「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第4部
蒼天剣・繁華録 2
晴奈の話、第174話。
日上追跡のための下準備。
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2.
晴奈たちが5000クラムで得た情報は、次の通り。
まず、日上の有する軍事力、「日上軍閥」の存在。
元々、ジーン王国は大まかには山間部と沿岸部の二地域に大別される。王国の首都は山間部にあるのだが、それ故に沿岸部への影響力が弱い。
そのため歴史上、何度も首都や王室の意向から離れて独断専行する軍の派閥、「軍閥」が発生・勃興してきた。
そして今現在、日上を英雄視する者たちによって軍閥が結成され、沿岸部・ウィンドフォートに新たな基地を築き、我が物顔で振舞っているのだと言う。
次に、日上の側近たちの存在。
日上は軍閥の中から優秀な人材を集め、側近に置いていると言う。その数はおよそ10名にも満たないが、どれも一騎当千の兵であるらしい。
中でも日上が参謀として外部から招きいれた洋巾(フード)の男、アランは一際異彩を放っており、その異様な見た目も相まって、「日上に与する悪魔なのでは」とするうわさも流れていると言う。
そして、日上自身の情報。
日上は若干20歳にして中佐、そして軍閥の宗主と言う、現在の地位を確立した。その実力は大火と数十分に渡って戦い抜くと言う偉業を成し――もっとも、結果的には片目を失うほどの重傷を負う、手痛い敗北だったわけだが――今や世界の軍事バランスに多大な影響を与えるほどの重要人物となっている。
また、若くして多大な権力を得たためか、日常生活の面では非常に退廃、堕落しており、非常に好色な面を見せているそうだ。
「……そして、その方面に詳しい関係者筋によれば、現在日上は央中にお忍びで滞在しているらしく、現ネール公国大公、ランニャ・ネール6世との熱愛も噂されていることから、ネール公国首都、クラフトランドを目指しているのでは……、ないだろうか、か。ふむ……」
晴奈は地図を机の上に広げ、クラフトランドの位置を確認した。
「ここ、が、ゴールドコーストで、そこから、北……、北西に、ふむ……、央中を、対角線上に端から端か。随分と遠いな」
「そりゃ、『狐』の本拠地と、『狼』の本拠地だもん。伝統的に仲が悪い家同士だから、テリトリーも遠いのよ」
「なるほど。小鈴殿、ここからクラフトランドまでは、どれくらいかかりますか?」
小鈴は指で地図をなぞりながら、計算する。
「えーと、んー、ココから北西のリトルマイン、……フォルピア湖で、ミッドランドを抜けて、んで、ココで関所が2つ、ソコからルーバスポートに立ち寄ってー……、うん。
この街から船に乗って海路って方法もあるけど、バカ高いし管理も厳重だから、北方からお忍びで来てるよーなヤツが使う可能性は低いわ。陸路で進む方が、可能性高いでしょうね。
んで陸路だけど、手続き的に一番早いのはココから北西の街に進み、さらに西へ進んだところで湖を越え、ソコから北上するルート。途中で関所が3ヶ所あるけど、警備も管理もぬるめだから、ちょこっと金さえ払えば簡単に進めるわ。
このルートを取れば、問題なきゃ大体半月くらいでクラフトランドに到着するわ」
「ふむ。では早速、追いかけましょう」
席を立ち上がりかけた晴奈を、小鈴が引っ張る。
「ちょい待ち、晴奈」
「何です?」
「今日はもう、日が落ちかけてるわ。慌てて行っても、あんまり進めやしないわよ。ソレより一泊して旅の疲れを取って、朝から出る方がいいわ」
旅慣れた小鈴の指摘に、晴奈は素直に従った。
「……確かに。疲れていないと言えば嘘になります。では今日はこの街で一泊、ですね」
「うんうん」
と、話を聞いていた朱海がニッコリ笑って、提案する。
