黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
    双月千年世界 短編・掌編

    アナザー・トゥ・ワールド 7

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    双月千年世界と「クリスタルの断章」のコラボ小説、第7話。
    未知との遭遇。

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    7.
    「竜崎。あれが、その公園?」
    「はい」
    「で、あの木が?」
    「そうです」
     わたしは所長を伴い、再びあの公園を訪れていた。
     一日に2度も同じ道程を、それも乗用車を必要とする距離を往復するとなると、相当な疲労が溜まるが、所長はわたしの疲れなど意に介していないようだ。
    「見た感じは……、特に何も無さそうね」
    「そうですね」
     相槌を打ったが、途端に所長の顔に険が差す。何かまずいことを言っただろうか。
    「竜崎。止まって」
    「あ、はい」
     公園に入る直前で立ち止まり、所長は懐中電灯で公園の地面を照らす。
    「妙ね」
    「何がですか?」
    「地面よ」
     そう言われ、わたしも公園の地面を照らしてみる。そこで気が付いたが、地面にはわずかに、波紋のような跡が確認できた。
    「昼にわたしが体験した、衝撃波の跡でしょうか?」
    「だとすると、おかしいわね。あの後、雨が降ったんでしょ?」
    「ええ」
     現在、雨は上がっている。それでもまだ地面はぬかるんでおり、そのために衝撃波の跡がくっきりと残っているのだろう。……いや、それでは話がおかしい。
    「でも、跡が残ってますね。雨でも消えなかった、……とは考え辛いし」
    「ええ、ありえないわね。そもそも、今日は平日よ。近くに学校もある。
     あなたが午後1時前に体験した衝撃波の痕跡が、万が一雨でも消されることなく残っていたとしても、その後に子供や学生がここを使用していたはず。
     事実、公園入口付近には彼らのものと思われる足跡が残ってるわ。となれば確実に、その痕跡は踏み消されてしまっているはずよ。
     でも、あそこを見て。その足跡、あの衝撃波の痕跡に上書きされてるわ」
    「……と言うことは」
    「また、衝撃波が発生していたようね」
     所長は注意深く、懐中電灯の光を地面のあちこちに向ける。と、あのブレて見えた木の周辺に、足跡があった。
    「あれ。ありましたね、足跡」
    「……」
     いかに名探偵と言えども、たまには推理ミスもあるのだろう。数少ない失敗を目にし、わたしは微笑ましい気分を覚えた。
     しかし所長は、首を小さく振る。
    「あの足跡。木の方から来て、また木の方に戻ってるわ」
    「ええ。……え?」
    「公園の外から来た形跡も、外へ出た形跡も無いわ。まるであそこでうろうろした後、そのままあの場に立ち止まってる、って感じね」
    「……!」
     わたしも光を足跡に向け、観察する。
     と、所長は公園に足を踏み入れ、わたしを制するように掌を向けながら、その足跡に近付いて行く。
    「所長?」
    「じっとしてて」
     所長は背を向けたまま、苛立たしげにそう返す。
     そのうちに、所長は足跡の真ん前にまで迫り――何かをつかむように、手をばっと前に伸ばす。
    「うわっ!?」
     あのスマホに残っていたのと同じボーイソプラノが、公園に短くこだました。

    「なるほど、足跡か……。今度は足跡も消すように改良しとかないとね」
     わたしは異様なものを目にしていた。
     それはまさに異形としか言いようの無い生物――狐のような耳と尻尾が生えた、魔法使いのコスプレをした人間だった。
     最初は彼が何を言っているのか、いや、正確に言えばどこの国の言語をしゃべっているのかまったく分からなかったが、彼が杖のようなものを一振りした途端、突如として言葉が理解できるようになった。その理由を彼は「魔術」と説明していたが、わたしには到底、納得が行かなかった。
    「それでリッチさん、……で良かったかしら?」
    「モールでいいね」
    「では、モールさん。あなたの背後にある『あれ』が、その『切れ目』と言うことかしら?」
     一方、所長は明らかに異形の種である彼らに対し、まるで恐怖した様子も無ければ、奇異の目で見つめるようなこともせず、普段から依頼人らと接するのと変わらぬ様子で、淡々と会話を交わしている。
    「その通りだね」
    「あなたたちが発生させたものかしら」
    「いいや。発生してたのを偶然見つけて、仲間と一緒に調べに来たんだよね」
    「なるほど。あなたたちにとっても未知のもの、と言うことね?」
    「そうなるね。で、えーと……」
    「あたしの名前?」
    「そ、そ。まだ聞いて無かったと思ってね」
     うなずいたモール氏に、所長は会釈を交えて名乗った。
    「申し遅れたわね。あたしは紅恵美。紅探偵事務所の所長よ」
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