「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第9部
白猫夢・奇縁抄 2
麒麟を巡る話、第482話。
白猫党の西方攻略計画。
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2.
場所をウォーレンの私室に移し、葛たちはウォーレンの話を聞くことにした。
「何ですか、お話って?」
「君の姉君が関わっていると言う、白猫党についてだ」
「白猫党?」
「うむ。我々黒炎教団もそれなりの情報網を有しており、特にここ数年は白猫党の動向に注目している。570年における央中侵攻は、下手をすれば我々の勢力圏にまで踏み込まれる恐れがあったからな。
それで、だ。その侮りがたき政治結社、白猫党が、君の祖国であるプラティノアールへ密かに侵入し、既に国家権力を掌握している、と言う情報を得た」
「えっ……!?」
驚いた声を漏らした葛に、ウォーレンは深々とうなずいて返す。
「やはり存じていなかったか。私も聞いただけではあるが、信憑性は極めて高い。どうやら昨年、一昨年の経済混乱に乗じ、救済を名目として王室政府に擦り寄り、そのまますり替わったようだ。国王とその一族は既に軟禁状態にあり、大臣や省庁・軍部の高官らも軒並み更迭・放逐されたと言う。
いや、君が知らぬのは無理も無いことだ。彼奴らの本懐からすれば、決して他国に、あまつさえ隣国にも、決して事情を知られてはならないだろうからな」
「どう言うコトですか?」
「彼奴らは西方人の考えるような常道、つまり西方南部三国を攻略・奪取しようとは考えていないらしい。どうも真逆へと、攻めを進めるつもりでいるようだ」
「真逆? ソレってつまり……」
「うむ。プラティノアール東側の隣国、マチェレ王国を皮切りに、そのまま西方東部を沿岸伝いに侵攻しようと目論んでいるらしいのだ」
「そんな……!」
外国の血筋であるとは言え、生まれも育ちも西方である葛は、予想外の展開に驚いていた。
「私も西方暮らしが長いし、君の驚きは察するに余りある。しかしかなり有力な情報とのことだ。
故につい今朝方、我々一同に対し可及的速やかにこの国を去るよう、黒鳥宮より追加の通達があったのだ。まだ部下たちには知らせていないが、彼らも恐らく君と同様、驚くことだろうな」
「そりゃ、もう」
葛は強い不安を覚えながら、ウォーレンに尋ねる。
「すぐに帰れって命令されたってコトは、白猫党の侵攻が近いってコトでしょうか?」
「ああ。白猫党が新造した戦艦、『ホーリー・ホック』をはじめとする海軍勢力がプラティノアールの港に到着したとの情報もある。また、既に陸軍勢力は到着済みであり、国境近辺への配備も完了しているとのことだ。
後は白猫軍司令の命令さえあれば、彼奴らはすぐにでも国境を突破し、海上を封鎖して、マチェレの首都、ブリックロードを陥落せしめるだろう。
彼奴らが数日以内に攻め込むつもりでいるのは、まず間違いあるまい」
「……」
それを聞き、葛は黙り込んだ。
「カズラ」
と、そこで一聖が口を開く。
「とりあえず、オレたちがやるべきコトは3つしかねーぜ」
「……そだね。まずは、帝国に帰らなきゃ」
「ああ。休学届出して、ソレからこの国、いや、西方を出る」
「うん。ソレから修行、だね」
「ああ。『星剣舞』のコツはつかめただろうが、まだ自由自在ってワケじゃねーしな。何とかそのレベルまで達してもらわねーと、な」
「うん、分かってる。……あとは」
「ルナたちを助けに、だ」
「うん。……でも」
「でも?」
葛はチラ、と一聖の顔を伺う。
「故郷がコレからズタズタにされそうだって言うのに、あたしには、何にもできないんだね」
「仕方ねーさ。お前さんにゃ、まだ力は無いんだ。政治力も、剣術の腕も、な。
だけどオレの見立てじゃ、お前さんはきっとその両方を手に入れられるはずさ。まあ、政治方面はオレにゃ正直分かんねーけど、もういっこの方は保証するぜ」
「……頑張るよ。あたしにできるコトは、ソレしか無いもんね」
葛は心に浮かびそうになったいくつかの暗い感情をぐっとこらえ、にこっと笑って見せた。
「おう」
「私も応援させてもらう」
葛は一聖とウォーレン、二人の手を取り、がっちりと握りしめた。
