「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第10部
白猫夢・揺春抄 4
麒麟を巡る話、第503話。
不穏なうわさ。
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4.
酒が回り出したのか、エミリオは饒舌になり始めた。
「そんな事情があるからな、じわじわ他の国・地域も央南と北方から撤退し始めとる。
ちゅうても明らかに、『向こう』から縁切ろうとしとるからな。こっちにしたら『そんなら出てったるわボケ』っちゅう感じや」
「はあ」
「そもそも、なんでこんな『追い出し』政策しとるかちゅうとな、あの白猫党っちゅう輩のせいや。あいつら中央大陸のあっちこっちで好き放題やっとる上に、西方まで手ぇ伸ばしたやろ?」
「らしいですね」
「ほんで、北方を政治基盤にしとるナイジェルと、連合主席のタチバナは揃って慌てよったんや。『何としてでも自分の領土を死守せな』ちゅうことで、徹底的に他地域の勢力を追い払っとるっちゅうわけやな。
まあ、気持ちは分かる。あいつらも容赦無いからな、いざ傘下に下ったら権力者層は軒並みえらい目に遭うやろし、そら徹底的に排除せなっちゅうのんは分かる」
「はあ」
「せやけど、連合も連合やで! えげつなさで言うたら、あいつらも同類や!
博士も気ぃ付けた方がええで――あいつら、自分の身と利益守るためやったら、どんなえげつない悪事も平気でやりよるからな」
「……え?」
ぼんやりと生返事を続けていたルシオだったが、穏やかでないエミリオの話に、思わず尋ね返していた。
「悪事って?」
「元々な、連合と王国――ちゅうても前体制、コユキ時代の話やけど――には色々、秘密協定があってん。
重犯罪者を王国に『処理』してもらうとか、王国の地下深くに溜まっとるマグマを利用して、連合専用の産業廃棄物処理場を造ってもらうとかする代わりに、前女王は連合からたんまり、裏でカネもろてたらしいねん。
で、サユキ時代になってからすぐ、現女王はその密約を全部破棄、反故にした上に、その事実を世界に向けて公表しよったんや。
女王からすれば『自分らはどこまでもクリーンやで』っちゅうイメージをアピールしたかったみたいやけど、連合からすればたまったもんやない。向こうにしてみれば、『秘密にしとった悪事をバラされた』やからな。
それもあって、連合の国際的なイメージは今、めっちゃ悪いねん。おまけに『腐敗・堕落した権力者層の排除』を謳う白猫党に対して、攻めさせる格好の口実を与えたことになるわけやしな。
とは言え、そう言う恨みつらみはあるけども、連合は王国を容易に攻撃でけへん。さんざ悪い印象与えとるところで主だって王国に制裁なんかしようもんなら、それこそ連合にとっては、致命的に悪いイメージを広めることになるからな。
ちゅうわけで、連合は陰でこそこそっと報復しとるらしいわ。連合軍に身分隠させて、王国から出とる船を襲撃したり、王国と連合を行き来しとる人間を秘密裏に拘束したりな」
「拘束……!?」
「ああ。ほんで有ること無いこと立て並べて犯罪者に仕立て上げて、『王国は犯罪者の温床や』と言いふらしとるらしいわ。
あくまで『王国は悪の巣窟、連合は嘘を言いふらされて被害を受けとる』っちゅう話にしたいらしいわ。……ま、僕も聞いただけやし、実際に被害に遭ったっちゅうことは、まだ無いけどな」
途中まで程よく酩酊していたものの、エミリオが最後にした話で水を差され、ルシオの酔いはすっかり醒めてしまっていた。
「……」
活気ある温泉街から戻り、紅蓮塞への若干寂しい道中に差し掛かったところで、ルシオは不安に苛まれる。
(王国に関係した人間は連合から報復、……か。『まさか』とは思うけど、……でも、『もしかして』って言う不安を捨て切れない。
明日には暇を願い出ようと考えてたけど、そんな事情があるなら、やっぱり帰国を延期すべきじゃないだろうか。
説得には骨が折れるだろうけど、一応、ハルに伝えておこう)
考えをまとめているうちに紅蓮塞の門前に着き、ルシオは立番らに会釈する。
「戻りました」
「お帰りなさいませ、博士」
立番二人は深々と頭を下げ、そしてこう尋ねてきた。
「奥方はご一緒ではないのですか?」
「え?」
きょとんとしたルシオに、立番が怪訝な顔を向ける。
「先程、奥方が出て行かれましたが……?」
「てっきり博士と街で落ち合うものと思っておりましたが、お会いにならなかったのですか?」
「いや、妻は寝てた、はず、……だけ、ど」
ルシオの背中に、冷たいものが走る。
「いつの話ですか?」
「1時間ほど前です」
