瞬でそんなにポンポン移動できねー、って言うかそんな使い方する術じゃねーし。
世界最高レベルの索敵術ですら、姿を捉えられなかったコト。あり得ない数の、空間振動痕。ソコから導き出せる仮説は、一つだ――晴奈の姉さんはあの戦いの最中、『星剣舞』によってこの世界と別の世界を瞬間的に行き来し、敵にまったく気配を悟らせなかったんだろう。
つまりお前さんがもしも『星剣舞』を会得できれば、葵の予知能力を無力化できるし、罠の部屋を通らずに別の世界を経由し、その奥へ行けるってワケだ」
「うーん……?」
「あの時は何が何だか分かんなかった。……ううん、今でも自分が本当に、そんなコトしてたのかって言うのも、良く分かんない。
でも、……一回死にかけて、別の世界に逝きそうになったからかな。コツみたいなのは、つかんだ気がする」
「そっか。……疲れたから、オレもちっと横になるぜ」
一聖は素っ気なく返し、葛に背を向けて寝転んたが――葛はその一瞬、一聖がとても満足気に、そして嬉しそうに笑っているのを、確かに見た。
白猫夢・跳猫抄 終
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跳び猫が跳んだ理屈。
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いつの間にか床にへたり込んでいた葛に気付き、一聖が声をかける。
「よお」
「……」
「どうだった? 次元を飛び越えた気分は」
「アンタの話、……ようやく分かった気がする」
辛うじて上半身を起こしていた葛は、そこで仰向けに寝転がった。
「もー無理。マジ動けないー」
「そのまま寝てていい。もう葵は襲ってなんかきやしねーよ」
「そう?」
「葵にとっちゃコレ以上無いってくらいにショックを与えたんだ。立ち直るには時間がかかるさ」
「だといーけど」
と、ここで恐る恐る、ウォーレンが近付いてきた。
「すまないが……」
「お、目ぇ覚めたか」
「あれ? ……ウォーレンさん、生きてたの!?」
「ええ、何とか。
私は死人がいないか、少々見て回ってくる。その後で水か何か、持ってくる。それまで安静にしているといい」
「おう。後、食い物もあれば。できればチョコとか。とびきりうまいのがほしい」
「相分かった」
ウォーレンが去ったところで、葛はちょいちょい、と一聖に手招きする。
「ねえ、カズセちゃん」
「ん?」
「もう一回、整理させてもらっていい?」
「何をだ?」
「『星剣舞』ってどんな技かって言う、カズセちゃんの仮説」
「ああ、いいぜ」
一聖が傍らに座ったところで、葛は横になったまま、彼女に尋ね始めた。
「この技のすごいトコはな」
昨晩、葛の部屋。
一聖は「星剣舞」がどんな技であるか、その仮説を葛に聞かせていた。
「仮にこの世の全てを見通す目を持ってるヤツがいたとしても、その技を見切るコトは、ソイツにすら不可能なんだ」
「どうして?」
「ソレはな……」
一聖はどこからか光る金属板を取り出し、そこに図を描いて説明する。
「例えば今、この地点Pにお前さんが立ってるとする。そしてちょっと離れた地点Qに、葵のヤツが立ってるとする。
この状況において、お前さんは葵に攻撃を行おうとしている。……と言うのが、話の前提だ」
「うん」
「葵はこの平面上の、すべての場所を観測するコトができる。
当然、お前さんの動きもはっきり見えてて、お前さんがP地点からQ地点へどう動こうと、葵にはお見通しってワケだ。そしてその高々精度の観測によって、葵は万全の防衛体制を整えるコトができる。
その『観測』ってのが即ち、葵の予知能力だ。このままだと、お前さんは葵に傷一つ与えられないまま迎撃を受け、返り討ちにされる。ココまでは大丈夫だな?」
「うん」
「しかし葵のこの防衛体制には、一つの欠陥がある。ソレは『観測』によって得た情報を基にしている、ってコトだ。
逆に言えば、『観測』できないモノに対しては、全くの無防備なんだ」
「でもあたしがどう動こうと、観測できるんでしょ? じゃあ、観測できないモノって何も無いんじゃないの?」
「言ったろ? 葵は『この平面上の』すべての場所を観測してる、と。
ソコで、こうだ」
一聖は葛の机にあったメモ用紙を手に取り、そこに「R」と書いて金属板に貼り付ける。
「このR地点は見ての通り、このPとQが書かれた場所とは別のトコ、つまり別の次元にある。
お前さんがこのR地点に移れば、たちまち葵はお前さんを『観測』できなくなるし、そして何の防御策も講じられなくなる。
つまり、『星剣舞』ってのはそう言う技なんだ。別次元と自分の世界とを瞬間的に、須臾(しゅゆ)のうちに移動し、相手がどんな察知能力を持とうとも、無関係に攻撃できる。
この説はかなり有力だと思うぜ。何しろ昔、オレが晴奈の姉さんと戦った時、オレは誰にも真似できねーような、ソレこそさっき言ってた『全てを見通す目』に近い索敵術を使ったんだが、ソレでもまるで、姉さんの位置を捉えられなかったんだから、な。ソレはもう、この世から消えたとしか思えないくらいだったぜ。
勿論、この仮説にはちゃんと根拠がある。姉さんと戦った場所を後で調べてみたコトがあったんだが、ソコで夥しい数の空間振動痕が検出されたんだ。だけど、その時オレは『テレポート』を使ってなかったし、そもそも『テレポート』にしちゃ、あまりにも回数が多過ぎる。
何しろ計算上、1秒間に平均5~60回も使ってたコトになるからな。オレや親父でも、一瞬でそんなにポンポン移動できねー、って言うかそんな使い方する術じゃねーし。
世界最高レベルの索敵術ですら、姿を捉えられなかったコト。あり得ない数の、空間振動痕。ソコから導き出せる仮説は、一つだ――晴奈の姉さんはあの戦いの最中、『星剣舞』によってこの世界と別の世界を瞬間的に行き来し、敵にまったく気配を悟らせなかったんだろう。
つまりお前さんがもしも『星剣舞』を会得できれば、葵の予知能力を無力化できるし、罠の部屋を通らずに別の世界を経由し、その奥へ行けるってワケだ」
「うーん……?」
「あの時は何が何だか分かんなかった。……ううん、今でも自分が本当に、そんなコトしてたのかって言うのも、良く分かんない。
でも、……一回死にかけて、別の世界に逝きそうになったからかな。コツみたいなのは、つかんだ気がする」
「そっか。……疲れたから、オレもちっと横になるぜ」
一聖は素っ気なく返し、葛に背を向けて寝転んたが――葛はその一瞬、一聖がとても満足気に、そして嬉しそうに笑っているのを、確かに見た。
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