「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第9部
白猫夢・奇縁抄 4
麒麟を巡る話、第484話。
スタッガート夫妻の心配。
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4.
秋也たちは葛の壮行会として、帝国の知人らを呼んで食事会を催すことにした。
「急な話でしたのに、こうして娘のためにお集まりいただき、誠に……」「おい、おい、シュウヤ!」
堅い挨拶をしかけた秋也の肩を、サンデルがバンバンと叩く。
「内々での集まりではないか! そんな格式張った文字なぞ並べてどうする!」
「……んじゃ、ざっくり行きましょうか。
コレから中央で新たな勉強に励む葛を、応援してやって下さい! それじゃ乾杯っ!」
「乾杯!」
乾杯の音頭が終わり、各々が会の主役、葛の元にやって来る。
「しかし思い切ったものだな、カズラ君」
「まったくであるな。今の大学でも、それなりに評価されておるそうではないか」
「そのまま大学院に進むこともできると聞いたけれど……」
口々に質問をぶつけられ、葛はしどろもどろに答える。
「あの、えっと、確かに今のままでも問題は無いですけど、でも、もう少し踏み込んだ研究を、えっと、実地で? したいなって」
「ふーむ……」
と、リヴィエル卿が首をかしげる。
「元々、君の研究テーマは西方南部三国における商業変遷と、それに関する政治の役割についてでは無かったか?
しかし聞いた話によれば、急に央中の研究を始めたと言うではないか」
「あっ、……えーと」「ソコはソレ」
葛が返答に窮したところで、一聖が口を挟んでくる。
「あの謎多き大商人のコトだ。直接は南部にゃ行ってねーらしいが、貿易は頻繁にやってたらしいしな。だからその関係で何かしら……」
一聖が知識人らを煙に巻きつつ、手でこそっと葛に離れるよう促す。
(んじゃ、お願いっ)(おう、任しとけ)
葛は一聖の好意に甘え、そっとその場から離れた。
「……ふー」
話の輪から離れたところで、葛は部屋の中を一瞥する。
(そー言や昔、アイツが天狐ゼミ行くってなった時も、こーして壮行会やってたんだっけ)
眺めている間に、その「前回」も参加していた人物――スタッガート夫妻と目が合う。
「ねえ、カズラちゃん」
と、アルピナが声をかける。
「あ、はい」
「さっき、あの黒い『狼』の方から聞いた話だけど、もうすぐ王国……、と言うか王国を牛耳った白猫党が、東部方面に戦争を仕掛けようとしているって、本当?」
「らしいです。確かな情報筋からだって」
「そう……」
揃って沈んだ表情を見せたスタッガート夫妻を見て、葛は「あ」と声を上げた。
「そっか、カリナちゃんって」
「ああ。マチェレ王国にいるんだ」
娘の身を案じ、腕を組んでうなるユーゲンに、葛は恐る恐る提案する。
「あの、もし良かったらあたしが迎えに行きましょうか? パッと行ける方法がありますから」
「いやいや」
一転、ユーゲンはぎこちない笑顔を見せる。
「何も開戦すれば即、一国全体が滅亡すると決まったわけじゃない。
恐らく国境付近が襲われはするだろうが、カリナのいる寄宿舎はマチェレの、割りと北の方にあるからね。カリナが戦火に晒されるようなことは、まず無いさ」
「とは言え、しばらく連絡はできなくなるかも知れないけれどね」
「それなんだよなぁ……。無事だとは思うんだ。思ってはいるんだが、手紙や電話ができなくなると思うと……」
しょんぼりしたユーゲンを見て、葛はクスっと笑う。
「あ、……ごめんなさい」
「いいのよ。この人が心配性なだけだから」
アルピナも夫の肩をポンと叩きながら、クスクスと笑って返した。
「心配にもなるじゃないか。ただでさえ4年会ってないんだから」
「まあ、それはそうだけど。きっとあの子はあの子で、気楽にやってるわよ」
「君に似ていればね。しかし昔から良く、僕似と言われていたし」
「そうね。じゃあもしかしたら、あの子も心細く思ってるかも知れないけれど……」
「……むう」
再び難しい顔をするユーゲンに、アルピナが肩をすくめる。
「まあ、ここで気を揉んでいたって仕方ないわ。もしも本当に危なそうだってことになったら、その時こそ助けに行きましょう?」
「ああ、そうだな」
と――二人の会話を傍で聞いていた葛は、己のことをぼんやりと顧みていた。
(そー言や、あたしってどっち似なんだろ。
昔っからばーちゃん似って言われたコトは結構あったけど、親のどっちって話、あんまり聞いたコト無いよね……?)
