黄輪雑貨本店 新館


    「白猫夢」
    白猫夢 第10部

    白猫夢・博侶抄 3

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    麒麟を巡る話、第489話。
    招聘状。

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    3.
     普段の春が温和な性格であることを知っているルシオは、あまりにもとげとげしい彼女の言葉に面食らった。
    「ハル……」
     春はルシオに顔を向けず、依然として男たちに冷たく言い放つ。
    「お帰り下さい。お話しすることなど、何もありません」
    「……」
     男たちは困った様子で顔を見合わせたが、やがて諦めた様子を見せた。
    「承知いたしました。突然のご無礼、誠に申し訳ございませんでした」
     狐耳はそう言いながら、懐から手紙を取り出す。
    「ですが――ご無礼を重ねますこと、重々承知してはおりますが――どうかこの手紙だけは、お読みいただけませんでしょうか」
    「……まあ……、はい」
     春が露骨に嫌悪感を表しているのを横目で確かめつつも、ルシオはその手紙を受け取った。
    「ありがとうございます。……では小生らは、これにて失礼いたします。
     不躾な訪問、本当に申し訳ございませんでした」
     狐耳と短耳は何度も頭を下げつつ、その場から立ち去った。

    「……」
     夕食の直後とは一転して、春は不機嫌になっていた。
    「あの……、何て言うか」
    「……」
    「受け取らない方が良かった、……よね」
    「……」
    「悪かったよ。でも何か、あの人たちが可哀想になって……」
    「……」
     春はぶすっとした表情を崩さず、ルシオに背を向けた。
    「先に休みます。おやすみなさい」
    「……あ、うん。おやすみ」
     一人、居間に残され、ルシオは頭を抱えた。
    (参ったなぁ……。こうなると翌朝まであのまんまだし。今夜はこっちで寝るしかないか)
     ルシオはとりあえず、ソファに座り――コートに入れたままにしていたあの手紙を取り出した。
    (焔紅王国って、そんなにひどいところなのかな。ハルがあんなに怒るなんて、よっぽどらしい)
     手紙が納められた封筒をひらっと返してみると、差出人の名前が確認できた。
    「えー、……と、これって『えん』でいいのかな、読み方。……『えんさくらゆき』さん、かな?」
     央南に移って数年経つが、ルシオはあまり央南語が得意ではない。現在においても、大学の講義で学生の名前や地名、史実の名称を呼び間違うことがしばしばあり、学生たちから「カタコト教授」と苦笑されているくらいである。
     ルシオは多少辟易しつつ、手紙の封を開けた。
    (……良かった、中身は央中語で書かれてた。どうやら僕に合わせてくれたみたいだな)



    「ルシオ・ブロッツォ並びに紺納春 農学・魔術学両博士へ

     我が国、焔紅王国は長年、慢性的な食糧難に見舞われております。
     その原因は我が国における食糧生産技術、取り分け穀類をはじめとする各種農業に関する技術が、他国と比較してのみならず、現代の水準と比較しても、著しく劣後していることに大きく起因しております。
     近年においては政治的安定が保たれていることもあり、建国当初に比べればはるかに生産性が上がってきていることは事実ですが、残念ながら王国全土に不足なく行き渡らせられるほどには、未だ生産技術、そして生産力を向上・確保できてはおりません。
     そこで農業研究者として名高い両氏のご助力を賜り、我が国に農業指導を行ってはいただけないかと、ご相談をさせていただきたく存じます。

     我が国の風評は、央南連合下においては著しく劣悪なものであることは十分に承知しているつもりであり、そのような印象のある国から突然このような申し出をされ、不審・不快に思われていらっしゃるであろうことは、十分に察しております。
     ですが現在の我が国においては、長年にわたって安寧秩序が堅く保たれていることは確かであり、決して悪漢や不義の徒が跋扈するような場所ではございません。我が国にご滞在中、決して不快な思いをさせることは無いと、確約いたします。
     どうか我々の願いを聞き届け、我が国にご足労いただけることを願っております。

    焔紅王国 第2代国王 焔桜雪」



    (……うーん?)
     手紙を読み終え、ルシオは首を傾げた。
    (真面目な印象は受けるけど、……なんか、ハルが言ってたみたいなワルモノっぽさは全然感じないんだよなぁ。
     もしもハルの機嫌が直ってたら、手紙見せてみようかな)
     ルシオは手紙を元通りに封筒へとしまい、コートを布団代わりにしてソファに寝転んだ。
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