「何か、荷物とかは……」
「ええ。かばんを提げていらっしゃいました。……うん?」
「まさか、博士? 奥方は……」
途端に、ルシオはその場にへたり込んだ。
「……そんな、……ハル!」
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不穏なうわさ。
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酒が回り出したのか、エミリオは饒舌になり始めた。
「そんな事情があるからな、じわじわ他の国・地域も央南と北方から撤退し始めとる。
ちゅうても明らかに、『向こう』から縁切ろうとしとるからな。こっちにしたら『そんなら出てったるわボケ』っちゅう感じや」
「はあ」
「そもそも、なんでこんな『追い出し』政策しとるかちゅうとな、あの白猫党っちゅう輩のせいや。あいつら中央大陸のあっちこっちで好き放題やっとる上に、西方まで手ぇ伸ばしたやろ?」
「らしいですね」
「ほんで、北方を政治基盤にしとるナイジェルと、連合主席のタチバナは揃って慌てよったんや。『何としてでも自分の領土を死守せな』ちゅうことで、徹底的に他地域の勢力を追い払っとるっちゅうわけやな。
まあ、気持ちは分かる。あいつらも容赦無いからな、いざ傘下に下ったら権力者層は軒並みえらい目に遭うやろし、そら徹底的に排除せなっちゅうのんは分かる」
「はあ」
「せやけど、連合も連合やで! えげつなさで言うたら、あいつらも同類や!
博士も気ぃ付けた方がええで――あいつら、自分の身と利益守るためやったら、どんなえげつない悪事も平気でやりよるからな」
「……え?」
ぼんやりと生返事を続けていたルシオだったが、穏やかでないエミリオの話に、思わず尋ね返していた。
「悪事って?」
「元々な、連合と王国――ちゅうても前体制、コユキ時代の話やけど――には色々、秘密協定があってん。
重犯罪者を王国に『処理』してもらうとか、王国の地下深くに溜まっとるマグマを利用して、連合専用の産業廃棄物処理場を造ってもらうとかする代わりに、前女王は連合からたんまり、裏でカネもろてたらしいねん。
で、サユキ時代になってからすぐ、現女王はその密約を全部破棄、反故にした上に、その事実を世界に向けて公表しよったんや。
女王からすれば『自分らはどこまでもクリーンやで』っちゅうイメージをアピールしたかったみたいやけど、連合からすればたまったもんやない。向こうにしてみれば、『秘密にしとった悪事をバラされた』やからな。
それもあって、連合の国際的なイメージは今、めっちゃ悪いねん。おまけに『腐敗・堕落した権力者層の排除』を謳う白猫党に対して、攻めさせる格好の口実を与えたことになるわけやしな。
とは言え、そう言う恨みつらみはあるけども、連合は王国を容易に攻撃でけへん。さんざ悪い印象与えとるところで主だって王国に制裁なんかしようもんなら、それこそ連合にとっては、致命的に悪いイメージを広めることになるからな。
ちゅうわけで、連合は陰でこそこそっと報復しとるらしいわ。連合軍に身分隠させて、王国から出とる船を襲撃したり、王国と連合を行き来しとる人間を秘密裏に拘束したりな」
「拘束……!?」
「ああ。ほんで有ること無いこと立て並べて犯罪者に仕立て上げて、『王国は犯罪者の温床や』と言いふらしとるらしいわ。
あくまで『王国は悪の巣窟、連合は嘘を言いふらされて被害を受けとる』っちゅう話にしたいらしいわ。……ま、僕も聞いただけやし、実際に被害に遭ったっちゅうことは、まだ無いけどな」
途中まで程よく酩酊していたものの、エミリオが最後にした話で水を差され、ルシオの酔いはすっかり醒めてしまっていた。
「……」
活気ある温泉街から戻り、紅蓮塞への若干寂しい道中に差し掛かったところで、ルシオは不安に苛まれる。
(王国に関係した人間は連合から報復、……か。『まさか』とは思うけど、……でも、『もしかして』って言う不安を捨て切れない。
明日には暇を願い出ようと考えてたけど、そんな事情があるなら、やっぱり帰国を延期すべきじゃないだろうか。
説得には骨が折れるだろうけど、一応、ハルに伝えておこう)
考えをまとめているうちに紅蓮塞の門前に着き、ルシオは立番らに会釈する。
「戻りました」
「お帰りなさいませ、博士」
立番二人は深々と頭を下げ、そしてこう尋ねてきた。
「奥方はご一緒ではないのですか?」
「え?」
きょとんとしたルシオに、立番が怪訝な顔を向ける。
「先程、奥方が出て行かれましたが……?」
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