黄輪雑貨本店 新館


    短編・掌編

    Elder H……

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    Elder H……

    「こうして皆様にお集まりいただいたのは、他でもありません。
     つい先程、このペンションで起こった事件、即ち米良氏の失踪と、ペンション裏手にて身元不明の外国人の死体が発見された件についての……」
     ふあ、ああ……。分かりきったことじゃないか。犯人はあの二人だ。
     よく見てみろよ、あいつらの袖を。今夜はマイナス5度を切る極寒の夜だと言うのに、あいつらの袖にはまくった跡がある。
    「この2つの事件に関係性があるのかどうか、まずはそこから調べねばなりません」
     あのコートは薄手だし、まくること自体は不可能では無い。とは言え、何故こんなクソ寒い夜にコートを肘までめくる必要がある? 不自然極まりないと思わないのか?
     しかも室内でもずっと着たきりじゃないか。部屋の中には大型のストーブが設置されている。いくら外が寒いとは言え、コートを着たままにしている必要は無い。
     見てみろ、汗をダラダラとかいているじゃないか。無論、自分たちの犯罪が露見するのではないかと言う不安だけではない。単純に、暑すぎるからだ。
     では何故、コートを脱がない? これも理由は単純、犯行に使われた凶器をまだコートの中に隠しているからだ。
     あんなあからさまな違和感を怪しいと思わないのか、このヘッポコ警部補君は?
     まあ、事件発生にいち早く気付き、凶器を処分される前に、こうして全員を集めたところは評価してやらないではないが。
    「偶然居合わせました刑事であります、わたくしこと呉久が調べましたところ、米良氏に関しましては……」
     米良氏? それも単純明快だ。彼はあの二人が泊まる部屋に監禁されている。
     それは何故か? 彼はあの二人の犯行現場を見てしまったからだ。
     米良氏の部屋はちょうどあの犯行があったペンションの裏手だ。窓が開いていたと言うし、物音に気づいて外の様子を見たんだろう。そこをあの二人に見つかり、そのまま部屋に飛び込まれたんだ。
     うっすら残っていた「うろうろしていたような足跡」と言うのは、本来は二人が米良氏を窓から引っ張り出し、自分たちの部屋に放り込んだ際に付いたものだろう。
     だが米良氏と自分たちの部屋の前にしか足跡が無いんじゃ、誰がやったかなんて子供でも分かってしまう。だからペンションの裏手全体をぐるぐる回るように、足跡を付けたんだ。
    「裏手におびただしい足跡が残っていたことから、わたくしは犯人が外部の者である可能性が高く、また、手当たり次第に獲物を狙うタイプである、すなわち無差別殺人ではないかと……」
     はっ、無差別殺人と来たか! 大マヌケだ、このボンクラ刑事は!

     その後も延々と、呉久刑事は的外れのとんちんかんな推理をダラダラと披露し、ペンションに居合わせた私と弟、そして犯人たち以外の全員をいたずらに不安がらせることに終始していた。
    「……兄さん」
     と、弟が私に耳打ちしてくる。
    「なんだ?」
    「あの二人だよね?」
    「だろうな」
    「分かってるなら、言ってやりゃいいのに」
    「……」
     私は肩をすくめ、こう返した。
    「我々に被害が及ぶことはないだろう。彼らは目的を遂げたわけだし」
    「米良氏は助けられるだろ?」
    「かも知れんね」
    「知れんね、って……」
     弟は私と正反対の、やせた頬を紅潮させる。
    「人命が損なわれるかも知れないんだよ」
    「だろうな。……じゃ、いつも通りにやるかね?」
    「当然さ」
     苛立たしげにそう返すなり、弟は手を挙げた。
    「呉久警部補、ちょっとよろしいですか?」
    「すなわち、……え、あ、なんでしょう? いや、何故わたくしが警部補だと」
    「小学生でも分かる程度の推理ですから、そんなものの説明は省きます。
     それよりも警部補さん、あなたの推理はめちゃくちゃと言わざるを得ません」
     そう言って事件に介入し始めた弟を眺めながら、私はふあ、とまた欠伸をした。

     まったく……。あんな面倒事に毎度毎度、わざわざ首を突っ込まなくてもいいのに。
     お人好しだな、あいつも。
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