「ソレならさ、ウチに泊まっていきなよ。あんまり広くないけど、小鈴のよしみだ。
お代は晴奈ちゃんの武勇伝で。アタシも聞いてるからね、『央南の猫侍』の武勇伝は」
朱海の目がキラリと光る。明らかに商売人の目つきをしており、どうやら晴奈から聞いた話を情報屋として、どこかに売るつもりなのだろう。
「はは……。私の、拙い話で良ければ」
晴奈からの話を聴き終え、朱海はぺら、とメモを見せた。
「締めて、12000クラムってトコだねぇ」
「そんなにですか? 私が買った情報以上の額ですが、よろしいのですか?」
「そんだけの価値があるからさ。
そもそも猫侍サマの体験談だって時点で既にプレミアものだし、その中でも特に値が付きそうなのは、『黒い悪魔』と対峙したって時の話だね。
克大火の目撃例は少ないし、話自体もちょっとした伝説じみてて面白い。売ってみりゃ、晴奈ちゃんに提示した数倍の値が付いてもおかしくない。
いやー、いい話聞かせてもらったよ、ホント」
満足げにうんうんと首を振る朱海を見て、小鈴がその頬をプニプニとつつく。
「ちょっとー、ソレならもうちょっと色付けなさいよー」
朱海は「鈴林」の鈴をピシ、と弾きながら答える。
「えー、売れるっつったけども、ホントに売れるかどうかは分かんないしなー」
「じゃ、マジで売れたらもうちょい分け前よこしなさいよ」
「まあ、いいよ、うん。……10%くらい?」
朱海の提示した率を、小鈴は「はっ」と笑い飛ばし、朱海の虎耳を引っ張る。
「なーにが10%よ。提供元なんだし、もっともらわなきゃ。50%でどーよ?」
朱海も負けじと、小鈴の長耳を引っ張る。
「アタシが買わなきゃ、ただの思い出話じゃん。15%」
「晴奈を連れてきたのは誰だっけー? 45%」
「18」「40」「25」「35」「27」「30」
小鈴と朱海はしばらくうなりあい、やがて同時に叫んだ。
「28!」「28!」
「よし! 商談成立!」
がっちり握手している二人を見て、晴奈はため息をついた。
(あ、あほらしい)
人の「モノ」で皮算用をしている小鈴たちを放って、晴奈は街に出た。
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日上追跡のための下準備。
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晴奈たちが5000クラムで得た情報は、次の通り。
まず、日上の有する軍事力、「日上軍閥」の存在。
元々、ジーン王国は大まかには山間部と沿岸部の二地域に大別される。王国の首都は山間部にあるのだが、それ故に沿岸部への影響力が弱い。
そのため歴史上、何度も首都や王室の意向から離れて独断専行する軍の派閥、「軍閥」が発生・勃興してきた。
そして今現在、日上を英雄視する者たちによって軍閥が結成され、沿岸部・ウィンドフォートに新たな基地を築き、我が物顔で振舞っているのだと言う。
次に、日上の側近たちの存在。
日上は軍閥の中から優秀な人材を集め、側近に置いていると言う。その数はおよそ10名にも満たないが、どれも一騎当千の兵であるらしい。
中でも日上が参謀として外部から招きいれた洋巾(フード)の男、アランは一際異彩を放っており、その異様な見た目も相まって、「日上に与する悪魔なのでは」とするうわさも流れていると言う。
そして、日上自身の情報。
日上は若干20歳にして中佐、そして軍閥の宗主と言う、現在の地位を確立した。その実力は大火と数十分に渡って戦い抜くと言う偉業を成し――もっとも、結果的には片目を失うほどの重傷を負う、手痛い敗北だったわけだが――今や世界の軍事バランスに多大な影響を与えるほどの重要人物となっている。
また、若くして多大な権力を得たためか、日常生活の面では非常に退廃、堕落しており、非常に好色な面を見せているそうだ。
