「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
双月千年世界 短編・掌編
アナザー・トゥ・ワールド 5
双月千年世界と「クリスタルの断章」のコラボ小説、第5話。
地震だったのか?
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5.
「竜崎、もう一度聞くわよ。あなたがその地震を体験したと言う時刻は?」
「12時40分頃です。地震の直後にスマホで確認しましたから、間違い無いはずです」
「……」
所長はキーボードのF5を押し、ブラウザを更新させる。しかし依然として、気象庁のサイトにそれらしい情報が表示されることは無かった。
「揺れはかなり激しかったと言ってたわね?」
「ええ。立っていられない程でした」
「でも、近隣の住宅には被害が見られなかった。そして公園からほど近いはずの大宮邸においても、その日に起こったはずの地震については誰も気付かなかった、……と」
所長は難しい顔をしつつ、モニタをにらむ。
「あなたが突然動悸や目眩に襲われるほど、不摂生を続けているわけでも老化が進んでいるわけでも無いことは、十分に把握しているわ。虚言癖や妄想癖、偏執症、薬物経験、その他異常行動につながるような要素も、あたしが知る限り、無し。
だからあなたの体験は、間違い無く現実に起こった事象、事実である。それは確かであると信じるわ」
散々なことを言われているが、それでもまあ、いいように評価はしてくれているのだろう。
「似てるわね」
「え?」
唐突な言葉に、わたしは戸惑う。だが、所長の言わんとすることは分かる。
「地震が、ですか?」
「そうよ。大宮氏が体験したと言う地震も、屋敷に被害を与えこそすれ、近隣には何の被害も無く、また、地震が起こったことすら誰も知らなかった。
あなたの体験も、公園のすぐ隣りの家ですら窓一枚割れるような被害は発生していないし、あなた以外の誰も体験していない。
この2つから導き出せるのは――地震が起こったその時、少なくとも、局所的な衝撃が発生していた、と言うことね。それも少し離れれば感知できなくなるような、極めて限定的なものよ」
「はあ」
当たり前のことを言っているようにしか思えず、わたしはぼんやりとした返事をする。
「何を当たり前な、って思ってない?」
「あ、いえ」
「これは重大な事実なのよ。……そうね、例えばこれが、本当に地震によるものだったとした場合。地震の波はこう伝わるの」
所長は手元にあった新聞紙に、家らしきマークを2、3個描き、その下にいくつかの輪を付け加える。
「地中深くで起こった激しい振動が地面を伝わり、こうして広範囲に影響する。これが地震と言われている現象よ。
でもあなたが言ったような現象は」
続いて所長は、家マークと家マークの間に輪を描く。
「極めて狭い範囲にしか、その衝撃が伝わらなかったことになるわ。その違いを分けた原因は何か、分かる?」
「何ですか?」
「衝撃が地中で発生したか、空中で発生したか、よ。衝撃の波は地中と空中とでは、圧倒的に前者の方が伝わりやすい。
あなたが体験したその地震は、本当は空中で発生した衝撃波じゃないのかしら」
「空中で?」
「ええ。そして恐らく、大宮氏が感じたと言う地震も、本当は屋敷内で発生した衝撃波なのかも知れないわ。
さっきも言った通り、衝撃は空中、即ち気体を介するよりも、固体を通した方が伝わりやすい。大宮氏の金庫室は、寝室の真下にある。衝撃波は媒介物が金属であれば、より伝わりやすい性質があるのよ」
「なるほど、……ん? と言うことは」
「その衝撃波、もしかしたら金庫室の『中で』発生したんじゃないかしら? もう一度、屋敷の被害状況を確認しましょう」
所長の予想通り、屋敷におけるひびや崩れなどの被害は金庫室の周辺に多く見られ、そこから離れるほど被害が小さくなっていること――即ち、金庫室を中心として発生していたことが判明した。
「盲点だったわね。『地震』と言っていたから、地中から衝撃が伝わったものだと思い込んでいたわ」
「しかし所長。それが一体、何だと……」
「火の無いところに煙は立たず、よ。衝撃が発生したのなら、その時に何か、原因となる現象が起こっていたと言うことになるわ。
竜崎。あなたが衝撃波を受けた際、スマートホンで撮影しようとしてたって言ってたわね?」
「ええ。でも途中で落としてしまって、結局、空しか映ってないですよ」
「見せてちょうだい」
わたしは素直にスマホを渡す。
所長は机からケーブルを取り出し、モニタとスマホをつないで、スマホの動画再生画面を確認し始めた。
「……」
わたしが言った通り、スマホに映し出されていたのは、地面と空の繰り返し――ごろごろと地面を転がっていたために、そんなめちゃくちゃな動画になってしまっている。
「……ん?」
と、所長がもう一度机を探り、イヤホンを取り出す。それをモニタと自分の耳に着け、けげんな顔をしながら聞き入っている。
「竜崎」
何度か動画を再生したところで、やはりけげんな顔のまま、所長がイヤホンをわたしに渡した。
「これ、何て言ってるか分かる?」
「え?」
わたしがイヤホンを耳に着けると同時に、所長はもう一度動画を再生した。
《……**……****……ね……》
動画の中頃、転がり終えてずっと空中を映しているシーンで――ほんのわずかではあったが――確かにわたしのものではない、ボーイソプラノ風のやや高めの声で、誰かがしゃべっているのが聞こえた。
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地震だったのか?
