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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第10部

    白猫夢・乱南抄 1

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    麒麟を巡る話、第505話。
    罪の仕立て屋。

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    1.
    「こちらへ」
     諜報員たちに連れられ、春は大型の自動車に乗り込む。
    「どうも、博士」
     諜報員たちと同様に洋装を着た、車の中に座っていた男が、薄く笑いつつ春に会釈する。
    「……」
     応じない春に、男はまるで幼児に言葉を教えるような口調で、会釈を繰り返す。
    「ど・う・も、は・か・せ。ご・き・げ・ん……」「最悪です」
     イライラしながら答え、春は続けて問う。
    「あなたは?」
    「安楽と申します。博士を連行させた者の上司に当たります」
    「つまり、あなたも諜報部の方と言うことでしょうか」
    「それは申し上げられません。公的には、あなたとお会いしたと言う記録も残さないつもりですので」
    「わたしを犯罪者に仕立て上げるつもりだ、と伺いましたが」
    「ええ、その通りです。具体的には央南連合の機密を焔紅王国へ流したことによる、情報漏洩と治安侵害罪。そして国交を断絶している王国に侵入したことによる、領地保安法の違反。そして王国に対し不当に援助を行ったことによる、連合通商法の違反。
     すべて付けば、懲役100年は免れないでしょう。無論これは、博士ご自身が存じていらっしゃるように、無実の罪と言うものですが。ま、諜報部の手練手管を用いれば、いくらでも罪を作ることは可能です。お望みなら後100年でも200年でも、罪を追加することもできますが」
     薄笑いを浮かべながら答える安楽に、春は気味の悪いものを感じていた。
    「そんなことが許されると思っているのですか?」
    「許す、許さないを決めるのは、権力者のやることです。そして私はそう言った権力者たちと懇意にしております。
     あなたに罪が有るか無いかは、私の機嫌次第と言えます」
    「……っ」
     にやぁ、と笑った安楽に、春は思わず立ち上がり、車の扉に手をかけていた。
    「おや、お逃げになりますか?」
     だが、扉を開けるその直前、安楽があざけるように声をかける。
    「公務執行妨害。逃走罪。今お逃げになると、それだけの罪が発生しますよ。さて、何年ほど投獄されるやら。10年でしょうか、20年でしょうか。それとももっと多くなるかも知れません」
    「……」
    「どうしますか? まあ、選択の余地は無いですがね」
     安楽の言葉とともに、自動車がぶるっと震え、動き出す。
    「この車輌は最新鋭の悪路走破機能を有しております。あぜ道だらけの焔紅王国といえど、ここから国境を越えるまでに4時間もかかりません。
     ま、それまでに覚悟を決めるなり、諦めるなり、ご自由にどうぞ。それとも命乞いをなさるか、と言う選択肢もございますが」
    「い、命乞い?」
     次々に安楽の口から飛び出す物騒な言葉の数々に、春は次第に憔悴し始めていた。
    「ええ。司法取引とも言いますかね。ま、簡単な話です。
     あなたの口から焔紅王国女王および大臣、高官らの不正行為についてお話いただき、それが国際社会に広く信用されるようであれば、その効果に応じて刑期を減免いたします。
     ま、それに加えて私に対し、個人的に何かしらの『お心付け』をいただけるなら、刑務所などに入れるようなことはせず、私の監視下に置くと言う措置も取れますがね」
    「……それ、って」
     安楽の言葉の裏にあるものを察し、春は狼狽する。
    「わたしは夫のある身です! そんなこと、できるはずが……」
    「いやいや、無理にとは申しませんよ。どうしても無理だと言うことであれば、それは仕方ありません。正規の手続きに従い、あなたは投獄されると言う、それだけの話です」
    「正規ですって!? すべてあなた方の捏造でしょう!?」
    「何度も申し上げたように」
     安楽はニヤニヤ笑いを下卑たものに変え、春の腕を取った。
    「罪の有る無しは我々の胸三寸で決まります。あなたが我々の、いいえ、私の機嫌を損ねれば……」
     安楽は春をぐいっと引き寄せ、がらりと声色を変えた。
    「央南連合では表向き、容認されていない罰を与えることもできるんだぞ? 鞭打ち千回でも銃殺でも、断頭台でもな」
    「いやっ……、嫌あっ!」
     春は泣き喚き、懸命に抵抗しようとする。
     しかし春の細腕では、大の男の腕力には当然、敵わない。
    「うるさい! びーびー喚くんじゃないッ!」
     安楽は空いていたもう一方の手をぐっと握りしめ、春を殴りつけた。
    「ひう……っ」
    「もうお前はおしまいなんだ! 大人しく私に従った方が……」
     怒鳴りながら、安楽はまた拳を振り上げた。
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