「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第10部
白猫夢・桜燃抄 4
麒麟を巡る話、第494話。
五人抜き。
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4.
桜雪の意気に応じるべく、彩は彼女を伴い、密かに反女王を唱える地下組織と接触した。
「九鬼中将! まさか我らの活動に、閣下が参加して下さるとは……」「私が、ではない」
彩は首を振り、傍らにいた娘の肩を叩く。
「娘が戦うと言ったのだ」
「娘? ……ああ、と言うと」
その場にいた剣士たちは、一様に複雑な表情を浮かべる。彼らも女王が自分の子供を臣下の者に厄介払いしていることは知っており、憎むべき相手とそう似ていなくもない、この短耳の少女に対し、冷淡な態度を執ってみせた。
「いやいや、閣下も打算的な方のようで」
「打算? 何のことだ」
「おとぼけにならずとも……。その娘御を神輿と立てて、戦いの大義名分にしようと言うおつもりでしょう?」
「なるほど、そう捉えるか」
うなずくなり、彩は相手の胸倉をぐい、とつかんだ。
「うえっ!? な……なにを……」
「見た目が同じと言って、中身も一緒であるとは限らんぞ。桜雪は見た目こそ女王に似てはいるが、中身は天と地ほどに違う。
何なら試してみるか?」
「と言うと?」
「この子が3歳の頃から、私が鍛え上げたのだ。当然、私に並ぶ腕前を持っている。
この子が単なるお神輿で終わる器か、お前らの剣の腕で測ってみればいい」
「……やれと言うならやりますよ」
彩に言われるまま、彼らの中でも指折りの手練が桜雪と対峙する。
「では、参る」
と、一人が前に出たところで、桜雪は首を振った。
「あ……?」
怖気づいたかと、相手が嘲った表情を向けたところで、桜雪が口を開いた。
「現実的では無いと思います」
「……は?」
「いざ戦となれば、こんな一対一の戦いなど、そうそうあり得ないのでは?
来るなら全員で来てください。実際と沿わないような状況で私の腕を見せても、何ら意味がありませんから」
「……チッ」
元々質がいいとは言えない彼らは、この一言で豹変した。
「偉そうな態度は『お母ちゃん』譲りってか、あぁ? びーびー泣かせてやってもいいんだぜ?」
一方、成り行きを静観していた彩は、娘の態度を咎めたり、剣士らに苦言を呈したりもせず、淡々と言い放った。
「やれるものならな。もし娘が負けるようなことがあれば、その時はあいつを、お前たちの好きにして構わんぞ」
「ま、……マジですか?」
男たちは一様にぎょっとした表情で彩を振り返り、そして一転、舐めるように桜雪を眺め――一斉に襲いかかった。
「やっちまえッ!」
剣士5人が、我先にと桜雪との間合いを詰める。
ところが次の瞬間、桜雪は目の前から消えた。
「……えっ?」
気付いた時には、桜雪の木刀が一人の背中にぐりっとねじ込まれていた。
「ぐえ……っ」
木刀をねじ込まれた剣士は一転、顔を真っ青にし、その場に倒れる。
「まず1人」
「な、なめやがってッ!」
残る4人が一斉に振り返ったところで、またも桜雪が消える。
「……!?」
この時点で4人とも、桜雪の動きを捉えられていないことに気付く。
「がッ……」
また一人、頭を抱えてうずくまる。頭から血を流しており、桜雪に叩かれたことは明白だった。
「残り3人。どうしました?」
姿を見せた桜雪は左手を木刀から離し、くい、と手招きする。
「わたしを手篭めにするのでは無かったのですか?」
「……く」
挑発に乗り、一人が一足飛びに間合いを詰める。
「やったらあッ!」「粗忽者!」
が、飛び込んだところでボキ、と痛々しい音が場に響き渡る。
「うおお、あ、あぁ……」
襲いかかった剣士が肩を抑え、のたうち回る。
「これだけ技を見せておいたと言うのに、真正面からかかってどうこうできる相手と思っているのですか!」
「いい加減にしやがれええ……っ」
と、頭を打たれて倒れていた一人が起き上がり、桜雪を羽交い締めにする。
「やれ! やっちまえ!」
「お、……おうっ!」
残る2人が木刀を構え直し、桜雪に迫る。
ところがすぐ眼前まで間合いが詰まったところで、桜雪がその一方を蹴り倒す。
「うぐっ!?」
もう一方にも足を付いて足場にし、桜雪は宙に浮く。
「あ……」
桜雪を羽交い締めにしていた者が、一瞬にして桜雪に背後を取られる。
「終わりです」
桜雪は渾身の力を込めて相手に体全体をぶつけ、残っていた剣士2人もろとも突き飛ばした。
「おわあああっ!?」
「ぐげ……っ」
「ま、じ……かよ」
3人同時に転げ回り、そのまま動かなくなる。
一人その場に残った桜雪が、周りに怒鳴った。
「他にはいないのですか!? わたしを叩きのめしてやろうと言う気骨、気概のある者はッ!」
「まあ、そのくらいでいいだろう」
成り行きを眺めていた彩が、そこで桜雪を止めようとする。
ところが、桜雪は続けてこう怒鳴った。
「このくらいで!? もしこの程度でやめると言うのならば、あなた方は口先ばかりの軟弱者です!
