「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第10部
白猫夢・博侶抄 4
麒麟を巡る話、第490話。
王国の変遷。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
翌朝。
「おはようございます」
「おはよう、ハル」
妻の機嫌が直っていることを確認し、ルシオは恐る恐る話を切り出した。
「ハル、あのさ……」
「なんでしょう?」
「昨夜のことだけど、……これ」
ルシオがおずおずと手紙を差し出した途端、春はまた、不機嫌な表情を浮かべた。
「王国の方からの?」
「うん、……で、読んでみたんだけど、なんか真面目だったよ」
「真面目?」
「うん。何て言うか、君が言ってたみたいな、すごく悪い奴らって感じじゃ全然無かった」
「……」
春は手紙を手に取り、内容を確かめる。
「……そうですね。確かにこの文章からは、悪い印象を受けません」
「だろ?」
「確かに、わたしにしても王国に対する風評は、昔に聞いたっきりですから。今は違うのかも知れませんね。
一度、王国の状況を調べてみた方がいいですね」
「うん、そうだね」
どうにか妻の機嫌を損ねずに手紙のことを話し合うことができ、ルシオは内心ほっとしていた。
《おう、久しぶりだな》
その日の夕方、ルシオは何年かぶりに、恩師へ連絡を取った。
「お久しぶりです、テンコちゃん。お変わりありませんか?」
《全然変わんねーぜ。ソッチはどうだ? 子供できたりしたか?》
「いや、なかなか恵まれなくて……。
いえ、それよりもテンコちゃん。ちょっとお尋ねしたいことがあるんですが、よろしいでしょうか?」
《ん? どうした、改まって》
「テンコちゃんのゼミで今、央南から来てる子っていますか?」
《ボチボチいるぜ。ソレがどうした?》
「その中に、焔紅王国から来たって言うのは……」
《えんこー? なんだソレ?》
天狐の返答に、ルシオはがっかりする。
「あ、いえ。知らないなら……」
《待て》
と、ルシオが話を切り上げようとしたとことで、天狐が引き止める。
《わざわざ数年ぶりにオレに電話かけてくるよーなコトだろ? ってコトは、自分たちの周りじゃ調べられねーような、面倒な話をしようとしたんじゃねーのか?》
「ええ、まあ」
《央南関係か?》
「はい」
《んー……え、何?》
と、受話器の向こうでボソボソと話し声が聞こえてくる。
《……ああ……知ってんの……いや……へー……うわ、バッカでー……あ、なるほど……へー……マジでか……すげーなソイツ……あ、悪り悪り。ちょっと知り合いに聞いてた。
ちっと代わるわ。ソイツの方が詳しいし》
「え?」
聞き返す間も無く、電話の向こうから聞こえてきた声が、天狐のものから別の者へと変わる。
《電話代わったね。えーと、ルシオ? だっけね?》
「あ、はい。ルシオ・ブロッツォです」
《おう。んで、焔紅王国のコト聞きたいってね?》
「ええ。詳しく伺いたいのですが……」
《長くなるけどいいかね?》
「どれくらいですか?」
《んー、複雑だから結構かかるかもね。あ、電話代気にしてるね?》
「ちょっと。国際電話ですし」
《分かった、コッチからかけ直すね。一旦受話器置いてね》
「すみません、どうも」
一旦相手からかけ直してもらったところで、ルシオはその相手から、焔紅王国についての経緯を詳しく聞くことができた。
《まあ、その焔紅王国ってのがそもそも、544年だか545年だかに建国したばっかりの、結構新しい国なんだよね。
ただ、建国に行き着くまでが最悪の道のりでね。元は央南連合の一角、紅州だったんだけども、その中にある紅蓮塞ってトコで武力蜂起があって、ソレが元で央南連合と揉めまくった結果、連合側がこんなバカで無謀で野蛮なヤツらに構ってらんないっつって分割したのさ。
そんな風にしてできた国だから勿論、まともな政治体制なんか無いも同然。治安もインフラも壊滅的、財政はグズグズに腐りまくりで、悪の巣窟なんて言われてた。初代国王、焔小雪の時代は『最低最悪』以外の評価は皆無、正真正銘のならず者国家って評されてたね。
でも――鳶が鷹を生むって言うヤツかねぇ――その娘の焔桜雪が国王になって以降、王国は大転換したんだよね》
白猫夢・博侶抄 終