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スタッガート夫妻の心配。
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秋也たちは葛の壮行会として、帝国の知人らを呼んで食事会を催すことにした。
「急な話でしたのに、こうして娘のためにお集まりいただき、誠に……」「おい、おい、シュウヤ!」
堅い挨拶をしかけた秋也の肩を、サンデルがバンバンと叩く。
「内々での集まりではないか! そんな格式張った文字なぞ並べてどうする!」
「……んじゃ、ざっくり行きましょうか。
コレから中央で新たな勉強に励む葛を、応援してやって下さい! それじゃ乾杯っ!」
「乾杯!」
乾杯の音頭が終わり、各々が会の主役、葛の元にやって来る。
「しかし思い切ったものだな、カズラ君」
「まったくであるな。今の大学でも、それなりに評価されておるそうではないか」
「そのまま大学院に進むこともできると聞いたけれど……」
口々に質問をぶつけられ、葛はしどろもどろに答える。
「あの、えっと、確かに今のままでも問題は無いですけど、でも、もう少し踏み込んだ研究を、えっと、実地で? したいなって」
「ふーむ……」
と、リヴィエル卿が首をかしげる。
「元々、君の研究テーマは西方南部三国における商業変遷と、それに関する政治の役割についてでは無かったか?
しかし聞いた話によれば、急に央中の研究を始めたと言うではないか」
「あっ、……えーと」「ソコはソレ」
葛が返答に窮したところで、一聖が口を挟んでくる。
「あの謎多き大商人のコトだ。直接は南部にゃ行ってねーらしいが、貿易は頻繁にやってたらしいしな。だからその関係で何かしら……」
一聖が知識人らを煙に巻きつつ、手でこそっと葛に離れるよう促す。
(んじゃ、お願いっ)(おう、任しとけ)
葛は一聖の好意に甘え、そっとその場から離れた。
「……ふー」
話の輪から離れたところで、葛は部屋の中を一瞥する。
(そー言や昔、アイツが天狐ゼミ行くってなった時も、こーして壮行会やってたんだっけ)
眺めている間に、その「前回」も参加していた人物――スタッガート夫妻と目が合う。
「ねえ、カズラちゃん」
と、アルピナが声をかける。
「あ、はい」
「さっき、あの黒い『狼』の方から聞いた話だけど、もうすぐ王国……、と言うか王国を牛耳った白猫党が、東部方面に戦争を仕掛けようとしているって、本当?」
「らしいです。確かな情報筋からだって」
「そう……」
揃って沈んだ表情を見せたスタッガート夫妻を見て、葛は「あ」と声を上げた。
「そっか、カリナちゃんって」
「ああ。マチェレ王国にいるんだ」
娘の身を案じ、腕を組んでうなるユーゲンに、葛は恐る恐る提案する。
「あの、もし良かったらあたしが迎えに行きましょうか? パッと行ける方法がありますから」
「いやいや」
一転、ユーゲンはぎこちない笑顔を見せる。
「何も開戦すれば即、一国全体が滅亡すると決まったわけじゃない。
恐らく国境付近が襲われはするだろうが、カリナのいる寄宿舎はマチェレの、割りと北の方にあるからね。カリナが戦火に晒されるようなことは、まず無いさ」
「とは言え、しばらく連絡はできなくなるかも知れないけれどね」
「それなんだよなぁ……。無事だとは思うんだ。思ってはいるんだが、手紙や電話ができなくなると思うと……」
しょんぼりしたユーゲンを見て、葛はクスっと笑う。
「あ、……ごめんなさい」
「いいのよ。この人が心配性なだけだから」
アルピナも夫の肩をポンと叩きながら、クスクスと笑って返した。
「心配にもなるじゃないか。ただでさえ4年会ってないんだから」
「まあ、それはそうだけど。きっとあの子はあの子で、気楽にやってるわよ」
「君に似ていればね。しかし昔から良く、僕似と言われていたし」
「そうね。じゃあもしかしたら、あの子も心細く思ってるかも知れないけれど……」
「……むう」
再び難しい顔をするユーゲンに、アルピナが肩をすくめる。
「まあ、ここで気を揉んでいたって仕方ないわ。もしも本当に危なそうだってことになったら、その時こそ助けに行きましょう?」
「ああ、そうだな」
と――二人の会話を傍で聞いていた葛は、己のことをぼんやりと顧みていた。
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