「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第10部
白猫夢・揺春抄 1
麒麟を巡る話、第500話。
人懐っこい女王陛下。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
「ようこそ、おいで下さいました」
その国で最も高い位に就くとされているはずのその女性は、ルシオたち夫妻と面会するなり玉座を離れ、彼らの眼前に迫り、深々とお辞儀をして見せた。
「っ、あ、あの」
面食らったルシオは、慌てて応じようとする。
しかしその前に、相手は頭を上げ、ルシオの右手を両手で握りしめてきた。
「こうしてはるばる、我が王国までご足労いただけましたことに、深い感謝の意を表します。どうか我々を助けて下さいますよう、何卒、何卒お願いいたします」
「は、はい。勿論です、ええ」
これほど丁寧に出迎えられるとは思わず、ルシオは終始、目を白黒させていた。
一方、妻の春は冷静に構えている。
「早速ですが、お仕事の話をしたいと思います。ご用意はよろしいでしょうか?」
「はい。では、こちらへ」
女王、焔桜雪はにこっと笑みを浮かべ、二人を案内した。
場所を応接間に移し、桜雪は書類の束が入った箱を差し出した。
「こちらが、過去2年間に我々が行った農業活動と、その経過・結果を記したものです」
「ふむ」
ある程度の落ち着きを取り戻し、ルシオは書類に目を通す。
「……やはり、芳しくないようですね」
「はい。我が国の近隣州や央中から購入した種苗の8割が満足に育たず、また、残り2割も到底、国民全体に行き渡る程には生長しませんでした」
「原因の大部分は恐らく、土壌によるものでしょう。
玄州からこの国に入り、この城に到着するまでに何度か田畑を見る機会がありましたが、一目見ただけでも農作物が育つものではないだろうと、妻と話し合っていました」
「ええ。詳しい調査は後程行う予定ですが、紅州の大部分が火山性土に覆われており、そのために、作物にとって非常に厳しい環境になっているようです」
ルシオと春からそう告げられ、これまで毅然とした、それでいて穏やかな態度で接してきた桜雪の顔に影が差す。
「では、今後も我が国では農業を行うことは不可能、と言うことでしょうか」
「調査しなければ、断言はできません。しかし現段階での我々の見立てとしては、仰る通り非常に難しいと思います」
「そうですか……」
が、桜雪はすぐに表情を改め、にっこりした顔を見せる。
「ともかく、長旅でお疲れのことと思います。ひとまず、今日のところはお休みになっては如何でしょうか?」
この提案に、ルシオたちは素直にうなずいた。
「ええ、そうしたいです。流石に疲れていますし」
「お言葉に甘えます」
「では、我が塞内に宿泊場所を設けておりますので、滞在中はそちらをお使い下さい。温泉地ですので、湯船はいつでもお使いいただいて構いません。お食事については寝室にお運びする予定ですが、何か希望や食べつけないものはございますか?」
「いえ、特には」
「それでは、宿となる場所にご案内いたします」
誰かを呼ぶでもなく立ち上がった桜雪に、春がきょとんとした顔を向けた。
「え?」
「如何されましたか?」
尋ねた桜雪に、春は眉間にしわを寄せつつ尋ね返す。
「あなたが案内を?」
「はい。そのつもりでしたが、何か不都合がございましたか?」
「いえ、女王のあなたがそんなことを、……と言う意味で尋ねたのですが」
「お客様ですから」
桜雪はにこっと笑い、こう続けた。
「我々に少なからず救いの手を差し伸べて下さるのです。であれば、でき得る限り丁寧に応対したいと考えております故」
「そこまでされなくても……」
面食らっている様子の春に、桜雪はまた、にっこりと――恥ずかしそうに、顔を赤らめながら言った。
「それに、ご存じかと思いますが、我が国は他国、取り分け央南連合領地との交流がほとんどございません。
ですから、国外の方と接する機会があれば、……少しでも仲良くしたいのです」
「そうですか」
春は表情を堅くし、無感情そうに返した。
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人懐っこい女王陛下。
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「ようこそ、おいで下さいました」
その国で最も高い位に就くとされているはずのその女性は、ルシオたち夫妻と面会するなり玉座を離れ、彼らの眼前に迫り、深々とお辞儀をして見せた。
「っ、あ、あの」
面食らったルシオは、慌てて応じようとする。
しかしその前に、相手は頭を上げ、ルシオの右手を両手で握りしめてきた。
「こうしてはるばる、我が王国までご足労いただけましたことに、深い感謝の意を表します。どうか我々を助けて下さいますよう、何卒、何卒お願いいたします」
「は、はい。勿論です、ええ」
これほど丁寧に出迎えられるとは思わず、ルシオは終始、目を白黒させていた。
一方、妻の春は冷静に構えている。
「早速ですが、お仕事の話をしたいと思います。ご用意はよろしいでしょうか?」
「はい。では、こちらへ」
女王、焔桜雪はにこっと笑みを浮かべ、二人を案内した。
場所を応接間に移し、桜雪は書類の束が入った箱を差し出した。
「こちらが、過去2年間に我々が行った農業活動と、その経過・結果を記したものです」
「ふむ」
