「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第4部
蒼天剣・黒峰録 4
晴奈の話、第171話。
女戦士V.S.女戦士。
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4.
時刻は6時になり、夏でも肌寒い屏風山脈の風が、より冷たく吹き始めていた。
宮内に通された晴奈は、宮内の至るところで怒りと恨み、好奇の視線を向けられていた。焔に対する怒り。ウィルバーを初めとする、彼らの同胞たちを討った恨み。
そして「なぜウェンディ卿が、この女を呼んだのだろうか?」と言う好奇の目である。
(息が詰まりそうだ)
晴奈はひたすら黙ったまま、ウェンディのいる北修練場へと進んでいった。
「よく来たわね」
北修練場に着いてすぐ、ウェンディが出迎えた。
昼頃に見た司教の祭服ではなく、ウィルバーと同列の、高位の僧兵が身にまとう戦闘服を着込んでいる。
そしてその脇には、矛が突き立てられていた。
「あなたは焔流の剣士と言うことだから当然、刀使いね。私は矛を使うわ」
ウェンディが矛を手に取り構えた瞬間、晴奈はぞっとした。
(この殺気――相当な腕前か)
晴奈も刀を抜くが、その身のこなしに精彩を欠いているのが、自分でもはっきり分かる。
対するウェンディも晴奈の動揺を見透かしたらしく、侮った口調で尋ねられる。
「どうしたの? 臆した?」
「……まさか」
晴奈はウェンディとの間を詰めながら、ぽつりと尋ねる。
「何故、私をここに呼んだのです?」
「言ったはずよ。あなたの力量を知りたいの」
「それだけ、ですか?」
「他に何があると?」
「私を、ここに……」「ここに閉じ込めて、袋叩き?」
晴奈の言葉を先読みして、ウェンディは笑う。
「あはは、そんなわけ無いじゃない。
確かにあなたは焔だし、敵よ。でも休戦した今、わざわざリンチする理由は無いわ。もしそんなことをして焔から恨みを買えば、また戦争になるかも知れない。そうなれば教団に多大な危険が及ぶことになる。
黒炎教団員50万の命を取るに足らない私情で振り回し、無碍に扱うほど、私たちウィルソン家の人間のほとんどは、愚かでも残酷でも無いわ。
だからコウさん、あなたの命は保障してあげる。……誇りまでは、保障しないけれど」
そこで言葉を切り、ウェンディは矛を振り上げて襲いかかってきた。
ウィルバーの戦い方を「烈」とするならば、ウェンディのそれは「轟」であった。
手先だけではない、腕や肩、脚、腰と言った体全体の回転を加えることにより、一撃、一撃が強烈なうなりを上げて、防御を貫く。
「が……ッ」
攻撃を刀で受けるも、その衝撃はそのまま刀を通り抜け、晴奈自身に流れてくる。一撃受ける度に晴奈の体が一瞬浮き、押され、弾かれて、晴奈の体力を確実に削り取っていく。
「ほら、どうしたの!?」
ウェンディが体を大きくひねり、矛をぐるんと、縦に半回転させる。矛の柄がしなるほどの猛烈なその威力を、晴奈は余すところなくぶつけられた。
「くっ、う……」
自分より頭半分背の低い相手から到底出てくると思えないような、猛烈で鋭いその攻撃に、晴奈は翻弄されていた。
だが、何度も得物を交えるうち、晴奈の心は次第に冷静さを取り戻していく。
(ともかく、だ。ともかく、恨みつらみの勝負ではなかった、それは確かだ。ならば何も、気を使う必要は無い。
遠慮も、配慮も、思慮も――慮ること、一切無用!)
また、ウェンディの回転払いが来る。それが届く直前、晴奈は飛び上がった。矛はゴウ、と音を立てて空を切るが、晴奈はその上、空中でやり過ごす。
矛をそのままぐるんと一回転させたところで、ウェンディがニヤッと笑う。
「そう来なくちゃ、……ねッ!」
平面的に流れていた矛が、今度は垂直に跳ねる。
矛の先端がそのまま真上にいた晴奈へ向かい、伸びていくが――。
「まだ、まだあッ!」
晴奈は矛を刀で受け、その衝撃を上に逃がす形でいなす。
晴奈の体はさらに上へ跳び、ウェンディの頭上高くへと舞う。
「なッ……!?」
晴奈の跳躍した距離はウェンディの予想を上回ったらしく、彼女の目が一瞬、点になる。
「く、この……!」
それでもウェンディは即応し、矛を頭上の晴奈へ向かって突き出す。その先端が晴奈に達しようかと言う、その瞬間――。
「あなたの……」
晴奈は刀の鍔元を矛の先とがぢ、とかみ合わせ、柄と刀身の背を持ってぐりっとひねる。
「あ……っ!」
刀と矛が絡まり、上に向かって伸ばしていたウェンディの手から、矛の柄が離れる。
完全に空中に浮いた矛を伝って、晴奈はその柄を滑る。矛が地面に落ちたその瞬間、晴奈は柄を蹴ってウェンディとの距離を一瞬で詰め――。
「……あなたの負けだ」
文字通り、あっと言う間に決着は付いた。
晴奈の刀が、ウェンディの首筋に当たっていた。
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4.
