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    「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
    双月千年世界 短編・掌編

    アナザー・トゥ・ワールド 3

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    双月千年世界と「クリスタルの断章」のコラボ小説、第3話。
    ゆがんだ風景。

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    3.
     わたしは所長の命に従い、ふたたび大宮邸周辺を調査することになった。「まだ何か、見落としている点があるかも」との、所長の考えからだ。無論、わたしも同意見ではある。
     しかし所長は今、事務所にいる。「大宮氏が『地震』と言っていた現象を、別の自然現象で説明できるか、あるいは何らかの技術・工作により発生させることは可能か、調べておく」と言っていたが、わたしが運転する車に乗っていないのには、もう一つ――彼女は今回、言及してはいないが――彼女にとって重要な理由がある。
     所長が同乗すれば、若い女性とは言え、車重は50キロ近く増えることとなり、それだけ車の燃費は悪くなる。それにそう近くもない現場まで向かう道中、休憩目的でコンビニなどに寄り道することもあるが、1人であれば支払う額は単純に半分となる。
     つまりは「経費節約」のためである。そこまでケチることは無いだろうと思うのだが、やはりそこは彼女が彼女たる所以なのだろう。
     そんなことをぼんやり考えながら、わたしは大宮邸から程近い駐車場に車を停めた。現場周辺は閑静な住宅街であり、昼前と言うこともあってか、人通りもほとんど無い。
     大宮氏との面会の時間にはまだ間があったため、わたしは周辺を散策することにした。無論、手がかりなどがあればそれに越したことは無いが、事件発生から既に3日経過している今、どんな痕跡も散逸してしまっているだろう。
    (寒いな……)
     季節はまだ、暦の上では秋ではあったが、今日は風が強く、日差しも悪い。念のため薄手のコートを着てきてはいたのだが、それでも身震いする程度に肌寒く感じられる。
     おまけに、頭にぽつ、と雨が落ちてきた。雲の様子から、どうやら本降りになりそうだと判断し、わたしは傘を取るため車に戻ろうとした。

     その時だった。
    「……?」
     振り返ったところで、横にあった公園が視界に入る。それ自体は何の変哲も無い、ベンチと砂場と木が2、3本あるくらいの、ごく小さな公園だったのだが、どうも何かがおかしい。
     その違和感が何から来るのか、わたしは目を凝らし、そしてその原因に気付く。
    (木が……3本? いや、……上は4本で、下に3、いや2、……いや、あれ!?)
     公園に並んで立っている銀杏の木が、ある箇所では2本並んでいるように見える。だが下方、根本に注目すると、それは3本分しか無い。ところが上方、既に黄色くなった葉が茂っている箇所では、逆に4本分はあるように見える。
     いや、こうして見ている間にも、その銀杏の木は3本に戻ったり、4本に増えたり、はたまた2本に減ったりと、目まぐるしくブレて見える。
     わたしは慌てて公園内に入り、コートの懐からスマホを取り出して、その様子を撮ろうとする。
     しかしその時――がつん、と強烈な衝撃が、わたしの体全体を巡った。殴られたのではない。体全体を弾くかのように、衝撃の波が伝わってきたのだ。
    「じっ、地震……!」
     わたしは身を守るため、その場に膝を着いて低い姿勢を取る。スマホはからん、からんと乾いた音を立て、地面をバウンドしながら遠くへ転がっていった。

     そうして10秒か、20秒か経っただろうか――わたしは揺れが収まったことを確認し、恐る恐る立ち上がって、地面に転がったままになっていたスマホを回収した。
    (今のは震度4か5か、……もっとあったかも知れない)
     公園のブロック塀にはひびが入り、3本並んでいた木も、わずかながら傾いている。わたしは周囲に被害が出ているかも知れないと考え、公園を出て辺りを見回した。
     ところが妙なことに、住宅街は先程と変わらず、静まり返ったままだ。いくら人通りが無いとは言え、屋内には人がいるはずだ。
    (あんなに激しく揺れたと言うのに、誰も外に出なかったのか……?)
     それどころか、どこの家にもブロック塀が傾いただとか、窓ガラスが割れたと言うような、地震の際によく起こる被害は見受けられない。まるで地震など最初から起こっていなかったかのように、住宅街には何の変化も起こっていなかったのだ。
     だが、さっきの地震は紛れも無く、わたし自身が体験したのだ。断じてあれは、目眩や動悸によるものだとか、ましてや白昼夢であったとか、そんなものでは決して無い。
     でなければ――今、わたしが手にしているスマホがこんなに傷だらけになっているわけが無いのだ。
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