「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第4部
蒼天剣・繁華録 1
晴奈の話、第173話。
世界最大級の街。
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1.
その昔、ゴールドマン家――いわゆる金火狐一族は央中の北東部、カレイドマインと言う街に住んでいた。
その街には巨大な鉱脈があり、「ゴールドマン」の名は、黄金を初めとする莫大な量の貴金属を掘り出し、加工して売っていたことに由来する。
ところが3世紀の終わり頃になって、その鉱脈が尽きた。金はおろか、錫や鉛すら出なくなってしまったのだ。鉱業を主軸産業としていた金火狐一族は新たな鉱脈を求め、カレイドマインを捨てた。
そして移り住んだのが、カレイドマイン以上の金鉱が存在する砂浜の街――ゴールドコーストだった。
高台に登った途端、晴奈の目が点になる。
「お、……わ」
黄海も、青江も、天玄も、黒鳥宮さえかすむほどの、巨大さ。
(み、見えない)
どこまで続いているのか、どこで終わるのか。端が、どこにも見当たらない。
横にいた小鈴が、嬉しそうに笑っている。
「ビックリした?」
「し、しました」
晴奈はその街のあまりの大きさに、絶句するしか無かった。
「これが、ゴールドコースト……」
晴奈がこれまで訪れたどの街よりも、ゴールドコーストは巨大で雑多な都市だった。
まず驚いたのは、街を護る壁の存在。黄海などにもこうした街壁はあったが、それはもう少しくっきりと、街と、街の外とを区切っていた。
ところがゴールドコーストの壁は、幾重にも重なって備え付けられ、その半分ほどが街に食い込んでいるかのように、ぶつりと断たれて立っていた。
「この壁は何故、まばらに?」
「壁を作るスピードより、街が成長するスピードの方が早かったのよ。
何年もかけて壁を築いたトコで、その内側の街が収まりきらなくなって、もっかい壁を作り直してるトコに、また新たな都市計画が持ち上がって、……って繰り返しの名残ね」
「ほう……」
その一事だけでも、この街がどれほど栄えているのかが、晴奈には良く分かった。
やがて二人は、一際ざわめく場所――市場にたどり着いた。
「ココから市場になるんだけど、晴奈」
小鈴はぎゅっと、晴奈の手を堅く握りしめた。
「離れちゃダメよ。離れたら大人でも迷子になるからね」
「は、はい」
小鈴の言う通り市場の混み方は尋常ではなく、あちこちから来る人の波に呑まれそうになることが、何度もあった。
「はいはい寄ってらっしゃい寄ってらっしゃーい」「わ、っとと」
客引きに肩をつかまれる。
「おねーさんおねーさん、可愛いアクセ入ってるよー」「い、いらぬ」
アクセサリを無理矢理付けさせられそうになる。
「ご飯食べてかない? 食べるだけ、お酒とかはサービスするから」「遠慮するっ」
いかにも怪しげな店に連れて行かれそうになる。
「……ぷは、やっと抜けたー」「ま、参りますね、これは」
15分ほどで騒がしい場所を抜けた小鈴は、小さな飲食店に晴奈を連れて行った。
「晴奈、ココなら」「ん?」
店の奥に座り、小鈴がメニューを手に取った。程なくして店主と思われる、頭巾を被ったくわえ煙草の、赤毛の「虎」の女性が、二人の元にやってきた。
「おう、久しぶりだねぇ小鈴。そっちの『猫』さんは?」
「ココなら色んな情報、入ってくるわよ」「もしかして、ここは……」
小鈴は店主に会釈し、晴奈に紹介した。
「そう。コイツはあたしの従姉妹で、橘朱海(あけみ)って人。
で、ココは食堂兼、情報屋」
「情報……、屋?」
食堂や酒場、宿、賭場など、人が集まって話をする場所には一つの「お宝」が発生する。それは即ち、「情報」である。
商人であれば儲け話の、職人や傭兵であれば雇用口の、追う者、追われる者は互いの居場所の――情報はあらゆる職種、あらゆる人間にとって、資金や資材に並ぶ大切な資源である。
だが不特定多数の人間がでたらめに集まる場所で発生するモノであるし、金銀などの現物的な資源と違って、そこへ行けば求めるものが必ず手に入るとは限らない。
その不安定な需要・供給を少しでも安定させ、補完しようとするのが、情報屋である。情報屋は自分たちの経営する宿や食堂などで「誰が何をしている」と言う情報を集め、それを欲しがる者に販売することで「手数料」や「仲介料」として、利益を得ているのだ。
「と言うワケで、このおねーさんに聞けば大抵の情報は売ってくれるわよ」
「ほう……」
晴奈は小鈴から情報屋について聞いている最中、虎獣人の朱海とエルフの小鈴とを見比べていた。
しかし耳目の形も、背も違うため、二人が本当に近しい親戚なのかどうか、晴奈には判別しきれなかった。
(似ている、と言えば似ているかもしれないが、……うーむ?