時刻は6時になり、夏でも肌寒い屏風山脈の風が、より冷たく吹き始めていた。
宮内に通された晴奈は、宮内の至るところで怒りと恨み、好奇の視線を向けられていた。焔に対する怒り。ウィルバーを初めとする、彼らの同胞たちを討った恨み。
そして「なぜウェンディ卿が、この女を呼んだのだろうか?」と言う好奇の目である。
(息が詰まりそうだ)
晴奈はひたすら黙ったまま、ウェンディのいる北修練場へと進んでいった。
「よく来たわね」
北修練場に着いてすぐ、ウェンディが出迎えた。
昼頃に見た司教の祭服ではなく、ウィルバーと同列の、高位の僧兵が身にまとう戦闘服を着込んでいる。
そしてその脇には、矛が突き立てられていた。
「あなたは焔流の剣士と言うことだから当然、刀使いね。私は矛を使うわ」
ウェンディが矛を手に取り構えた瞬間、晴奈はぞっとした。
(この殺気――相当な腕前か)
晴奈も刀を抜くが、その身のこなしに精彩を欠いているのが、自分でもはっきり分かる。
対するウェンディも晴奈の動揺を見透かしたらしく、侮った口調で尋ねられる。
「どうしたの? 臆した?」
「……まさか」
晴奈はウェンディとの間を詰めながら、ぽつりと尋ねる。
「何故、私をここに呼んだのです?」
「言ったはずよ。あなたの力量を知りたいの」
「それだけ、ですか?」
「他に何があると?」
「私を、ここに……」「ここに閉じ込めて、袋叩き?」
晴奈の言葉を先読みして、ウェンディは笑う。
「あはは、そんなわけ無いじゃない。
確かにあなたは焔だし、敵よ。でも休戦した今、わざわざリンチする理由は無いわ。もしそんなことをして焔から恨みを買えば、また戦争になるかも知れない。そうなれば教団に多大な危険が及ぶことになる。
黒炎教団員50万の命を取るに足らない私情で振り回し、無碍に扱うほど、私たちウィルソン家の人間のほとんどは、愚かでも残酷でも無いわ。
だからコウさん、あなたの命は保障してあげる。……誇りまでは、保障しないけれど」
そこで言葉を切り、ウェンディは矛を振り上げて襲いかかってきた。
ウィルバーの戦い方を「烈」とするならば、ウェンディのそれは「轟」であった。
手先だけではない、腕や肩、脚、腰と言った体全体の回転を加えることにより、一撃、一撃が強烈なうなりを上げて、防御を貫く。
「が……ッ」
攻撃を刀で受けるも、その衝撃はそのまま刀を通り抜け、晴奈自身に流れてくる。一撃受ける度に晴奈の体が一瞬浮き、押され、弾かれて、晴奈の体力を確実に削り取っていく。
「ほら、どうしたの!?」
ウェンディが体を大きくひねり、矛をぐるんと、縦に半回転させる。矛の柄がしなるほどの猛烈なその威力を、晴奈は余すところなくぶつけられた。
「くっ、う……」
自分より頭半分背の低い相手から到底出てくると思えないような、猛烈で鋭いその攻撃に、晴奈は翻弄されていた。
だが、何度も得物を交えるうち、晴奈の心は次第に冷静さを取り戻していく。
(ともかく、だ。ともかく、恨みつらみの勝負ではなかった、それは確かだ。ならば何も、気を使う必要は無い。
遠慮も、配慮も、思慮も――慮ること、一切無用!)
また、ウェンディの回転払いが来る。それが届く直前、晴奈は飛び上がった。矛はゴウ、と音を立てて空を切るが、晴奈はその上、空中でやり過ごす。
矛をそのままぐるんと一回転させたところで、ウェンディがニヤッと笑う。
「そう来なくちゃ、……ねッ!」
平面的に流れていた矛が、今度は垂直に跳ねる。
矛の先端がそのまま真上にいた晴奈へ向かい、伸びていくが――。
「まだ、まだあッ!」
晴奈は矛を刀で受け、その衝撃を上に逃がす形でいなす。
晴奈の体はさらに上へ跳び、ウェンディの頭上高くへと舞う。
「なッ……!?」
晴奈の跳躍した距離はウェンディの予想を上回ったらしく、彼女の目が一瞬、点になる。
「く、この……!」
それでもウェンディは即応し、矛を頭上の晴奈へ向かって突き出す。その先端が晴奈に達しようかと言う、その瞬間――。
「あなたの……」
晴奈は刀の鍔元を矛の先とがぢ、とかみ合わせ、柄と刀身の背を持ってぐりっとひねる。
「あ……っ!」
刀と矛が絡まり、上に向かって伸ばしていたウェンディの手から、矛の柄が離れる。
完全に空中に浮いた矛を伝って、晴奈はその柄を滑る。矛が地面に落ちたその瞬間、晴奈は柄を蹴ってウェンディとの距離を一瞬で詰め――。
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晴奈の刀が、ウェンディの首筋に当たっていた。



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