「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第10部
白猫夢・桜燃抄 5
麒麟を巡る話、第495話。
桜花、燃え咲く。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
当初こそ、桜雪は地下組織の面々に反感を買ったものの、次第に認められるようになった。
「お前みたいな小娘は気に入らん。……だがその小娘に、いいように倒されたのも事実だ」
桜雪と戦ったあの剣士たちが、彼女の前に並んで立ち、そして揃って頭を下げた。
「お前に負けたことで、我々の力が如何に至らぬものであるか、我々の心構えが如何に現実と沿わぬものであるかを痛感させられた」
「どうか我々と戦うと共に、我々の至らぬ部分について、ご指導・ご鞭撻の程を願いたい」
「……」
そう請われ、桜雪は面食らう様子も見せず、素直にうなずいて返した。
「頭を上げて下さい。わたし自身まだまだ有学の徒ですし、軽々と人に物を教えられるような身ではありません。共に修行し、研鑽し合うと言うことであれば、喜んでお受けいたします」
その落ち着いた物腰と謙虚な態度、一方でいざ機に差し掛かった時の勇猛果敢な姿勢は、同志たちの心をいつしか、がっちりとつかんでいた。
15歳にして既に優れた剣才を発揮し、その言動と物腰に人を惹きつけてやまぬ魅力を持っていた彼女は、瞬く間に多くの剣士たちから人望を集めた。
それは紛れもない「カリスマ」――王となる者に求められる、類稀なる才能であり、彼女は自覚してか、それとも無自覚のままか、この頃からその才能を発揮・行使し始めた。
事実、それまで「反女王」を掲げていながら、何らまともな活動を行わず、有名無実の組織となっていた彼らは、桜雪が加盟してからわずか半年後――彼女を旗頭にして、最初の攻撃を行った。
「大変です、左大臣閣下!」
双月暦566年。王国にとってのその凶報が左大臣、深見の元に届けられた。
「王国東国境付近、梅宿を反女王派と名乗る連中が占拠しました! 謀反にございます!」
「なっ……!? 謀反だとぉ!?」
囲っていた女の膝に頭を預けていた深見は慌てて起き上がり、乱れた衣服を整える。
「……いや、無い方がおかしいか。むしろ『ようやくかよ』って感じだな。
で、相手の情報は?」
「謀反の中心人物となっているのは、九鬼桜雪と名乗る短耳です。兵の数はおよそ200ほどであると」
「……ん、んん? 九鬼って、……あの九鬼か? いや、九鬼は九鬼でも名前が違うな」
眉間にしわを寄せた深見に、伝令はこくっと短くうなずく。
「ええ、九鬼彩中将の娘御とのことです」
「むすめぇ?」
深見は腑に落ちない、と言う顔をする。
「あの剣術一本バカに男や夫がいるとは思えんが。養子か何かか? それともあの単細胞のことだし、細胞分裂でもしたか? ひひひ……」
「……いや、あの、ほら、閣下」
伝令が額の汗を拭きつつ、恐る恐るこう返す。
「九鬼中将に、預けたではないですか」
「何を?」
「ですから、ほら、あの、……ごにょごにょ、……の娘を」
「……あー、はいはいはい。そう言えばいたな、そんなの」
ようやく桜雪の素性を思い出したらしく、途端に深見は大欠伸をして見せた。
「ふあー、あーぁ……。適当に兵隊を送っとけ。……んだよ、びっくりさせやがって」
「閣下?」
「九鬼んとこに預けた娘って言や、まだ15か16ってとこだろ? そんな小娘に何ができるんだっつの。しかもあのバカ殿の血ぃ引いてんだぜ?」
「……なるほど。それもそうですな。
ではあの近隣の基地に駐留している者に連絡し、殲滅してもらいましょう。……あ、いや、それではまずいですな」
「あ? 何がまずいって?」
「いや、ですから、……ごにょごにょ、の娘となると」
「いーって」
深見は面倒臭そうにぱたぱたと手を振り、こう言い放った。
「どうせあいつも忘れてるさ、産んだこと自体。俺にしても今更構うの、かったるいし。殺しちまった方が後腐れなくていい。
いや、むしろきっちり殺せ。だがくれぐれも、あいつの娘だってことが漏れないようにしろ。それが広まると面倒だしな」
「御意」
結論から言えば、この時深見は桜雪本人の才能と能力、そして彼女が起こした謀反による影響に対して、致命的な判断ミスを犯していた。
簡単に蹴散らせると踏んで差し向けた兵隊はあっと言う間に全滅し――その上、この敗残兵たちは一人残らず、桜雪に下ってしまったのだ。
