「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第10部
白猫夢・乱南抄 4
麒麟を巡る話、第508話。
キューピッド葵、再臨。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
「でもその『裏の話』も、サユキ・ホムラが女王になってから、おかしくなり始めた。
ホムラ女王はすごく真面目で、汚いことを徹底的に嫌ってた。だからこの裏取引を全部停止するとともに、世界中に公表したんだ」
「そんな話、聞いたことが……」
「『央南連合は汚いことをやってた』なんて、連合自身が吹聴するはずが無いもの。それこそ、央南の新聞じゃ報道できない話だよ。
連合は大慌てで、その話が嘘だと主張するために、王国を悪者に仕立て上げようとしてる。ハルがさらわれそうになったのも、その一環。
結局、自分たちが裏で汚いことをしてたのに、それを嘘だ、無かったことだ、向こうが嘘をついてるって言い訳してるんだよ」
「半分、と言っていたのは……」
「うん。連合に対する世論から攻撃されてるんだよ。結局、自業自得」
話している間に、相当の距離を進んでいたらしい。遠くに、温泉街と思われる灯りがちらほらと見え始めた。
「そろそろ着くね」
「ええ」
「落ち着いてきた?」
「そうですね」
「良かった。今、体調崩したりしたら大変だもの」
「え?」
思いもよらない、葵の温かい一言に、春は面食らう。
「ハルとルシオの未来も『見えた』んだけど、幸せそうだったよ」
「『見えた』って、どう言う意味ですか?」
「そのままの意味。あたしの目に、それが映ったってこと。
ハル。明日、お医者さんのところに行ってみて。すごくいいことを教えてもらえるよ。それからここ数週間、急に理由もなく不安になったり、突然吐き気とか立ちくらみとか、体調が悪くなったりしてた理由も」
「え? え?」
動揺する春を横目で眺めつつ、葵は淡々と続けた。
「それからね、ルシオが女王と愛し合うみたいな、そう言う関係になったって未来は、一つも『見えなかった』よ。ルシオは本当に、あなたのことが大好きみたい。
信じていいよ、ルシオのことは。何があってもルシオはあなたのこと、ずっと愛してくれるみたいだし」
「……そ、そうですか」
春は自分の頬が真っ赤になっているのを自覚し、葵から顔を背けた。
車が街に着いたところで、その車に近付いて来る者が二人現れた。
「あなた!」
一人は、ルシオである。
「ハル! 無事だったんだ」
慌てて車から降りた春を、ルシオががばっと抱きしめた。
「ああ、良かった……! 君に何かあったんじゃないかと、心配で心配で……」
「いえ、あの、あったと言えば、あったと言うか」
「らしいですな」
そしてもう一人は、あの央中から来た商人、エミリオだった。
「アオイさん、ホンマにあんたが言うてた通りになっとったみたいですな」
「そうだね。後は頼むよ」
「お任せあれ、ですわ」
抱き合っていた二人は葵たちのやり取りを見て、揃ってけげんな顔を向ける。
「知り合いだったんですか?」
「ちょっと前にね」
葵はエミリオに車の鍵を渡し、こう続けた。
「エミリオさんに連絡して、連合の人たちを受け渡して裏取引を暴いてもらうようにお願いしたんだよ。信じてもらうために、先物取引の話を色々教えたげた」
「あれはホンマにビビりましたわ。おかげでガッツリ儲けさせてもらいましたけどな。
これにしたって、もう一儲けでけるでしょうな」
「その代わり」
言いかけた葵に、エミリオは肩をすくめて返す。
「分かってます、分かってます。アオイさんが関わったっちゅうことは、どこにも言うたりしませんわ」
「なら、いい。じゃあね」
葵は皆に背を向け、そのままどこかへ消えた。
この半月後――西大海洋同盟から、央中の全加盟国が挙って脱退した。
その理由は同じく加盟組織である央南連合が、あまりにも非人道的な方法で権益を獲得していたこと、即ちこれまで単なるうわさとして扱われていた件の「裏取引」と、その隠蔽工作が行われていた事実が、確たる証拠と共に公表されたためである。
この大規模な脱退により、同盟の権力は著しく低下。同時に央中、央北にとって、同盟および連合は信用ならない輩として敵視され、一挙に国交が断絶されることとなった。
また、この一件を葵に委託され、「暗躍」していたエミリオは、金火狐一族から大きく評価され、商会における要職を与えられた。
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キューピッド葵、再臨。
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「でもその『裏の話』も、サユキ・ホムラが女王になってから、おかしくなり始めた。
