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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第10部

    白猫夢・乱南抄 2

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    麒麟を巡る話、第506話。
    誘拐返し。

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    2.
     と――車が突然、がくがくと大きく揺れ、春の上に馬乗りになろうとしていた安楽の体勢が大きく崩れる。
    「おう……っ!?」
    「きゃあっ!」
     斜めに立っていた安楽はふんばることができず、車の壁に叩き付けられる。一方、春は安楽に押さえつけられていたために、そのまま座席にしがみつくことができた。
    「うう……、な、なんだ? お前たち、ちゃんと運転せんかッ!」
     安楽はよろよろと立ち上がり、運転席に向かって怒鳴りつける。
     だが、運転席からは返事が無い。
    「……? おい? どうした? 何かあったのか!?」
     安楽は春の方を一瞬確かめ、車の外に出た。

     その瞬間、安楽の首に刃が突きつけられていた。
    「央南連合の官房局次官、タツノリ・アンラクさん?」
    「う……っ」
     安楽の目の前に、にゅっと刀の切っ先が突きつけられる。その刀を握る、緑髪に三毛の毛並みをした猫獣人が、淡々とした口調で続ける。
    「答えて」
    「い、いや、私は」
    「嘘をついてもごまかせないよ。仮にもし、あなたがアンラクさんじゃないなら、斬るだけだし。アンラクさんじゃなければ、生かしても意味が無いもの」
    「……わ、私が安楽達典だ」
     観念したらしく、がっくりとうなだれた安楽に、猫獣人はこう続けた。
    「あなたがこうやって、こっそり焔紅王国に来ることは『見えてた』。丁度良かったよ」
    「な、なに? 何のことだ?」
    「あなたはハルを使って王国の評判を落とそうとしてたみたいだけど、あたしはあなたを使って央南連合の評判を落とさせてもらうよ。
     あたしたちの党のために」
    「党? お前は一体、何者だ?」
     安楽が問いかけたが、猫獣人は名乗らない。
    「とりあえず拘束させてもらうよ。それから、あなたたちの車で連行させてもらうから」
    「連行? どこへ連れて行くつもりだ?」
    「まず、紅蓮塞。そこに女王と、央中の権力者に近い人がいるから、その人たちに事情を話して、投獄してもらうよ」
    「投獄? 何の罪でだ? 私は何もした覚えは無い!」
    「あるはずだよ。それにその証拠もある。
     あなたは上から指示を受け、無実の人たちに罪を着せて王国に対する虚偽の非難中傷をしてた。
     その証拠はあたしたちが握ってる。後はあなた自身の証言と一緒に、世界中にその内容を公表するだけ」
    「な……んっ……」
     強情を張っていた安楽の顔が、一転して真っ青になる。
    「そ、そんなことをしてみろ! 央南は、央南連合は……っ」
    「公表し次第すぐに、世界中から壮絶に非難されるよ。
     そして央南連合は孤立する――あらゆる交通・交流は停止する。勿論、経済も封鎖される。通貨をはじめとする、あらゆる取引が止められる。連合内の主要都市はほとんど貿易で稼いでるし、連合内の政治経済は一気に大混乱、衰退するよ。
     後はあたしたちが央南に乗り込み、連合を排除するだけ」
    「貴様ら、……白猫党か!」
     安楽にそれ以上応じること無く、猫獣人は車の中に声をかけた。
    「ハル、大丈夫?」
    「え、ええ」
     恐る恐る出てきた春に、猫獣人は手を差し伸べた。
    「危ないところだったね」
    「はい、ええ」
     春はへたり込んだ安楽を一瞥し、もう一度猫獣人に向き直った。
    「あの」
    「話は後で。とりあえずこの人と、運転席にいる人たちを車の中に入れるよ」
     そう説明しながら、猫獣人は春の頬に手を当てる。
    「えっ?」
    「治してあげる。痛々しいもの。……『キュア』」
    「あ……、ありがとうございます。
     ……あの、葵さん、ですよね?」
    「うん」
     猫獣人――葵・ハーミットは小さくうなずき、それから運転席へ向かい、気絶した諜報員たちを引っ張り出す。
     安楽も含めて縄で縛り、後部座席へ放り込んだところで、葵が再び口を開く。
    「ハル、こっちに乗って。紅蓮塞まで送るよ」
    「あ、はい」
     半ば呆然としていた春は、たどたどしく助手席に乗り込む。
    「葵さん、運転できるんですか?」
    「たぶん」
     その返答に春は不安を覚えたが、それはすぐに吹き飛んだ。
     葵は淡々とサイドブレーキを外し、ギアを入れ、クラッチをつなぎ、程よくアクセルを踏み込んで、何の失敗もなく車を発進させたからである。
    「……上手、ですね」
    「そうかな」
    「わたし、自動車って初めて乗るんですけど、でもきっと葵さん、すごくお上手だと思います」
    「ありがと」
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