橘家は人相の似ない人間が多いのか? 小鈴殿兄妹も、さして似ているように見えなかったし)
と、朱海が二人に水を差し出しながら尋ねてくる。
「で、ウチに連れてきたってことは何か、ワケアリか?」
「そ、そ。日上中佐を追ってるのよ、晴奈」
「ヒノカミ? ってあの日上か? また、けったいなヤツを……。ちょっと待ってな」
朱海はそう返し、一旦厨房の奥へ消える。
1分ほどして、朱海は小箱を抱えて戻って来た。
「ほれ、これが日上関連のメモ。最新のヤツほど高いけど、小鈴の友達ってコトでオマケしたげるから」
朱海は小箱を開け、卓上にぱらぱらと、メモの入った便箋を並べていく。
「ふむ……。一番新しいのはいかほどでしょうか?」
「んー、ピンキリになるけど、一番安いので200クラムかな」
晴奈は財布を開け、所持金を確認する。
「では、それを買ってみます」
「はい、まいどっ」
朱海は青い便箋を晴奈に手渡す。
「他に欲しいものがあったら言ってくれよ」
「あ、はい。
……ふむふむ、……ふむ、……、……むぅ」
読み進めるほどに、晴奈の猫耳と尻尾、眉が垂れていく。
「……これを、聞いてもなぁ」
晴奈の様子を見ていた小鈴が、ひょいとメモを取って中を見る。
「確かにゴシップなんか聞いてもねぇ」
結局、晴奈は大枚5000クラムを支払って、もっといい情報を買うことにした。
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世界最大級の街。
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その昔、ゴールドマン家――いわゆる金火狐一族は央中の北東部、カレイドマインと言う街に住んでいた。
その街には巨大な鉱脈があり、「ゴールドマン」の名は、黄金を初めとする莫大な量の貴金属を掘り出し、加工して売っていたことに由来する。
ところが3世紀の終わり頃になって、その鉱脈が尽きた。金はおろか、錫や鉛すら出なくなってしまったのだ。鉱業を主軸産業としていた金火狐一族は新たな鉱脈を求め、カレイドマインを捨てた。
そして移り住んだのが、カレイドマイン以上の金鉱が存在する砂浜の街――ゴールドコーストだった。
高台に登った途端、晴奈の目が点になる。
「お、……わ」
黄海も、青江も、天玄も、黒鳥宮さえかすむほどの、巨大さ。
(み、見えない)
どこまで続いているのか、どこで終わるのか。端が、どこにも見当たらない。
横にいた小鈴が、嬉しそうに笑っている。
「ビックリした?」
「し、しました」
晴奈はその街のあまりの大きさに、絶句するしか無かった。
「これが、ゴールドコースト……」
晴奈がこれまで訪れたどの街よりも、ゴールドコーストは巨大で雑多な都市だった。
まず驚いたのは、街を護る壁の存在。黄海などにもこうした街壁はあったが、それはもう少しくっきりと、街と、街の外とを区切っていた。
ところがゴールドコーストの壁は、幾重にも重なって備え付けられ、その半分ほどが街に食い込んでいるかのように、ぶつりと断たれて立っていた。
「この壁は何故、まばらに?」
「壁を作るスピードより、街が成長するスピードの方が早かったのよ。
何年もかけて壁を築いたトコで、その内側の街が収まりきらなくなって、もっかい壁を作り直してるトコに、また新たな都市計画が持ち上がって、……って繰り返しの名残ね」
「ほう……」
その一事だけでも、この街がどれほど栄えているのかが、晴奈には良く分かった。
やがて二人は、一際ざわめく場所――市場にたどり着いた。
「ココから市場になるんだけど、晴奈」
小鈴はぎゅっと、晴奈の手を堅く握りしめた。
「離れちゃダメよ。離れたら大人でも迷子になるからね」
「は、はい」
小鈴の言う通り市場の混み方は尋常ではなく、あちこちから来る人の波に呑まれそうになることが、何度もあった。
「はいはい寄ってらっしゃい寄ってらっしゃーい」「わ、っとと」
客引きに肩をつかまれる。
「おねーさんおねーさん、可愛いアクセ入ってるよー」「い、いらぬ」
アクセサリを無理矢理付けさせられそうになる。