ホムラ女王はすごく真面目で、汚いことを徹底的に嫌ってた。だからこの裏取引を全部停止するとともに、世界中に公表したんだ」
「そんな話、聞いたことが……」
「『央南連合は汚いことをやってた』なんて、連合自身が吹聴するはずが無いもの。それこそ、央南の新聞じゃ報道できない話だよ。
連合は大慌てで、その話が嘘だと主張するために、王国を悪者に仕立て上げようとしてる。ハルがさらわれそうになったのも、その一環。
結局、自分たちが裏で汚いことをしてたのに、それを嘘だ、無かったことだ、向こうが嘘をついてるって言い訳してるんだよ」
「半分、と言っていたのは……」
「うん。連合に対する世論から攻撃されてるんだよ。結局、自業自得」
話している間に、相当の距離を進んでいたらしい。遠くに、温泉街と思われる灯りがちらほらと見え始めた。
「そろそろ着くね」
「ええ」
「落ち着いてきた?」
「そうですね」
「良かった。今、体調崩したりしたら大変だもの」
「え?」
思いもよらない、葵の温かい一言に、春は面食らう。
「ハルとルシオの未来も『見えた』んだけど、幸せそうだったよ」
「『見えた』って、どう言う意味ですか?」
「そのままの意味。あたしの目に、それが映ったってこと。
ハル。明日、お医者さんのところに行ってみて。すごくいいことを教えてもらえるよ。それからここ数週間、急に理由もなく不安になったり、突然吐き気とか立ちくらみとか、体調が悪くなったりしてた理由も」
「え? え?」
動揺する春を横目で眺めつつ、葵は淡々と続けた。
「それからね、ルシオが女王と愛し合うみたいな、そう言う関係になったって未来は、一つも『見えなかった』よ。ルシオは本当に、あなたのことが大好きみたい。
信じていいよ、ルシオのことは。何があってもルシオはあなたのこと、ずっと愛してくれるみたいだし」
「……そ、そうですか」
春は自分の頬が真っ赤になっているのを自覚し、葵から顔を背けた。
車が街に着いたところで、その車に近付いて来る者が二人現れた。
「あなた!」
一人は、ルシオである。
「ハル! 無事だったんだ」
慌てて車から降りた春を、ルシオががばっと抱きしめた。
「ああ、良かった……! 君に何かあったんじゃないかと、心配で心配で……」
「いえ、あの、あったと言えば、あったと言うか」
「らしいですな」
そしてもう一人は、あの央中から来た商人、エミリオだった。
「アオイさん、ホンマにあんたが言うてた通りになっとったみたいですな」
「そうだね。後は頼むよ」
「お任せあれ、ですわ」
抱き合っていた二人は葵たちのやり取りを見て、揃ってけげんな顔を向ける。
「知り合いだったんですか?」
「ちょっと前にね」
葵はエミリオに車の鍵を渡し、こう続けた。
「エミリオさんに連絡して、連合の人たちを受け渡して裏取引を暴いてもらうようにお願いしたんだよ。信じてもらうために、先物取引の話を色々教えたげた」
「あれはホンマにビビりましたわ。おかげでガッツリ儲けさせてもらいましたけどな。
これにしたって、もう一儲けでけるでしょうな」
「その代わり」
言いかけた葵に、エミリオは肩をすくめて返す。
「分かってます、分かってます。アオイさんが関わったっちゅうことは、どこにも言うたりしませんわ」
「なら、いい。じゃあね」
葵は皆に背を向け、そのままどこかへ消えた。
この半月後――西大海洋同盟から、央中の全加盟国が挙って脱退した。
その理由は同じく加盟組織である央南連合が、あまりにも非人道的な方法で権益を獲得していたこと、即ちこれまで単なるうわさとして扱われていた件の「裏取引」と、その隠蔽工作が行われていた事実が、確たる証拠と共に公表されたためである。
この大規模な脱退により、同盟の権力は著しく低下。同時に央中、央北にとって、同盟および連合は信用ならない輩として敵視され、一挙に国交が断絶されることとなった。
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今日の旅岡さん

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
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あっちでもこっちでも不穏の種がばんばんまかれて……。
局地戦どころじゃない、双月世界はじめての近代的な殲滅戦争が世界大戦レベルで始まるようでどきどきするであります。
局地戦どころじゃない、双月世界はじめての近代的な殲滅戦争が世界大戦レベルで始まるようでどきどきするであります。
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NoTitle
緩やかな世界大戦、と見ることもできなくはないかと思います。