「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第10部
白猫夢・桜燃抄 1
麒麟を巡る話、第491話。
女王の醜聞。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
紅蓮塞における家元の親殺し未遂から焔流本家による紅州の武力制圧、度重なる連合との意見対立、黄州襲撃未遂、そして央南連合から半ば見限られたような独立――紆余曲折を経て建国された焔紅王国は、成立したその当初から混迷を極めていた。
焔流家元であった頃からその地位に吊り合わない器であると評されていた焔小雪は、国王となってからもやはり、単なる「お神輿」のままであった。
建国直後こそ、何とかその役目を果たそうと奮闘していたものの、何年も経たぬうちに生来の性格――面倒事を片っ端から他人任せにし、その利益だけを掠め取り、独占しようとする悪癖が現れ始め、次第に実務から手を引くようになった。
さらに元々有していた地位、焔流家元についても、この頃にはほとんど刀を握ることが無くなっていたにもかかわらず、弟やその家族、またはその他の有力者に譲ることを一切拒否。ろくに指導も鍛錬も行わない、こちらも名ばかりの地位となっていた。
国家元首であり、その国内における社会規範の鑑となる人間がその体たらくである。当然、焔紅王国は荒れ放題であった。
巷には焔流の名を傘に着た、半ばならず者と化した剣士たちがうろつき回り、地場代や税金と称した略奪・徴発を勝手気ままに行っていたし、農耕や漁業に精を出すよりも近隣都市へ盗みに行った方が早いとして、州境で乱暴狼藉を働く輩が後を絶たない。
国家としての規範や規律、秩序など微塵も無い、紛うことなき「ならず者国家」が、そこには形成されていた。
そしてさらにもう一つ、女王小雪には新たな悪癖が現れていた。
腐っても「国王」であるため、その地位を狙うべく求婚する者が、建国以降から数多く現れるようになった。
それを自分個人の魅力に対してのものであると勘違いした小雪は嬉々として彼らを囲い、彼らからの口先と上辺ばかりの愛をむさぼるようになった。
そしてその結果、当然の帰結として――。
「は?」
「だから、できたって言ってんのよ」
「できたって、……子供がか?」
建国から4年が経った、双月暦549年。
王国内の政府における最高位、左大臣の任に就いていた深見豪一は、女王からの突然の告白に戸惑っていた。
「相手は?」
「分かんないわよ、そんなの。一杯いたし」
「アホか」
深見は頭を抱え、呆れた様子でうめく。
「お前さあ……、本当に自分が王様って自覚、あんのかよ?」
「女王じゃなきゃオトコの取っ替え引っ替えなんてできないわよ」
「ざけんなよ、マジで……。
この話が巷に広まったら、また大騒ぎになるじゃねーかよ。『あのおバカ女王が、今度は誰が父親とも分からない子供を産んだ』って。
ただでさえお前のバカ三昧のせいで国内の統制が取れてねーってのに、またこんな醜聞を広める気かよ?」
「それなのよ。ね、豪一」
と、小雪は深見の手を取る。
「あんたが父親ってことにしといてよ。で、今すぐ結婚して。相手、短耳ばっかりだったから、多分子供も短耳か長耳のどっちかだと思うし、辻褄合うから」
「……はぁ!?」
唖然とする深見に、小雪はイタズラっぽく笑いかけた。
「ね、いいでしょ? 顔と筋肉しか取り柄の無い奴らより、あんたが相手だって公表するならまだマシだし。あんたも『女王の婿』ってことで、色々便利でしょ?」
「てめーなんか女としてこれっぽっちも見てねーよ」
「あたしだって正直、あんたなんか旦那にしたくないわよ。でも『相手が分かりません』よりはさ、まだマシかなって」
「……バカ女め……」
あまりにも異常な頼みではあったが、仮にも女王である小雪からの命令を無視しては、深見が懸念している国内秩序の崩壊に拍車がかかってしまう。やむなく、深見は小雪と結婚することになった。
そして約半年が過ぎ、双月暦550年に年が改まってすぐ――その事実上の私生児は、小雪と深見の子供として誕生した。