ある程度の落ち着きを取り戻し、ルシオは書類に目を通す。
「……やはり、芳しくないようですね」
「はい。我が国の近隣州や央中から購入した種苗の8割が満足に育たず、また、残り2割も到底、国民全体に行き渡る程には生長しませんでした」
「原因の大部分は恐らく、土壌によるものでしょう。
玄州からこの国に入り、この城に到着するまでに何度か田畑を見る機会がありましたが、一目見ただけでも農作物が育つものではないだろうと、妻と話し合っていました」
「ええ。詳しい調査は後程行う予定ですが、紅州の大部分が火山性土に覆われており、そのために、作物にとって非常に厳しい環境になっているようです」
ルシオと春からそう告げられ、これまで毅然とした、それでいて穏やかな態度で接してきた桜雪の顔に影が差す。
「では、今後も我が国では農業を行うことは不可能、と言うことでしょうか」
「調査しなければ、断言はできません。しかし現段階での我々の見立てとしては、仰る通り非常に難しいと思います」
「そうですか……」
が、桜雪はすぐに表情を改め、にっこりした顔を見せる。
「ともかく、長旅でお疲れのことと思います。ひとまず、今日のところはお休みになっては如何でしょうか?」
この提案に、ルシオたちは素直にうなずいた。
「ええ、そうしたいです。流石に疲れていますし」
「お言葉に甘えます」
「では、我が塞内に宿泊場所を設けておりますので、滞在中はそちらをお使い下さい。温泉地ですので、湯船はいつでもお使いいただいて構いません。お食事については寝室にお運びする予定ですが、何か希望や食べつけないものはございますか?」
「いえ、特には」
「それでは、宿となる場所にご案内いたします」
誰かを呼ぶでもなく立ち上がった桜雪に、春がきょとんとした顔を向けた。
「え?」
「如何されましたか?」
尋ねた桜雪に、春は眉間にしわを寄せつつ尋ね返す。
「あなたが案内を?」
「はい。そのつもりでしたが、何か不都合がございましたか?」
「いえ、女王のあなたがそんなことを、……と言う意味で尋ねたのですが」
「お客様ですから」
桜雪はにこっと笑い、こう続けた。
「我々に少なからず救いの手を差し伸べて下さるのです。であれば、でき得る限り丁寧に応対したいと考えております故」
「そこまでされなくても……」
面食らっている様子の春に、桜雪はまた、にっこりと――恥ずかしそうに、顔を赤らめながら言った。
「それに、ご存じかと思いますが、我が国は他国、取り分け央南連合領地との交流がほとんどございません。
ですから、国外の方と接する機会があれば、……少しでも仲良くしたいのです」
「そうですか」
春は表情を堅くし、無感情そうに返した。
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500話到達。
このペースで行くと、「蒼天剣」の総話数、594話を超えるか、同じくらいになるかも知れません。
思えば、相当長く続けています。
一番最初の話(白猫夢・麒麟抄 1)の掲載日が2012年5月1日。あと半月で、丸3年になります。
「火紅狐」のあとがきで言っていた、まさかの3年超えが現実のものになろうとしています。
いや、話のストックから計算すると、確実に超えます。
例えば「白猫夢」連載開始と同時期くらいに、
中学校入学から1ヶ月が経ってちょっと暇ができてきたなーって子が偶然僕のブログを見つけ、
「白猫夢」にハマったとしたら、その子が中学を卒業し、高校に入ってもまだ、この作品が続いてるわけで。
正直、その子には呆れられて、いや、飽きられているかも知れません。「なげーよ」つって。
そんな子は実はいないのかも知れませんが、いたとしたら、ちょっと申し訳ない気になります。
そろそろ、終わりにする。
以前から何度か言っていましたが、そろそろ本気で、完結に向けて取り掛かりたいと思います。
6月末までには、最終部となる「第11部」を書き上げるつもりです。
(ブログに掲載するまでには、さらに時間がかかります)
ツイッターとか別記事とかで製作状況は報告するつもりなので、進捗が気になった方は見てみて下さい。
500話到達。
このペースで行くと、「蒼天剣」の総話数、594話を超えるか、同じくらいになるかも知れません。
思えば、相当長く続けています。
一番最初の話(白猫夢・麒麟抄 1)の掲載日が2012年5月1日。あと半月で、丸3年になります。
「火紅狐」のあとがきで言っていた、まさかの3年超えが現実のものになろうとしています。
いや、話のストックから計算すると、確実に超えます。
例えば「白猫夢」連載開始と同時期くらいに、
中学校入学から1ヶ月が経ってちょっと暇ができてきたなーって子が偶然僕のブログを見つけ、
「白猫夢」にハマったとしたら、その子が中学を卒業し、高校に入ってもまだ、この作品が続いてるわけで。
正直、その子には呆れられて、いや、飽きられているかも知れません。「なげーよ」つって。
そんな子は実はいないのかも知れませんが、いたとしたら、ちょっと申し訳ない気になります。
そろそろ、終わりにする。
以前から何度か言っていましたが、そろそろ本気で、完結に向けて取り掛かりたいと思います。
6月末までには、最終部となる「第11部」を書き上げるつもりです。
(ブログに掲載するまでには、さらに時間がかかります)
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