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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第9部

    白猫夢・奇縁抄 5

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    麒麟を巡る話、第485話。
    遺伝と因縁。

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    5.
     ちょうど秋也たち夫妻も会話が一段落したようだったので、葛は早速、先程浮かんだ疑問を尋ねてみることにした。
    「え?」
    「自分がどっち似か、……って?」
    「うん。あたし、セイナばーちゃんとかジーナばーちゃんには良く似てるって言われるけど、パパ似とかママ似とか言われたコト無いなー、って」
    「あー、そうだな。確かにそうかも」
     秋也は腕を組み、やや間を置いて答える。
    「ベルにはそんなに似てないかも知れないな。顔立ちを見る感じだと、やっぱ央南っぽさがある」
    「そだね。髪とか耳、尻尾の色以外は、全体的にシュウヤっぽさがある」
    「そっかー」
     そう答えて、続いてこんな風に尋ね返す。
    「じゃあむしろ、あたしにママっぽさってある?」
    「そりゃあるよ」
     秋也は苦笑しつつ、葛の鼻を指差す。
    「鼻の形は、ベルそっくりだ。耳も、毛色は確かに違うけど、形なんかはそのまんま、ベルだよ。
     ……何だよ、まさか『自分は本当にパパとママの子供なの?』ってアレか?」
     いたずらっぽく笑う秋也に、葛は肩をすくめる。
    「まさかー。『星剣舞』使えて家族皆に似てるって言われて、ソレで本当の子供じゃないって結論は無いよー。
     ……あれ」
     と、葛の中にほんのわずかだが、疑念が生じる。
    「じゃあ、……姉貴は?」
    「葵か?」
    「うん。姉貴はソレこそ、誰にも似てないって言われてた気がする。いっつも眠たそうな顔してたからかな。ソレとも……」
    「ないない」
     この問いには、夫婦揃って否定を返された。
    「正真正銘、オレとベルの子供だよ。お前も、葵も。
     ソレに、一人だけ似てるって言われてた人はいるよ。ですよね、お義母さん」
    「うむ」
     いつの間にか近くに来ていたジーナが、深々とうなずく。
    「わしが見たところ、アオイはネロに良く似ておったよ」
    「へ? ……そっかなー?」
     思い返してみるが、いつもにこやかだったハーミット卿の顔と、葵の感情をほとんど表さなかった顔が、どうしても葛の中では重ならない。
     その様子を見て、ジーナはこう続ける。
    「納得行かん様子じゃな」
    「うーん」
    「じゃが、ほれ、例えばアオイがにこーっと笑っておるか、ネロがぐっすり寝ておるかと言うような顔を思い浮かべてごらん。であれば納得もできるじゃろ」
    「う、……うーん?」
     ジーナの言ったことを頭の中で試してはみたが、葵が満面の笑みを浮かべている様子も、ハーミット卿の寝ぼけている顔も、葛には想像が付かなかった。
    「ふーむ……。どちらかを見られれば納得もできるじゃろうが……、流石にネロの方は無理じゃし」
    「そだね……。多分、姉貴の方も無理だよ」
    「うん?」
     と、ジーナが意外そうな顔を向けてくる。
    「カズラ、お主いつからアオイのことを『姉貴』と呼ぶようになった?」
    「え?」
    「あ、そう言やそうだ。なーんか違和感あるなって思ったら」
     秋也もうなずきつつ、こう尋ねる。
    「ずっとお前、アオイのコトは『ねーちゃん』って呼んでただろ? いつの間に『姉貴』なんて蓮っ葉な言い方するようになったんだ?」
    「……ちょっと、前から、かな」

     自分の父親を平然と傷め付け、そして自分をことごとく侮った葵のことを、葛は少なからず憎み始めていた。
    (なんか……なんかさぁ)
     最近に至っては、葵のことを考える度、自分の中でとても嫌な感情が湧き上がるようになっていた。
    (……なんかもう、あたし、コレから先一生、アイツのコトを許せない気がするよ)

     と、ジーナが心配そうな目で見つめていることに気付き、葛は取り繕う。
    「……大丈夫だよ。心配しないでいいから」
    「カズラ」
     しかしジーナは表情を崩さず、こう言った。
    「お主が今、何をどう思っておるかは知るべくも無いが、これだけは言うておくぞ。
     アオイは普段から感情を表す子ではなかったし、ややもすれば無情に取られることもある。じゃが、心根は優しい子じゃ。
     もしも今、カズラがそうは思えなくなっておったとしてもじゃ、あの子にはあの子なりの考えがあって、そして、その考えに基づいて行動しておるはずじゃ。決して他人任せにするような子ではないからの。
     じゃから――今は無理かも知れんが――信頼してやるんじゃ。アオイは結果的には家族のために、取り分けカズラ、お主のために行動しておるはずじゃ、とな」
    「……」
     葛はうなずかず、無言で祖母から離れた。
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