@au_ringさんをフォロー
女王の醜聞。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
紅蓮塞における家元の親殺し未遂から焔流本家による紅州の武力制圧、度重なる連合との意見対立、黄州襲撃未遂、そして央南連合から半ば見限られたような独立――紆余曲折を経て建国された焔紅王国は、成立したその当初から混迷を極めていた。
焔流家元であった頃からその地位に吊り合わない器であると評されていた焔小雪は、国王となってからもやはり、単なる「お神輿」のままであった。
建国直後こそ、何とかその役目を果たそうと奮闘していたものの、何年も経たぬうちに生来の性格――面倒事を片っ端から他人任せにし、その利益だけを掠め取り、独占しようとする悪癖が現れ始め、次第に実務から手を引くようになった。
さらに元々有していた地位、焔流家元についても、この頃にはほとんど刀を握ることが無くなっていたにもかかわらず、弟やその家族、またはその他の有力者に譲ることを一切拒否。ろくに指導も鍛錬も行わない、こちらも名ばかりの地位となっていた。
国家元首であり、その国内における社会規範の鑑となる人間がその体たらくである。当然、焔紅王国は荒れ放題であった。
巷には焔流の名を傘に着た、半ばならず者と化した剣士たちがうろつき回り、地場代や税金と称した略奪・徴発を勝手気ままに行っていたし、農耕や漁業に精を出すよりも近隣都市へ盗みに行った方が早いとして、州境で乱暴狼藉を働く輩が後を絶たない。
国家としての規範や規律、秩序など微塵も無い、紛うことなき「ならず者国家」が、そこには形成されていた。
そしてさらにもう一つ、女王小雪には新たな悪癖が現れていた。
腐っても「国王」であるため、その地位を狙うべく求婚する者が、建国以降から数多く現れるようになった。
それを自分個人の魅力に対してのものであると勘違いした小雪は嬉々として彼らを囲い、彼らからの口先と上辺ばかりの愛をむさぼるようになった。
そしてその結果、当然の帰結として――。
「は?」
「だから、できたって言ってんのよ」
「できたって、……子供がか?」
建国から4年が経った、双月暦549年。
王国内の政府における最高位、左大臣の任に就いていた深見豪一は、女王からの突然の告白に戸惑っていた。
「相手は?」
「分かんないわよ、そんなの。一杯いたし」
「アホか」
深見は頭を抱え、呆れた様子でうめく。
「お前さあ……、本当に自分が王様って自覚、あんのかよ?」
「女王じゃなきゃオトコの取っ替え引っ替えなんてできないわよ」
「ざけんなよ、マジで……。
この話が巷に広まったら、また大騒ぎになるじゃねーかよ。『あのおバカ女王が、今度は誰が父親とも分からない子供を産んだ』って。
ただでさえお前のバカ三昧のせいで国内の統制が取れてねーってのに、またこんな醜聞を広める気かよ?」
「それなのよ。ね、豪一」
と、小雪は深見の手を取る。
「あんたが父親ってことにしといてよ。で、今すぐ結婚して。相手、短耳ばっかりだったから、多分子供も短耳か長耳のどっちかだと思うし、辻褄合うから」
「……はぁ!?」
唖然とする深見に、小雪はイタズラっぽく笑いかけた。
「ね、いいでしょ? 顔と筋肉しか取り柄の無い奴らより、あんたが相手だって公表するならまだマシだし。あんたも『女王の婿』ってことで、色々便利でしょ?」
「てめーなんか女としてこれっぽっちも見てねーよ」
「あたしだって正直、あんたなんか旦那にしたくないわよ。でも『相手が分かりません』よりはさ、まだマシかなって」
「……バカ女め……」
あまりにも異常な頼みではあったが、仮にも女王である小雪からの命令を無視しては、深見が懸念している国内秩序の崩壊に拍車がかかってしまう。やむなく、深見は小雪と結婚することになった。
そして約半年が過ぎ、双月暦550年に年が改まってすぐ――その事実上の私生児は、小雪と深見の子供として誕生した。
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~