黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
    双月千年世界 短編・掌編

    アナザー・トゥ・ワールド 1

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    双月千年世界と「クリスタルの断章」のコラボ小説、第1話。
    特異な事件。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
    「……」
     事務所内には、3つの音しか聞こえない。
     1つ目は、時計の秒針。2つ目は、所長が弄っているマウス。そしてそのマウスにつながっている、パソコンのファンである。
     いつになく重い空気に押し潰されたかのように、室内には沈黙が漂っていた。
    「どうですか?」
     たまらず、わたしは所長に尋ねる。
     所長は顔を挙げず、首を横に振った。
    「成果無しよ」
     所長はパソコンの前から離れ、傍らの新聞を手に取る。
     どうでもいいが――自他共に認める吝嗇家の所長は、何故か新聞を購入する。定期購読などはしていないのだが、それでもそれなりにネット環境が整っている事務所に持ち込む理由が無いのではと、わたしは思うのだが。
    「煮詰まってるわね」
     所長が新聞から顔を挙げ、2時間ぶりにわたしの顔を見た。
    「そうみたいですね」
     急に話を振られたため、わたしはあまりいい返事ができなかった。いや、はっきり言えば、これはよくない返事だった。
    「よくない返事」と言うのは、所長がわたしに期待する水準の返答ができなかった、と言う意味である。その証拠に、所長は不機嫌そうな視線をわたしにぶつけてきた。
    「言ってみなさい」
    「え?」
    「今回の事件。あなたが『そうみたいですね』と納得してる、その点を述べてみて」
    「あ……、ええ、はい」
     やはり、うっかりした生返事が、彼女の癇に障ったらしい。
     わたしはしどろもどろになりながら、これまで何度も洗い出されてきた論点を述べた。
    「まず、事件発生時の状況と経緯から振り返りましょうか」
    「そうね。言ってみて」
    「被害者である資産家の大宮慎司氏によれば、事件が発生したその夜未明、就寝していたが大きな地震を感じ、慌てて飛び起きた、と。ところが地震による影響か、寝室の扉がまったく開かなくなっており、やむなく屋敷のセキュリティを担当していた警備会社に連絡し、救出してもらった。
     そのまま警備会社の人間を連れ、屋敷内に異常が無いかを確認したところ、あちこちにひびや崩れ、そして寝室同様に扉が開かなくなっている箇所があった。何より、氏が最も懸念していた場所――即ち氏の財産が収められている金庫室もまた、扉が歪んで開かなくなっていたことが判明した。……と、ここまでがその晩に氏が体験した内容ですね」
    「ええ。そして夜が明けてすぐ、大宮氏は警備会社と改めて連絡を取り、出入り不可能になった金庫室の扉を開けるべく相談を行った。でも……」
     所長がそこで言葉を切り、わたしにもう一度目を向ける。
    「扉も含め、金庫室全体が頑丈かつ堅牢な構造になっていたため、開けるのに結局、丸2日を要したとのこと。
     それでもどうにか扉を開け、……と言うか、力ずくで破り、中を確かめたところ」
    「有価証券や通帳の類と現金、合計およそ15億円相当は無事だったけれど、金塊や宝石類のほぼ半分が無くなっていたことが判明した。
     大宮氏はこれを盗難事件として、すぐ警察に通報したが、一方でこの事件に関する2つの『不可解な点』から、警察のみでは事件解決が困難だろうと判断。
     そこで氏は財界の友人を通じて、あたしに捜査を依頼した。……と言うわけだけど」
     所長はわたしから目を離し、腕を組んで黙り込む。
    「……」
     わたしも、特に意見を出せるわけでもないので、同様に黙り込む。
    「……」
     10秒ほどわたしたちの間に沈黙が流れたところで、所長がまた、わたしに目を向けた。
    「竜崎」
    「はい」
    「黙ってないで、続きを述べなさい」
    「え? 続き……、ですか?」
     何を問うているか分からず、逡巡していたわたしに、所長は呆れた顔を見せた。
    「この事件に関する特異点。まだ整理し終えていないでしょう?」
    「あ、ああ、そうか、ええ……、そうですね、所長がさっき言っていた2つの『不可解な点』。これがこの事件最大のネックでしょうね」
    「その不可解な点とは?」
    「まず1つ目、金庫室のことです。
     先程も述べた通り、金庫室の構造は非常に頑丈だったとのこと。加えて、事件が発生したと思われる当時、金庫の唯一の出入口である扉は歪み、開かなくなっていました。
     そして金庫が警備会社の手によって破られるまで、金庫室やその周囲を覆う壁には傷一つ無かった。これは警備会社が金庫室を破る際に調査し、記録を取っているため間違い無いものである、とのことです。
     である以上、誰一人として金庫室の中に入ることは不可能なはずです。しかし実際に、金塊と宝石が無くなっている。本当に誰かが盗んだとすれば、どうやって盗んだのか……」
    「それを考えるのは後。今は不可解な点の洗い出しよ。
     そう、残るもう1つの点。これは?」
    「はい。氏が感じたとされ、実際に屋敷に被害を与えた『地震』について、ですね」
    「そうよ」
     所長はパソコンのモニタを私に向けつつ、キーボードをとん、とんと叩き、気象庁のサイトを表示させる。
    「大宮氏の言っていた時刻に、屋敷にひびが入る規模の大地震なんて、日本のどこにも起きてないのよ。あってもせいぜい震度1か2、それも氏の屋敷から遠く離れた東北地方や関西地方でだけ。
     あたしたちも実際に氏の屋敷とその周辺を調査したけれど、地震が原因と思われる被害は、屋敷以外にはどこにも発生していないことが判明してる。
     つまり、大宮氏以外の誰も、地震を体験していないのよ」
    「屋敷や金庫室に被害が無ければ、氏の勘違いと言うことも考えられますが……」
     わたしの言葉に、所長は大きく首を振った。
    「事実として、頑丈な金庫室が歪むほどの衝撃が、屋敷全体に与えられていたことは確かよ。
     誰も入った形跡の無い金庫室で起こった盗難、大宮氏とその屋敷にしか発生しなかった地震――その2点に対して納得の行く説明が、今のところまったく付けられない。
     これはまさしく、特異そのものよ」