「ご飯食べてかない? 食べるだけ、お酒とかはサービスするから」「遠慮するっ」
いかにも怪しげな店に連れて行かれそうになる。
「……ぷは、やっと抜けたー」「ま、参りますね、これは」
15分ほどで騒がしい場所を抜けた小鈴は、小さな飲食店に晴奈を連れて行った。
「晴奈、ココなら」「ん?」
店の奥に座り、小鈴がメニューを手に取った。程なくして店主と思われる、頭巾を被ったくわえ煙草の、赤毛の「虎」の女性が、二人の元にやってきた。
「おう、久しぶりだねぇ小鈴。そっちの『猫』さんは?」
「ココなら色んな情報、入ってくるわよ」「もしかして、ここは……」
小鈴は店主に会釈し、晴奈に紹介した。
「そう。コイツはあたしの従姉妹で、橘朱海(あけみ)って人。
で、ココは食堂兼、情報屋」
「情報……、屋?」
食堂や酒場、宿、賭場など、人が集まって話をする場所には一つの「お宝」が発生する。それは即ち、「情報」である。
商人であれば儲け話の、職人や傭兵であれば雇用口の、追う者、追われる者は互いの居場所の――情報はあらゆる職種、あらゆる人間にとって、資金や資材に並ぶ大切な資源である。
だが不特定多数の人間がでたらめに集まる場所で発生するモノであるし、金銀などの現物的な資源と違って、そこへ行けば求めるものが必ず手に入るとは限らない。
その不安定な需要・供給を少しでも安定させ、補完しようとするのが、情報屋である。情報屋は自分たちの経営する宿や食堂などで「誰が何をしている」と言う情報を集め、それを欲しがる者に販売することで「手数料」や「仲介料」として、利益を得ているのだ。
「と言うワケで、このおねーさんに聞けば大抵の情報は売ってくれるわよ」
「ほう……」
晴奈は小鈴から情報屋について聞いている最中、虎獣人の朱海とエルフの小鈴とを見比べていた。
しかし耳目の形も、背も違うため、二人が本当に近しい親戚なのかどうか、晴奈には判別しきれなかった。
(似ている、と言えば似ているかもしれないが、……うーむ?
橘家は人相の似ない人間が多いのか? 小鈴殿兄妹も、さして似ているように見えなかったし)
と、朱海が二人に水を差し出しながら尋ねてくる。
「で、ウチに連れてきたってことは何か、ワケアリか?」
「そ、そ。日上中佐を追ってるのよ、晴奈」
「ヒノカミ? ってあの日上か? また、けったいなヤツを……。ちょっと待ってな」
朱海はそう返し、一旦厨房の奥へ消える。
1分ほどして、朱海は小箱を抱えて戻って来た。
「ほれ、これが日上関連のメモ。最新のヤツほど高いけど、小鈴の友達ってコトでオマケしたげるから」
朱海は小箱を開け、卓上にぱらぱらと、メモの入った便箋を並べていく。
「ふむ……。一番新しいのはいかほどでしょうか?」
「んー、ピンキリになるけど、一番安いので200クラムかな」
晴奈は財布を開け、所持金を確認する。
「では、それを買ってみます」
「はい、まいどっ」
朱海は青い便箋を晴奈に手渡す。
「他に欲しいものがあったら言ってくれよ」
「あ、はい。
……ふむふむ、……ふむ、……、……むぅ」
読み進めるほどに、晴奈の猫耳と尻尾、眉が垂れていく。
「……これを、聞いてもなぁ」
晴奈の様子を見ていた小鈴が、ひょいとメモを取って中を見る。
「確かにゴシップなんか聞いてもねぇ」
結局、晴奈は大枚5000クラムを支払って、もっといい情報を買うことにした。
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この街は香港とかドバイとか、そんなイメージです。
一回行ってみたいなぁ、そう言う街。
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2016.04.21 修正
この街は香港とかドバイとか、そんなイメージです。
一回行ってみたいなぁ、そう言う街。
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2016.04.21 修正



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