「よろしくね、二人とも」
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白猫党の西方攻略計画。
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場所をウォーレンの私室に移し、葛たちはウォーレンの話を聞くことにした。
「何ですか、お話って?」
「君の姉君が関わっていると言う、白猫党についてだ」
「白猫党?」
「うむ。我々黒炎教団もそれなりの情報網を有しており、特にここ数年は白猫党の動向に注目している。570年における央中侵攻は、下手をすれば我々の勢力圏にまで踏み込まれる恐れがあったからな。
それで、だ。その侮りがたき政治結社、白猫党が、君の祖国であるプラティノアールへ密かに侵入し、既に国家権力を掌握している、と言う情報を得た」
「えっ……!?」
驚いた声を漏らした葛に、ウォーレンは深々とうなずいて返す。
「やはり存じていなかったか。私も聞いただけではあるが、信憑性は極めて高い。どうやら昨年、一昨年の経済混乱に乗じ、救済を名目として王室政府に擦り寄り、そのまますり替わったようだ。国王とその一族は既に軟禁状態にあり、大臣や省庁・軍部の高官らも軒並み更迭・放逐されたと言う。
いや、君が知らぬのは無理も無いことだ。彼奴らの本懐からすれば、決して他国に、あまつさえ隣国にも、決して事情を知られてはならないだろうからな」
「どう言うコトですか?」
「彼奴らは西方人の考えるような常道、つまり西方南部三国を攻略・奪取しようとは考えていないらしい。どうも真逆へと、攻めを進めるつもりでいるようだ」
「真逆? ソレってつまり……」
「うむ。プラティノアール東側の隣国、マチェレ王国を皮切りに、そのまま西方東部を沿岸伝いに侵攻しようと目論んでいるらしいのだ」
「そんな……!」
外国の血筋であるとは言え、生まれも育ちも西方である葛は、予想外の展開に驚いていた。
「私も西方暮らしが長いし、君の驚きは察するに余りある。しかしかなり有力な情報とのことだ。
故につい今朝方、我々一同に対し可及的速やかにこの国を去るよう、黒鳥宮より追加の通達があったのだ。まだ部下たちには知らせていないが、彼らも恐らく君と同様、驚くことだろうな」
「そりゃ、もう」
葛は強い不安を覚えながら、ウォーレンに尋ねる。
「すぐに帰れって命令されたってコトは、白猫党の侵攻が近いってコトでしょうか?」
「ああ。白猫党が新造した戦艦、『ホーリー・ホック』をはじめとする海軍勢力がプラティノアールの港に到着したとの情報もある。また、既に陸軍勢力は到着済みであり、国境近辺への配備も完了しているとのことだ。
後は白猫軍司令の命令さえあれば、彼奴らはすぐにでも国境を突破し、海上を封鎖して、マチェレの首都、ブリックロードを陥落せしめるだろう。
彼奴らが数日以内に攻め込むつもりでいるのは、まず間違いあるまい」
「……」
それを聞き、葛は黙り込んだ。
「カズラ」
と、そこで一聖が口を開く。
「とりあえず、オレたちがやるべきコトは3つしかねーぜ」
「……そだね。まずは、帝国に帰らなきゃ」
「ああ。休学届出して、ソレからこの国、いや、西方を出る」
「うん。ソレから修行、だね」
「ああ。『星剣舞』のコツはつかめただろうが、まだ自由自在ってワケじゃねーしな。何とかそのレベルまで達してもらわねーと、な」
「うん、分かってる。……あとは」
「ルナたちを助けに、だ」
「うん。……でも」
「でも?」
葛はチラ、と一聖の顔を伺う。
「故郷がコレからズタズタにされそうだって言うのに、あたしには、何にもできないんだね」
「仕方ねーさ。お前さんにゃ、まだ力は無いんだ。政治力も、剣術の腕も、な。
だけどオレの見立てじゃ、お前さんはきっとその両方を手に入れられるはずさ。まあ、政治方面はオレにゃ正直分かんねーけど、もういっこの方は保証するぜ」
「……頑張るよ。あたしにできるコトは、ソレしか無いもんね」
葛は心に浮かびそうになったいくつかの暗い感情をぐっとこらえ、にこっと笑って見せた。
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