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    「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
    双月千年世界 短編・掌編

    アナザー・トゥ・ワールド 2

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    双月千年世界と「クリスタルの断章」のコラボ小説、第2話。
    奇妙な事件。

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    2.
     ある、寒い日のこと。
    「やっほ」
    「お?」
     その日の講義が終わり、書斎に戻ってきた克天狐の目に、絵本に出てきそうな魔法使い然とした、狐獣人の男の姿が映る。
    「なんだよ、ビックリさせやがって。久々じゃねーか」
    「そりゃどーも。イタズラ成功、ってね」
     ニヤニヤと笑いつつ、その男――「旅の賢者」モール・リッチは垢じみた三角帽子を脱ぐ。
    「ちょっと気になるコトがあったもんでね。お知恵拝借、と思ってね」
    「へぇ? 賢者のアンタが、オレにねぇ……?」
     天狐は自分の椅子に腰掛け、相手にも座るよう促す。
    「ま、先に茶かなんか出すわ。何飲む?」
    「君のおすすめは?」
    「オレって言うより、鈴林のおすすめになるけど、最近は紅茶だな。ソレでいいか?」
    「いいねぇ」
    「分かった。おーい、鈴林ー」
     声を上げた天狐に、隣から声が返って来る。
    「なーにー?」
    「紅茶2人前淹れてくれー」
    「お客さんっ?」
    「おう」
     少しして書斎のドアが開き、天狐の妹弟子、克鈴林が紅茶を持って入ってきた。
    「お待ちどうさまっ」
    「ありがとよ。……あれ? 砂糖は?」
    「これは無い方がおいしいのっ。ミルクもレモンもジャムもシロップも無しっ」
    「ちぇ。……あ、そうだ。
     モール、アンタの用件をまだ聞いてなかったな。何かあったのか?」
     尋ねた天狐に、モールは自分の尻尾をふかふかと揉みながら話し始めた。
    「あー、そうそう。いやね、わりとめんどい話になってくるんだけどね」
    「めんどい話?」
    「この話は、ココだけの話にしててほしいんだよね。鈴林ちゃんには聞かせて問題無いだろうけどね」
    「いいぜ。勿論、鈴林もしゃべりゃしないさ。な?」
    「うんうんっ」
     二人の了承を得たところで、モールは表面が若干擦り切れたかばんから、何枚かの写真を取り出した。
    「ん? コレは……」
     写真を手にした鈴林が、首を傾げる。
    「なにコレっ?」
    「『テレポート』なんかの空間移動系の魔術でほんの一瞬発生する、空間と空間を無理やりつなげた痕跡だね。言うなればコレは『次元の切れ目』ってヤツだね。
     しかし『テレポート』なら、コレの発生時間はほんの1、2秒。魔術使用後もそのまま残ってるなんてコトは、まずありえないね。
     ところがコレらの切れ目は、私が発見してからもずっと残り続けてたんだよね」
    「え……?」
    「……ふむ」
     きょとんとしている鈴林と、目を細める天狐に、モールは声を潜めて話を続ける。
    「実はココ数ヶ月、中央大陸のあっちこっちでこーゆーのが見つかってるんだよね。
     原因は不明。ドコにつながってるかも不明。閉じる方法もね。しかし一方で、このまま放っておくと、うっかり誰かが入り込んでそのまま戻って来られなくなる、いわゆる『神かくし』が発生しかねないから、誰も入れないように私が周辺を封印してるね。
     で、さらに一つ、妙なコトが起きててね」
    「既に妙な話だけどな」
    「輪をかけて、さ。今まで見せたのは、せいぜい猫や子犬くらいなら入れる程度の大きさしか無かったんだけども、とある港町の廃倉庫で、極端にデカいのを発見したんだよね」
     そう言って、モールはさらに写真を机に置いた。
    「確かにデカいな」
     写真には、その妙なモノ――「次元の切れ目」が写っており、その横には人が隠れられそうな大きさの木箱が3つ、縦に並んで置いてある。
    「この大きさなら、余裕で人が通り抜けられるね。……ソコでまず、尋ねるんだけども」
     モールは神妙な表情を浮かべながら、天狐たちに尋ねる。
    「こーゆーの、人為的に作るコトは可能かね?」
    「……んー」
     対する天狐は、腕を組んでうなる。
    「まあ、前に……、似たようなのは見た覚えがある。その際も術者が『向こう側』にいるのを見たし、勝手に閉じてった。恐らく人為的に発生させるコトはできるだろう、な」
    「え、マジで?」
     まさか「作った現場を見た」などと答えるとは思っていなかったらしく、モールの目が点になる。
    「マジだよ。まあ、現象からの推察と、その術者の関係者から色々聞いて、どうにか理論だけは構築してる。だからオレが現場を見れば多分、『切れ目』を閉じるくらいのコトはできる」
    「なるほどね」
    「しかし一方で、『切れ目』を開くには相当な魔力が必要だってコトも明らかになってる。端的に言えばこの街が島ごと消し飛ぶクラスの量が、な」
    「相当なもんだね。その関係者ってのはドコに?」
    「前に会ってるはずだぜ? まさか忘れてんのか?」
    「人の素性なんか、一々覚えてらんなくってね」
    「ひでーなぁ。……まあ、そいつの仕業とは考えられねーな。そんなコトする暇も魔力もねーからな」
    「まあ、術者のコトはとりあえず後回しでいいけど、とりあえず最優先は、コレらを閉じるコトだね。
     そして『切れ目』の向こうに誰か行っちゃってないか、とか、向こうから何か持ってきたりしてないか、とか」
    「持ってきちゃまずいのか?」
     いたずらっぽく笑う天狐に対し、モールは肩をすくめた。
    「何かとね」
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