この国を力ずくで変えようと言う者が、たった15歳の小娘一人止められずに、一体何をしようと言うのですかッ!」
(まったく……。やり過ぎだ、桜雪)
怒鳴り倒す娘に、彩は内心、呆れ返っていた。
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五人抜き。
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桜雪の意気に応じるべく、彩は彼女を伴い、密かに反女王を唱える地下組織と接触した。
「九鬼中将! まさか我らの活動に、閣下が参加して下さるとは……」「私が、ではない」
彩は首を振り、傍らにいた娘の肩を叩く。
「娘が戦うと言ったのだ」
「娘? ……ああ、と言うと」
その場にいた剣士たちは、一様に複雑な表情を浮かべる。彼らも女王が自分の子供を臣下の者に厄介払いしていることは知っており、憎むべき相手とそう似ていなくもない、この短耳の少女に対し、冷淡な態度を執ってみせた。
「いやいや、閣下も打算的な方のようで」
「打算? 何のことだ」
「おとぼけにならずとも……。その娘御を神輿と立てて、戦いの大義名分にしようと言うおつもりでしょう?」
「なるほど、そう捉えるか」
うなずくなり、彩は相手の胸倉をぐい、とつかんだ。
「うえっ!? な……なにを……」
「見た目が同じと言って、中身も一緒であるとは限らんぞ。桜雪は見た目こそ女王に似てはいるが、中身は天と地ほどに違う。
何なら試してみるか?」
「と言うと?」
「この子が3歳の頃から、私が鍛え上げたのだ。当然、私に並ぶ腕前を持っている。
この子が単なるお神輿で終わる器か、お前らの剣の腕で測ってみればいい」
「……やれと言うならやりますよ」
彩に言われるまま、彼らの中でも指折りの手練が桜雪と対峙する。
「では、参る」
と、一人が前に出たところで、桜雪は首を振った。
「あ……?」
怖気づいたかと、相手が嘲った表情を向けたところで、桜雪が口を開いた。
「現実的では無いと思います」
「……は?」
「いざ戦となれば、こんな一対一の戦いなど、そうそうあり得ないのでは?
来るなら全員で来てください。実際と沿わないような状況で私の腕を見せても、何ら意味がありませんから」
「……チッ」
元々質がいいとは言えない彼らは、この一言で豹変した。
「偉そうな態度は『お母ちゃん』譲りってか、あぁ? びーびー泣かせてやってもいいんだぜ?」
一方、成り行きを静観していた彩は、娘の態度を咎めたり、剣士らに苦言を呈したりもせず、淡々と言い放った。
「やれるものならな。もし娘が負けるようなことがあれば、その時はあいつを、お前たちの好きにして構わんぞ」
「ま、……マジですか?」
男たちは一様にぎょっとした表情で彩を振り返り、そして一転、舐めるように桜雪を眺め――一斉に襲いかかった。
「やっちまえッ!」
剣士5人が、我先にと桜雪との間合いを詰める。
ところが次の瞬間、桜雪は目の前から消えた。
「……えっ?」
気付いた時には、桜雪の木刀が一人の背中にぐりっとねじ込まれていた。
「ぐえ……っ」
木刀をねじ込まれた剣士は一転、顔を真っ青にし、その場に倒れる。
「まず1人」
「な、なめやがってッ!」
残る4人が一斉に振り返ったところで、またも桜雪が消える。
「……!?」
この時点で4人とも、桜雪の動きを捉えられていないことに気付く。
「がッ……」
また一人、頭を抱えてうずくまる。頭から血を流しており、桜雪に叩かれたことは明白だった。
「残り3人。どうしました?」
姿を見せた桜雪は左手を木刀から離し、くい、と手招きする。
「わたしを手篭めにするのでは無かったのですか?」
「……く」
挑発に乗り、一人が一足飛びに間合いを詰める。
「やったらあッ!」「粗忽者!」
が、飛び込んだところでボキ、と痛々しい音が場に響き渡る。
「うおお、あ、あぁ……」
襲いかかった剣士が肩を抑え、のたうち回る。
「これだけ技を見せておいたと言うのに、真正面からかかってどうこうできる相手と思っているのですか!」
「いい加減にしやがれええ……っ」
と、頭を打たれて倒れていた一人が起き上がり、桜雪を羽交い締めにする。
「やれ! やっちまえ!」
「お、……おうっ!」
残る2人が木刀を構え直し、桜雪に迫る。
ところがすぐ眼前まで間合いが詰まったところで、桜雪がその一方を蹴り倒す。
「うぐっ!?」
もう一方にも足を付いて足場にし、桜雪は宙に浮く。
「あ……」
桜雪を羽交い締めにしていた者が、一瞬にして桜雪に背後を取られる。
「終わりです」
桜雪は渾身の力を込めて相手に体全体をぶつけ、残っていた剣士2人もろとも突き飛ばした。
「おわあああっ!?」
「ぐげ……っ」
「ま、じ……かよ」
3人同時に転げ回り、そのまま動かなくなる。
一人その場に残った桜雪が、周りに怒鳴った。
「他にはいないのですか!? わたしを叩きのめしてやろうと言う気骨、気概のある者はッ!」
「まあ、そのくらいでいいだろう」
成り行きを眺めていた彩が、そこで桜雪を止めようとする。
ところが、桜雪は続けてこう怒鳴った。
「このくらいで!? もしこの程度でやめると言うのならば、あなた方は口先ばかりの軟弱者です!
この国を力ずくで変えようと言う者が、たった15歳の小娘一人止められずに、一体何をしようと言うのですかッ!」
(まったく……。やり過ぎだ、桜雪)
怒鳴り倒す娘に、彩は内心、呆れ返っていた。
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