「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
双月千年世界 短編・掌編
白猫夢番外編 その6
麒麟を巡る話、とは関わりのない、別のところで。
緑猫の奇跡。
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白猫夢番外編 その6
「……」
目の前で起こったことが未だ把握できず、彼は呆然としていた。
「……ああ……どうしたものか……」
しばらく経って、ようやくそんな言葉を漏らす。
「大変なことになりましたね」
彼の背後に並んでいた警吏の一人が、そう返す。
「え、ええ。まさかこんなことが起こるとは」
「私もこの仕事に就いて長いですが、あんな人間を見たのは初めてですよ」
「同じく……」
彼は黒い山高帽を取り、額に浮かんだ汗を黒いハンカチで拭う。
「流石、……と言っていいものなのか」
「と仰ると?」
「ハーミット卿のお孫さん、だそうで」
「ほう、閣下の」
警吏たちは一様に驚いた様子を見せ、そして彼をなぐさめるように、口々に答えた。
「……まあ、しかし、これはまだ、有り得る事態ではないか、と」
「そ、そうでしょうか?」
「我々が見た限り、あの娘はとても若い。10代後半か、20代はじめか」
「そのくらいであれば、一瞬『こちら』を訪れても、何かしらのきっかけで戻っていく、と言うことは過去にもあったようですし」
「ええ、私も過去に何度か同様のことがあったと伺っています」
「多少なりとも異例な事態ではありますが、今回の件はその範疇にあるのではないか、と」
「……そう言っていただけると、多少は気が安らぎます」
汗を拭い終え、彼は帽子を被り直した。
と――。
「と、止めてくださーい!」
「戻って! 早く戻って!」
「帰らないでくださーい!」
彼らの背後、駅構内の方角から、同僚たちの慌てふためく声が近付いて来る。
「……!?」
振り向いた彼らの目に、先程と同様、彼岸へ誘われようとしていた者たちが、大勢で駆けて来るのが映る。
「ま、まさか」
「さっきのあの娘に影響された、……とか?」
彼と警吏たちは顔を見合わせ――大慌てで手にしていた警棒やステッキを構える。
「と、止めて下さい!」
「もっ、勿論です! 一人ならともかく……」
「あんなに何百人も現世に戻られては!」
彼らは一様に顔を蒼くしつつ、その群れを止めようと立ちはだかった。
双月暦573年は、後世のオカルト愛好者や奇跡・秘跡を信じる者にとっては、格好の話題を提供した年である。その年の半ば、世界各地、取り分け西方大陸において、数多くの臨死体験談が報告されたからだ。
しかもその体験談の多くは2つの共通項があり、その胡散臭い怪奇談に、妙な信憑性を与えていた。
曰く、その一つは、「どこか暗い駅の中を、全身真っ黒な服装の兎獣人に先導されていた」こと。
そしてもう一つは「その途中で緑髪の猫獣人がいきなり騒ぎ出して逃げ去るのを見て、自分も逃げなければと感じた」こと。
当時の人々にとっても、この不可思議な話は神秘的に取られたらしく――一時期は「緑猫の奇跡」として、巷で話題になったと言う。
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緑猫の奇跡。
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白猫夢番外編 その6
「……」
目の前で起こったことが未だ把握できず、彼は呆然としていた。
「……ああ……どうしたものか……」
しばらく経って、ようやくそんな言葉を漏らす。
「大変なことになりましたね」
彼の背後に並んでいた警吏の一人が、そう返す。
「え、ええ。まさかこんなことが起こるとは」
「私もこの仕事に就いて長いですが、あんな人間を見たのは初めてですよ」
「同じく……」
彼は黒い山高帽を取り、額に浮かんだ汗を黒いハンカチで拭う。
「流石、……と言っていいものなのか」
「と仰ると?」
「ハーミット卿のお孫さん、だそうで」
「ほう、閣下の」
警吏たちは一様に驚いた様子を見せ、そして彼をなぐさめるように、口々に答えた。
「……まあ、しかし、これはまだ、有り得る事態ではないか、と」
「そ、そうでしょうか?」
「我々が見た限り、あの娘はとても若い。10代後半か、20代はじめか」
「そのくらいであれば、一瞬『こちら』を訪れても、何かしらのきっかけで戻っていく、と言うことは過去にもあったようですし」
「ええ、私も過去に何度か同様のことがあったと伺っています」
「多少なりとも異例な事態ではありますが、今回の件はその範疇にあるのではないか、と」
「……そう言っていただけると、多少は気が安らぎます」
汗を拭い終え、彼は帽子を被り直した。
と――。
「と、止めてくださーい!」
「戻って! 早く戻って!」
「帰らないでくださーい!」
彼らの背後、駅構内の方角から、同僚たちの慌てふためく声が近付いて来る。
「……!?」
振り向いた彼らの目に、先程と同様、彼岸へ誘われようとしていた者たちが、大勢で駆けて来るのが映る。
「ま、まさか」
「さっきのあの娘に影響された、……とか?」
彼と警吏たちは顔を見合わせ――大慌てで手にしていた警棒やステッキを構える。
「と、止めて下さい!」
「もっ、勿論です! 一人ならともかく……」
「あんなに何百人も現世に戻られては!」
彼らは一様に顔を蒼くしつつ、その群れを止めようと立ちはだかった。
双月暦573年は、後世のオカルト愛好者や奇跡・秘跡を信じる者にとっては、格好の話題を提供した年である。その年の半ば、世界各地、取り分け西方大陸において、数多くの臨死体験談が報告されたからだ。
しかもその体験談の多くは2つの共通項があり、その胡散臭い怪奇談に、妙な信憑性を与えていた。
曰く、その一つは、「どこか暗い駅の中を、全身真っ黒な服装の兎獣人に先導されていた」こと。
そしてもう一つは「その途中で緑髪の猫獣人がいきなり騒ぎ出して逃げ去るのを見て、自分も逃げなければと感じた」こと。
当時の人々にとっても、この不可思議な話は神秘的に取られたらしく――一時期は「緑猫の奇跡」として、巷で話題になったと言う。
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これでますます予知はぐちゃぐちゃのバタフライエフェクト。
一聖さんそこまで考えていたとすれば策士です(^^)
一聖さんそこまで考えていたとすれば策士です(^^)
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