「……そして、その方面に詳しい関係者筋によれば、現在日上は央中にお忍びで滞在しているらしく、現ネール公国大公、ランニャ・ネール6世との熱愛も噂されていることから、ネール公国首都、クラフトランドを目指しているのでは……、ないだろうか、か。ふむ……」
晴奈は地図を机の上に広げ、クラフトランドの位置を確認した。
「ここ、が、ゴールドコーストで、そこから、北……、北西に、ふむ……、央中を、対角線上に端から端か。随分と遠いな」
「そりゃ、『狐』の本拠地と、『狼』の本拠地だもん。伝統的に仲が悪い家同士だから、テリトリーも遠いのよ」
「なるほど。小鈴殿、ここからクラフトランドまでは、どれくらいかかりますか?」
小鈴は指で地図をなぞりながら、計算する。
「えーと、んー、ココから北西のリトルマイン、……フォルピア湖で、ミッドランドを抜けて、んで、ココで関所が2つ、ソコからルーバスポートに立ち寄ってー……、うん。
この街から船に乗って海路って方法もあるけど、バカ高いし管理も厳重だから、北方からお忍びで来てるよーなヤツが使う可能性は低いわ。陸路で進む方が、可能性高いでしょうね。
んで陸路だけど、手続き的に一番早いのはココから北西の街に進み、さらに西へ進んだところで湖を越え、ソコから北上するルート。途中で関所が3ヶ所あるけど、警備も管理もぬるめだから、ちょこっと金さえ払えば簡単に進めるわ。
このルートを取れば、問題なきゃ大体半月くらいでクラフトランドに到着するわ」
「ふむ。では早速、追いかけましょう」
席を立ち上がりかけた晴奈を、小鈴が引っ張る。
「ちょい待ち、晴奈」
「何です?」
「今日はもう、日が落ちかけてるわ。慌てて行っても、あんまり進めやしないわよ。ソレより一泊して旅の疲れを取って、朝から出る方がいいわ」
旅慣れた小鈴の指摘に、晴奈は素直に従った。
「……確かに。疲れていないと言えば嘘になります。では今日はこの街で一泊、ですね」
「うんうん」
と、話を聞いていた朱海がニッコリ笑って、提案する。
「ソレならさ、ウチに泊まっていきなよ。あんまり広くないけど、小鈴のよしみだ。
お代は晴奈ちゃんの武勇伝で。アタシも聞いてるからね、『央南の猫侍』の武勇伝は」
朱海の目がキラリと光る。明らかに商売人の目つきをしており、どうやら晴奈から聞いた話を情報屋として、どこかに売るつもりなのだろう。
「はは……。私の、拙い話で良ければ」
晴奈からの話を聴き終え、朱海はぺら、とメモを見せた。
「締めて、12000クラムってトコだねぇ」
「そんなにですか? 私が買った情報以上の額ですが、よろしいのですか?」
「そんだけの価値があるからさ。
そもそも猫侍サマの体験談だって時点で既にプレミアものだし、その中でも特に値が付きそうなのは、『黒い悪魔』と対峙したって時の話だね。
克大火の目撃例は少ないし、話自体もちょっとした伝説じみてて面白い。売ってみりゃ、晴奈ちゃんに提示した数倍の値が付いてもおかしくない。
いやー、いい話聞かせてもらったよ、ホント」
満足げにうんうんと首を振る朱海を見て、小鈴がその頬をプニプニとつつく。
「ちょっとー、ソレならもうちょっと色付けなさいよー」
朱海は「鈴林」の鈴をピシ、と弾きながら答える。
「えー、売れるっつったけども、ホントに売れるかどうかは分かんないしなー」
「じゃ、マジで売れたらもうちょい分け前よこしなさいよ」
「まあ、いいよ、うん。……10%くらい?」
朱海の提示した率を、小鈴は「はっ」と笑い飛ばし、朱海の虎耳を引っ張る。
「なーにが10%よ。提供元なんだし、もっともらわなきゃ。50%でどーよ?」
朱海も負けじと、小鈴の長耳を引っ張る。
「アタシが買わなきゃ、ただの思い出話じゃん。15%」
「晴奈を連れてきたのは誰だっけー? 45%」
「18」「40」「25」「35」「27」「30」
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