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桜花、燃え咲く。
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当初こそ、桜雪は地下組織の面々に反感を買ったものの、次第に認められるようになった。
「お前みたいな小娘は気に入らん。……だがその小娘に、いいように倒されたのも事実だ」
桜雪と戦ったあの剣士たちが、彼女の前に並んで立ち、そして揃って頭を下げた。
「お前に負けたことで、我々の力が如何に至らぬものであるか、我々の心構えが如何に現実と沿わぬものであるかを痛感させられた」
「どうか我々と戦うと共に、我々の至らぬ部分について、ご指導・ご鞭撻の程を願いたい」
「……」
そう請われ、桜雪は面食らう様子も見せず、素直にうなずいて返した。
「頭を上げて下さい。わたし自身まだまだ有学の徒ですし、軽々と人に物を教えられるような身ではありません。共に修行し、研鑽し合うと言うことであれば、喜んでお受けいたします」
その落ち着いた物腰と謙虚な態度、一方でいざ機に差し掛かった時の勇猛果敢な姿勢は、同志たちの心をいつしか、がっちりとつかんでいた。
15歳にして既に優れた剣才を発揮し、その言動と物腰に人を惹きつけてやまぬ魅力を持っていた彼女は、瞬く間に多くの剣士たちから人望を集めた。
それは紛れもない「カリスマ」――王となる者に求められる、類稀なる才能であり、彼女は自覚してか、それとも無自覚のままか、この頃からその才能を発揮・行使し始めた。
事実、それまで「反女王」を掲げていながら、何らまともな活動を行わず、有名無実の組織となっていた彼らは、桜雪が加盟してからわずか半年後――彼女を旗頭にして、最初の攻撃を行った。
「大変です、左大臣閣下!」
双月暦566年。王国にとってのその凶報が左大臣、深見の元に届けられた。
「王国東国境付近、梅宿を反女王派と名乗る連中が占拠しました! 謀反にございます!」
「なっ……!? 謀反だとぉ!?」
囲っていた女の膝に頭を預けていた深見は慌てて起き上がり、乱れた衣服を整える。
「……いや、無い方がおかしいか。むしろ『ようやくかよ』って感じだな。
で、相手の情報は?」
「謀反の中心人物となっているのは、九鬼桜雪と名乗る短耳です。兵の数はおよそ200ほどであると」
「……ん、んん? 九鬼って、……あの九鬼か? いや、九鬼は九鬼でも名前が違うな」
眉間にしわを寄せた深見に、伝令はこくっと短くうなずく。
「ええ、九鬼彩中将の娘御とのことです」
「むすめぇ?」
深見は腑に落ちない、と言う顔をする。
「あの剣術一本バカに男や夫がいるとは思えんが。養子か何かか? それともあの単細胞のことだし、細胞分裂でもしたか? ひひひ……」
「……いや、あの、ほら、閣下」
伝令が額の汗を拭きつつ、恐る恐るこう返す。
「九鬼中将に、預けたではないですか」
「何を?」
「ですから、ほら、あの、……ごにょごにょ、……の娘を」
「……あー、はいはいはい。そう言えばいたな、そんなの」
ようやく桜雪の素性を思い出したらしく、途端に深見は大欠伸をして見せた。
「ふあー、あーぁ……。適当に兵隊を送っとけ。……んだよ、びっくりさせやがって」
「閣下?」
「九鬼んとこに預けた娘って言や、まだ15か16ってとこだろ? そんな小娘に何ができるんだっつの。しかもあのバカ殿の血ぃ引いてんだぜ?」
「……なるほど。それもそうですな。
ではあの近隣の基地に駐留している者に連絡し、殲滅してもらいましょう。……あ、いや、それではまずいですな」
「あ? 何がまずいって?」
「いや、ですから、……ごにょごにょ、の娘となると」
「いーって」
深見は面倒臭そうにぱたぱたと手を振り、こう言い放った。
「どうせあいつも忘れてるさ、産んだこと自体。俺にしても今更構うの、かったるいし。殺しちまった方が後腐れなくていい。
いや、むしろきっちり殺せ。だがくれぐれも、あいつの娘だってことが漏れないようにしろ。それが広まると面倒だしな」
「御意」
結論から言えば、この時深見は桜雪本人の才能と能力、そして彼女が起こした謀反による影響に対して、致命的な判断ミスを犯していた。
簡単に蹴散らせると踏んで差し向けた兵隊はあっと言う間に全滅し――その上、この敗残兵たちは一人残らず、桜雪に下ってしまったのだ。
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