短編・掌編
大魔術師、再び立つ
大魔術師、再び立つ
「もう二度と来るんじゃ無いぞ、……じいさん、でいいのか?」
「見りゃ分かるじゃろ」
そうは言ってみたが、出口に突っ立っていた刑務官は、微妙な表情を浮かべておる。
まあ、そうじゃろうな。わしの見た目は30歳前の若者なんじゃから。
わしは偉大な魔術師である。
どれくらい偉大かと言うと、わしの研究を恐れ、妬んだ時の為政者によって冤罪にかけられ、20年もの熾烈な戦いの末、ようやく捕まったくらいには、大物じゃ。
ま、その某為政者もわしの秘術を盗み出すため、わしを即刻縛り首にするようなことはせず、250年という阿呆な刑期をわしに課して、監獄の中で根掘り葉掘り聞こうとしたようじゃが、結局あっちの方が、先に死んじまいおった。
残ったのはよく分からん罪での刑期、250年だけ。
一度、わしを投獄したやつの後釜から恩赦の打診が来たが、たまにはゆっくり休もうと考えていたわしは、あえてそれを蹴ってやった。
というわけでわしはこの250年、悠々自適に塀の中におったと言うわけじゃ。
ともかくその刑期も終わり、わしは2世紀半ぶりに外の世界に出た。
齢500年、いや、600? 違う、700じゃったかな……、まあええ。 それくらい長生きすると、1世紀や2世紀程度は大した時にはならぬ。
この250年も、わしにとっては一眠りも同然の時間じゃった。
が。
「……まだ夢でも見とるんかな、わし」
たった250年の間に、街はえらく変わっておった。
街道には鉄の箱が闊歩し、山か壁かと見紛う建物が軒を連ね、夜は昼と変わらん明るさで照らされておる。
街行く者を観察していたが、誰も彼もが独り言を話しておって、不気味この上ない。 いや、よくよく見れば耳に何か当てておる。どうやら通信の術か何からしい。
それを目にした瞬間、わしは今まで感じたことのない、嫌な予感を覚えた。
わしの隠れ家はとっくの昔に「ベッドタウン」なる場所に作り替えられており、わしは財産の一切を失っておった。
とは言え長い人生、そんな経験は二度や三度ではない。わしの秘術を持ってすれば、袋一杯の金銀財宝なぞ、いくらでも造れる。
ところが、いざ錬金に使う卑金属を買おうとしたところ、とんでもない額を突きつけられた。
「な、なんじゃそのぼったくりは!? 金より高いではないか!」
「いや、適正価格だと思いますよ……?」
250年前には単なる屑石であった素材も、その間に価値が見出されたらしく、ことごとく高騰しておった。
どうやら、わしが思っている以上に、この250年の技術向上はすさまじかったらしい。
錬金の一件だけに留まらず、わしが持つあらゆる技術は、現代の技術に凌駕されておった。
「しまった……。いくらなんでも、……ゆっくりし過ぎたか」
わしはついに窮し、行き場を失った。
7年後。
「素晴らしい成果ですね、博士」
「うむ」
「この超々タングステン・レニウムカーバイド鋼が量産化されれば、世界が一変しますよ!」
「うむうむ、そうじゃろうなぁ」
かつては大魔術師と称されたこのわしが、ただ膝を屈するだけで終わったと思ったか? 一念発起し、再度学び直したのじゃ。
元々、独力で数々の秘術を編み出したわしじゃ。心機一転して一から学ぶことなど、造作も無い。
そして現代技術を余すところ無く我が物としたところで、改めて己の研究を行うことにした。
その結果――わしはまた、魔術師と呼ばれるようになった。
「流石は『超合金の魔術師』。素晴らしい技術をお持ちだ。
我が軍はさらに、無敵の存在となるでしょうな」
「……うむ。そうじゃな、将軍閣下」
しかし、現代世界においても、あまりにも突出した技術を確立してしまったことで、わしはまた時の権力者から、こうして背後でにらまれる生活を送る羽目になってしまった。
ああ、うざったいことこの上無い。
かくなる上は、また「ゆっくり」してやろうかのぉ。……今度は300年くらい。
@au_ringさんをフォロー
「もう二度と来るんじゃ無いぞ、……じいさん、でいいのか?」
「見りゃ分かるじゃろ」
そうは言ってみたが、出口に突っ立っていた刑務官は、微妙な表情を浮かべておる。
まあ、そうじゃろうな。わしの見た目は30歳前の若者なんじゃから。
わしは偉大な魔術師である。
どれくらい偉大かと言うと、わしの研究を恐れ、妬んだ時の為政者によって冤罪にかけられ、20年もの熾烈な戦いの末、ようやく捕まったくらいには、大物じゃ。
ま、その某為政者もわしの秘術を盗み出すため、わしを即刻縛り首にするようなことはせず、250年という阿呆な刑期をわしに課して、監獄の中で根掘り葉掘り聞こうとしたようじゃが、結局あっちの方が、先に死んじまいおった。
