黄輪雑貨本店 新館


    「白猫夢」
    白猫夢 第10部

    白猫夢・乱南抄 5

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    麒麟を巡る話、第509話。
    北方の巨魁。

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    5.
    「本当に、よろしいのですか?」
    「ええ。むしろ、このようなお願いを聞き入れていただき、感謝してもし切れません」
     そう言って、深々と頭を下げた春とルシオに、桜雪女王も礼を返した。
    「感謝を申し上げるのは、わたしの方です。
     まさかあなた方ご夫妻がこの国に移住されるとは、夢にも思っておりませんでしたから」
    「わたしも当初は、そんなことはありえないと考えていましたが」
     春は気恥ずかしそうに、こう返した。
    「連合が仕掛けたあの一件で、わたしが抱いていた連合と王国の評価は、180度覆りましたから。もう、連合領内に住んでいたいとは思えません。
     一方で、この国に大きな可能性を感じたのも事実ですし、……それに、しばらくは落ち着いて暮らしたいですから」
     にこっと微笑み、自分の腹に手を当てた春に、ルシオも嬉しそうに笑う。
    「妻のためにも、この子のためにも、この国を豊かにできるよう、私は全知、全力を尽くす所存です」
    「期待しております」

     央南連合の国家的な犯罪・陰謀を知り、また、巻き込まれたこと、そして春に子供ができたことが判明したため、春・ルシオ夫妻は焔紅王国に定住することを決めた。
     この後、夫妻は火山性土壌においても作物を育成できる技術を王国に広め、王国の農業生産力は大きく向上。エミリオが主導する央中との貿易成功も相まって、王国は飛躍的な成長を遂げた。



     一方で央南連合、そして西大海洋同盟に依存している北方、ジーン王国は同盟結成以来の、とてつもない打撃を受けていた。
    「閣下、一体我々はどうすれば……」
    「貿易の大半が停止され、我が国の食料供給は半分以下に激減しております」
    「それだけではありません。その他の貿易路も閉ざされ、莫大な被害を計上しているとの報告が寄せられております」
    「まだ央南との取引で必要最低限、ギリギリのラインは維持できてはおりますが……」
     寄せられた数々の悲惨な報告に、その白地に黒斑の毛並みをした猫獣人は、こくこくと鷹揚にうなずいて返す。
    「ええ、確かに大変な事態です。我が国が被る被害は、今世紀最大級と言っても過言ではないでしょう。
     しかし、まだ打開策はいくらでもあります。私の命令に従っていただければ、この苦境を脱することは十分に可能です。
     ですので閣僚諸君、どうか必要以上に騒がないよう、よろしくお願いいたします」
     猫獣人の、その自信ありげな表情と言葉に、場は自然に静まる。
    「ではナイジェル閣下、我々はまず、どうすればよろしいのでしょうか?」
    「いいですか。我々と同じくらい、央南連合も混乱しているはずです。であればより一層の相互協力を申し出、関係を密にすることを最優先にするべきです。
     央南も今頃、貿易網が壊滅しかかっていることと思われます。何としてでも取引相手を見付け、利潤・権益を復旧させたいと願っているはず。そこで同様に窮している我々が、改めてパートナーとなる。
     我々も連合以外の諸国と取引をしていたように、連合も我々以外と取引をしていたはずです。それらを我々と連合の一本に絞れば、従来の需要と供給を十分にバランスさせることが可能でしょう。
     この辺りがまとまり次第、混乱はまず、収まります。心配は無用です」
    「なるほど……」
    「流石はナイジェル閣下ですな」
    「しかし混乱の収束ができたとして、依然として国際的な世論は我々に厳しいままでは?」
    「ええ、確かに憂慮すべき事態です。現状のままでは、覆すことは非常に難しいでしょう」
     依然として、猫獣人は鷹揚に――と言うよりもどこか、現状を侮っているような態度で――話し続ける。
    「とは言え世論などと言うものは、概してよりセンセーショナルでホットな話題に注目していくものです。
     我々の評価が低下した今、世論の傾きに乗じて台頭してきたあの卑賤卑劣の輩、即ち白猫党が央南、もしくはこの北方に歩を進めてくるのはほぼ間違いないでしょう。しかし一方で、この白猫党は国際的に忌み嫌われている面が、決して少なくない。
     であれば積極的に彼らと戦闘を行い、話題を連合や同盟から、白猫党にすり替えてしまえばいいのです。それも、『邪知暴虐の徒が我々を襲っている』と言う、いかにもセンセーショナルな話題として喧伝すれば、大衆はころっと我々の評判など忘れ、白猫党の『ご活躍』に挙って目を向けるようになるでしょう。
     既に私の持つコネクションを使い、その喧伝の下準備を整えています。後は相手が手を出して来次第、大々的に報じればよいのです」
    「ふーむ……」
    「流石はナイジェル閣下ですな」
    「いやいや、とんでもない。恐るるに足りず、と言うだけです。
     ともかく、そのように図っていますので、閣僚諸君は安心していてくれて問題ありません」
     場の空気が完全に自分の統制下に入ったことを察したらしく、その猫獣人――西大海洋同盟総長、ジーン王国外務大臣、その他様々な肩書きをその身に飾りつけた春司・ナイジェル氏はまたも、鷹揚に笑みを浮かべて見せた。
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