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    改めて説明。
    今回の小説はポール・ブリッツさんのサイト「クリスタルの断章」より、
    キャラをお借りして制作しています。

    ちなみに「クリスタルの断章」と言うサイト、
    非常に色んなジャンル・世界観の小説が揃っています。
    一言に「キャラをお借りしました」と言っても、どのお話のどのキャラなのか、
    ポールさんのファンでも、すぐにはピンと来ないかも。
    一応この回でも名前は出しているんですが……。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    如何に当代最高の名探偵といえども、
    全く判断材料が無ければ答えの出しようがありません。
    特に、「この世界」に無い材料であればなおさら。

    個人的には、推理小説とファンタジーと言う2つのジャンルは、
    作中にて合理的な判断材料を与えられさえすれば、
    破綻なく両立しうるものと思っています。
    無論、間違っても「魔術だから何にでも説明がつけられる」などと言うような、
    ふざけた推理の立て方をさせることは決して無いので、
    その点はご安心を。

    楽しみやわ〜(o^^o) 

    すんなり答えを導き出すかと思いきや
    成果なしよ、とは(゚o゚;;
    ここから追加情報なしで、考えを巡らせるだけで解決してみせるんでしょ?紅さんは
    ええヒントがこれからの会話で出るんでしょうけど
    紅さんは、なんですぐわからなかったんだろ?て、バツが悪そな感じになるのでしょうか?
    意外な一面が見られるのかな?
    この先がとっても気になるわぁ〜
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