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「竜崎、もう一度聞くわよ。あなたがその地震を体験したと言う時刻は?」
「12時40分頃です。地震の直後にスマホで確認しましたから、間違い無いはずです」
「……」
所長はキーボードのF5を押し、ブラウザを更新させる。しかし依然として、気象庁のサイトにそれらしい情報が表示されることは無かった。
「揺れはかなり激しかったと言ってたわね?」
「ええ。立っていられない程でした」
「でも、近隣の住宅には被害が見られなかった。そして公園からほど近いはずの大宮邸においても、その日に起こったはずの地震については誰も気付かなかった、……と」
所長は難しい顔をしつつ、モニタをにらむ。
「あなたが突然動悸や目眩に襲われるほど、不摂生を続けているわけでも老化が進んでいるわけでも無いことは、十分に把握しているわ。虚言癖や妄想癖、偏執症、薬物経験、その他異常行動につながるような要素も、あたしが知る限り、無し。
だからあなたの体験は、間違い無く現実に起こった事象、事実である。それは確かであると信じるわ」
散々なことを言われているが、それでもまあ、いいように評価はしてくれているのだろう。
「似てるわね」
「え?」
唐突な言葉に、わたしは戸惑う。だが、所長の言わんとすることは分かる。
「地震が、ですか?」
「そうよ。大宮氏が体験したと言う地震も、屋敷に被害を与えこそすれ、近隣には何の被害も無く、また、地震が起こったことすら誰も知らなかった。
あなたの体験も、公園のすぐ隣りの家ですら窓一枚割れるような被害は発生していないし、あなた以外の誰も体験していない。
この2つから導き出せるのは――地震が起こったその時、少なくとも、局所的な衝撃が発生していた、と言うことね。それも少し離れれば感知できなくなるような、極めて限定的なものよ」
「はあ」
当たり前のことを言っているようにしか思えず、わたしはぼんやりとした返事をする。
「何を当たり前な、って思ってない?」
「あ、いえ」
「これは重大な事実なのよ。……そうね、例えばこれが、本当に地震によるものだったとした場合。地震の波はこう伝わるの」
所長は手元にあった新聞紙に、家らしきマークを2、3個描き、その下にいくつかの輪を付け加える。
「地中深くで起こった激しい振動が地面を伝わり、こうして広範囲に影響する。これが地震と言われている現象よ。
でもあなたが言ったような現象は」
続いて所長は、家マークと家マークの間に輪を描く。
「極めて狭い範囲にしか、その衝撃が伝わらなかったことになるわ。その違いを分けた原因は何か、分かる?」
「何ですか?」
「衝撃が地中で発生したか、空中で発生したか、よ。衝撃の波は地中と空中とでは、圧倒的に前者の方が伝わりやすい。
あなたが体験したその地震は、本当は空中で発生した衝撃波じゃないのかしら」
「空中で?」
「ええ。そして恐らく、大宮氏が感じたと言う地震も、本当は屋敷内で発生した衝撃波なのかも知れないわ。
さっきも言った通り、衝撃は空中、即ち気体を介するよりも、固体を通した方が伝わりやすい。大宮氏の金庫室は、寝室の真下にある。衝撃波は媒介物が金属であれば、より伝わりやすい性質があるのよ」
「なるほど、……ん? と言うことは」
「その衝撃波、もしかしたら金庫室の『中で』発生したんじゃないかしら? もう一度、屋敷の被害状況を確認しましょう」
所長の予想通り、屋敷におけるひびや崩れなどの被害は金庫室の周辺に多く見られ、そこから離れるほど被害が小さくなっていること――即ち、金庫室を中心として発生していたことが判明した。
「盲点だったわね。『地震』と言っていたから、地中から衝撃が伝わったものだと思い込んでいたわ」
「しかし所長。それが一体、何だと……」
「火の無いところに煙は立たず、よ。衝撃が発生したのなら、その時に何か、原因となる現象が起こっていたと言うことになるわ。
竜崎。あなたが衝撃波を受けた際、スマートホンで撮影しようとしてたって言ってたわね?」
「ええ。でも途中で落としてしまって、結局、空しか映ってないですよ」
「見せてちょうだい」
わたしは素直にスマホを渡す。
所長は机からケーブルを取り出し、モニタとスマホをつないで、スマホの動画再生画面を確認し始めた。
「……」
わたしが言った通り、スマホに映し出されていたのは、地面と空の繰り返し――ごろごろと地面を転がっていたために、そんなめちゃくちゃな動画になってしまっている。
「……ん?」
と、所長がもう一度机を探り、イヤホンを取り出す。それをモニタと自分の耳に着け、けげんな顔をしながら聞き入っている。
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「これ、何て言ってるか分かる?」
「え?」
わたしがイヤホンを耳に着けると同時に、所長はもう一度動画を再生した。
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