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王国の変遷。
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翌朝。
「おはようございます」
「おはよう、ハル」
妻の機嫌が直っていることを確認し、ルシオは恐る恐る話を切り出した。
「ハル、あのさ……」
「なんでしょう?」
「昨夜のことだけど、……これ」
ルシオがおずおずと手紙を差し出した途端、春はまた、不機嫌な表情を浮かべた。
「王国の方からの?」
「うん、……で、読んでみたんだけど、なんか真面目だったよ」
「真面目?」
「うん。何て言うか、君が言ってたみたいな、すごく悪い奴らって感じじゃ全然無かった」
「……」
春は手紙を手に取り、内容を確かめる。
「……そうですね。確かにこの文章からは、悪い印象を受けません」
「だろ?」
「確かに、わたしにしても王国に対する風評は、昔に聞いたっきりですから。今は違うのかも知れませんね。
一度、王国の状況を調べてみた方がいいですね」
「うん、そうだね」
どうにか妻の機嫌を損ねずに手紙のことを話し合うことができ、ルシオは内心ほっとしていた。
《おう、久しぶりだな》
その日の夕方、ルシオは何年かぶりに、恩師へ連絡を取った。
「お久しぶりです、テンコちゃん。お変わりありませんか?」
《全然変わんねーぜ。ソッチはどうだ? 子供できたりしたか?》
「いや、なかなか恵まれなくて……。
いえ、それよりもテンコちゃん。ちょっとお尋ねしたいことがあるんですが、よろしいでしょうか?」
《ん? どうした、改まって》
「テンコちゃんのゼミで今、央南から来てる子っていますか?」
《ボチボチいるぜ。ソレがどうした?》
「その中に、焔紅王国から来たって言うのは……」
《えんこー? なんだソレ?》
天狐の返答に、ルシオはがっかりする。
「あ、いえ。知らないなら……」
《待て》
と、ルシオが話を切り上げようとしたとことで、天狐が引き止める。
《わざわざ数年ぶりにオレに電話かけてくるよーなコトだろ? ってコトは、自分たちの周りじゃ調べられねーような、面倒な話をしようとしたんじゃねーのか?》
「ええ、まあ」
《央南関係か?》
「はい」
《んー……え、何?》
と、受話器の向こうでボソボソと話し声が聞こえてくる。
《……ああ……知ってんの……いや……へー……うわ、バッカでー……あ、なるほど……へー……マジでか……すげーなソイツ……あ、悪り悪り。ちょっと知り合いに聞いてた。
ちっと代わるわ。ソイツの方が詳しいし》
「え?」
聞き返す間も無く、電話の向こうから聞こえてきた声が、天狐のものから別の者へと変わる。
《電話代わったね。えーと、ルシオ? だっけね?》
「あ、はい。ルシオ・ブロッツォです」
《おう。んで、焔紅王国のコト聞きたいってね?》
「ええ。詳しく伺いたいのですが……」
《長くなるけどいいかね?》
「どれくらいですか?」
《んー、複雑だから結構かかるかもね。あ、電話代気にしてるね?》
「ちょっと。国際電話ですし」
《分かった、コッチからかけ直すね。一旦受話器置いてね》
「すみません、どうも」
一旦相手からかけ直してもらったところで、ルシオはその相手から、焔紅王国についての経緯を詳しく聞くことができた。
《まあ、その焔紅王国ってのがそもそも、544年だか545年だかに建国したばっかりの、結構新しい国なんだよね。
ただ、建国に行き着くまでが最悪の道のりでね。元は央南連合の一角、紅州だったんだけども、その中にある紅蓮塞ってトコで武力蜂起があって、ソレが元で央南連合と揉めまくった結果、連合側がこんなバカで無謀で野蛮なヤツらに構ってらんないっつって分割したのさ。
そんな風にしてできた国だから勿論、まともな政治体制なんか無いも同然。治安もインフラも壊滅的、財政はグズグズに腐りまくりで、悪の巣窟なんて言われてた。初代国王、焔小雪の時代は『最低最悪』以外の評価は皆無、正真正銘のならず者国家って評されてたね。
でも――鳶が鷹を生むって言うヤツかねぇ――その娘の焔桜雪が国王になって以降、王国は大転換したんだよね》
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