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    「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
    双月千年世界 短編・掌編

    アナザー・トゥ・ワールド 11

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    双月千年世界と「クリスタルの断章」のコラボ小説、第11話。
    事件の解決と、ビジネスのタネ。

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    11.
     兎耳の男を拘束し、問い詰めた結果――やはりこの男が、大宮邸から宝石類を盗んだ犯人であることが発覚した。
    「偶然だったんです。本当に、偶然」
    「偶然、コイツらの世界への次元移動に成功して、で、その金庫室ん中に入って、そんでもって辺りを見回したら、証券やら金品やらがゴロゴロしてた、と」
     テンコ嬢の詰問に、兎耳の男は力無くうなずく。
    「はい……。書類は目を通しても、何が書かれていたのかまったく分からなかったし、札束みたいなのも、『ここ』では使い道が無さそうでしたから、そっちには手を付けませんでした。
     でも宝石とかは、売れそうだなと思って」
    「で、盗んだってワケか。公園にまで穴開けたのは何でだ?」
    「……他にも盗めるものがあるかなって」
    「バカだなぁ、お前」
     わたしと所長は、揃ってため息をついた。
    「……どうします?」
    「そうね、説明は非常に難しいわ。まさかありのまま、『異世界からやってきた兎耳の男が盗んでいった』なんて言えないし」
    「でも、このまま放ってはおけないですし」
    「ええ。とにかく、宝石類は返してもらうわよ。まだ売却してないわよね?」
    「はい」
     わたしたちが兎耳の男を取り囲んでいる一方、モール氏はあちこちを見回していた。
    「ふーん……?」
    「どしたの、モールさんっ?」
    「いやね、色々興味深いなってね。ま、とりあえずだ」
     モール氏は兎耳の男に向き直り、魔杖を彼の鼻先に突きつけた。
    「今回は宝石を返してもらうくらいで勘弁してやるけどね、今後、またあの次元移動術で私らや、そいつらの世界に行こうとしたら、今度こそお仕置きしてやるからね。
     ココへの生き方は君の持ってる資料で確立できそうだし、また何か悪巧みしようってんなら速攻、ココに殴りこむからね? 分かったね?」
    「え、ええ。重々承知しております、はい」
     兎耳の男は縄で縛られたまま、ぺこぺこと頭を下げた。



     その後――我々は元の世界に帰還し、どうにかそれらしい理由をこじつけて大宮氏に宝石類を返還し、事件を解決したことにした。
    「それにしても、よくあんな説明ができましたね。傍で聞いててびっくりしましたよ」
    「稀に見る力作だったわ。もっと練れば、いい推理小説になったでしょうね」
     所長はくす、と笑いながら、新聞に目を通している。
    「そう言えば所長」
     わたしは気になっていたことを、所長に確認した。
    「今回の事件について集めた資料と捜査記録は、どうしましょうか?」
    「どう、って?」
    「あんまりにも稀なケースですし、今後の参考にできるものでは無いと思うんですが」
    「それも一理あるでしょうね。でも竜崎」
    「はい?」
    「世界のあらゆる言語によるあらゆる会話を瞬時に翻訳できる機械やアプリケーションソフトなんて、まだどこのメーカーにも無いわよね? それから、人と当たり前に会話ができて、自由自在に変形可能なロボットなんてのも、完全に姿を消すことができる光学迷彩も。
     あたしが知る限り、まだ世界のどこにもそんなものは無いわ」
    「え?」
    「あの人たちの魔術。あれがあたしたちの世界で再現できれば、とてつもない利益を生むわ。今言った多言語翻訳が実現するだけでも、数百億の利益が見込めるわね」
     唐突な発言に、わたしは耳を疑う。
    「できるわけないじゃないですか。魔術なんて、そんなの……」
    「あの人たちの魔術は、この世界でも行使できていた。それなら、どうかすればあたしたちにも使えるんじゃないかしら?
     一応、『参考資料』もあることだし」
     所長はにこっと笑い、机の引き出しからボイスレコーダーや小型カメラを取り出した。
    「あの人たちの行動や会話は全部収めてあるわ。捜査記録も大いに役立つでしょうね。
     だから資料も、捜査記録も一切破棄しないように。あれは貴重な研究材料よ」
     所長のとんでもない発想に、わたしは――地震のせいでも無ければ、衝撃波を食らったわけでも無く――くらくらとした目まいを覚えていた。
     わたしは二度とあんなことに関わりたくは無いのだ。あんな怪奇にこれ以上首を突っ込んでは、わたしの常識、いや、神経が破綻してしまうだろう。
     わたしは心の中で密かに、所長が一刻も早く別の事件に興味を持ち、この一件を忘れ去ってくれることを祈っていた。
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