残ったのはよく分からん罪での刑期、250年だけ。
一度、わしを投獄したやつの後釜から恩赦の打診が来たが、たまにはゆっくり休もうと考えていたわしは、あえてそれを蹴ってやった。
というわけでわしはこの250年、悠々自適に塀の中におったと言うわけじゃ。
ともかくその刑期も終わり、わしは2世紀半ぶりに外の世界に出た。
齢500年、いや、600? 違う、700じゃったかな……、まあええ。 それくらい長生きすると、1世紀や2世紀程度は大した時にはならぬ。
この250年も、わしにとっては一眠りも同然の時間じゃった。
が。
「……まだ夢でも見とるんかな、わし」
たった250年の間に、街はえらく変わっておった。
街道には鉄の箱が闊歩し、山か壁かと見紛う建物が軒を連ね、夜は昼と変わらん明るさで照らされておる。
街行く者を観察していたが、誰も彼もが独り言を話しておって、不気味この上ない。 いや、よくよく見れば耳に何か当てておる。どうやら通信の術か何からしい。
それを目にした瞬間、わしは今まで感じたことのない、嫌な予感を覚えた。
わしの隠れ家はとっくの昔に「ベッドタウン」なる場所に作り替えられており、わしは財産の一切を失っておった。
とは言え長い人生、そんな経験は二度や三度ではない。わしの秘術を持ってすれば、袋一杯の金銀財宝なぞ、いくらでも造れる。
ところが、いざ錬金に使う卑金属を買おうとしたところ、とんでもない額を突きつけられた。
「な、なんじゃそのぼったくりは!? 金より高いではないか!」
「いや、適正価格だと思いますよ……?」
250年前には単なる屑石であった素材も、その間に価値が見出されたらしく、ことごとく高騰しておった。
どうやら、わしが思っている以上に、この250年の技術向上はすさまじかったらしい。
錬金の一件だけに留まらず、わしが持つあらゆる技術は、現代の技術に凌駕されておった。
「しまった……。いくらなんでも、……ゆっくりし過ぎたか」
わしはついに窮し、行き場を失った。
7年後。
「素晴らしい成果ですね、博士」
「うむ」
「この超々タングステン・レニウムカーバイド鋼が量産化されれば、世界が一変しますよ!」
「うむうむ、そうじゃろうなぁ」
かつては大魔術師と称されたこのわしが、ただ膝を屈するだけで終わったと思ったか? 一念発起し、再度学び直したのじゃ。
元々、独力で数々の秘術を編み出したわしじゃ。心機一転して一から学ぶことなど、造作も無い。
そして現代技術を余すところ無く我が物としたところで、改めて己の研究を行うことにした。
その結果――わしはまた、魔術師と呼ばれるようになった。
「流石は『超合金の魔術師』。素晴らしい技術をお持ちだ。
我が軍はさらに、無敵の存在となるでしょうな」
「……うむ。そうじゃな、将軍閣下」
しかし、現代世界においても、あまりにも突出した技術を確立してしまったことで、わしはまた時の権力者から、こうして背後でにらまれる生活を送る羽目になってしまった。
ああ、うざったいことこの上無い。
かくなる上は、また「ゆっくり」してやろうかのぉ。……今度は300年くらい。
- 関連記事
-
-
リンクまちがい 2015/09/13
-
LEGEND OF SERENDIPITY 2015/09/06
-
大魔術師、再び立つ 2014/12/30
-
HYPER POSITION ADVENTURE 2014/12/29
-
Elder H…… 2014/12/28
-



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
こんにちは
本年は、健康問題など、いろいろとお気遣い頂き
ありがとうございました。
また、いつもカレンダー記事からの参照表示をして頂き
誠にありがとうございました。
来年も、何卒よろしくお願いいたします。
ありがとうございました。
本年は、健康問題など、いろいろとお気遣い頂き
ありがとうございました。
また、いつもカレンダー記事からの参照表示をして頂き
誠にありがとうございました。
来年も、何卒よろしくお願いいたします。
ありがとうございました。
- #2108 TageSP
- URL
- 2014.12/31 13:34
- ▲EntryTop
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
NoTitle
本年もよろしくお願いいたします。