「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第4部
蒼天剣・繁華録 4
晴奈の話、176話。
夫婦喧嘩。
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4.
晴奈はプレアを連れ、朱海の店に戻ってきた。
「あ、晴奈ちゃん。おかえり」
朱海がカウンターから身を乗り出し、声をかけてきた。
「あれ? どした、その子?」
「迷子になったようでして、放っておくのもまずいかと思い、連れてきた次第です」
「あー、なるほどね。
……ん? キミ、もしかしてチェイサー商会さんトコの子か?」
朱海の問いに、プレアは目を丸くしてコクコクとうなずいた。
「なんで分かったの、おばちゃん?」
おばちゃんと呼ばれ、朱海は憮然とした顔をする。
「おば……っ!? ……コホン、おねーさんと呼びなさい、お嬢ちゃん。まあ、チェイサーとは商売柄、付き合いがあるしな。すぐ呼んできてやるよ。
小鈴、店番頼むー」
店の奥から小鈴が、のたのたとした足取りで現れる。どうやらうたた寝をしていたようだ。
「ふあ、ぁ、……ん。はいはい、やっとくわ」
朱海と入れ替わりに、小鈴がカウンターに立つ。
「ふあー」
立ちながら眠っているのではないかと思うほど、小鈴はうつらうつらと頭を揺らしている。
「小鈴殿、起きていますか?」
「ん、だいじょぶだいじょーぶ。起きてる起きてる。……ふあー」
そうは言いつつも、見ていて心配になるほどフラフラしている。
「……まあ、自分で大丈夫と言っているから、いいか」
晴奈はとりあえず、店の奥にある居間にプレアを連れて行き、そこで朱海とプレアの親を待つことにした。プレアもようやく安心したのか、ほっとした表情を見せている。
「何か飲むか、プレア」
「うん」
晴奈は小鈴に声をかけ、茶を出してもらう。
まだ眠たげにしていた小鈴が運んできた茶を飲みながら、プレアは晴奈に色々と質問してくる。
「セイナさんって、なんかへんだね」
いきなりの言葉に、晴奈は目を丸くする。
「ん? 変、とは?」
「ほかの人と、ふくもしゃべり方もちがう」
「ああ、それは私が央南の出身だからだろう」
「おーなん?」
「中央大陸の、南部地方だ。こことは大分、趣が違う」
「へえー。ねえねえセイナさん、良かったらおーなんのお話、聞かせて?」
晴奈は少し苦笑しながら、自分の故郷の話を聞かせた。
(今日は何故こんなに、話をする機会が多いのだろうか……)
話しながら、晴奈は何となくそんなことを考えていた。
30分ほど後、朱海がプレアの親と思われる「狐」と「狼」の二人を伴って戻ってきた。
(ん……? 確か、『狼』と『狐』は仲が悪いと聞いたが)
一瞬晴奈はいぶかしがったが、その二人はすぐに、そのうわさが本当だと証明してくれた。
「まったく本当に、ご迷惑をおかけして……。で、何でアンタ見てないのよ!」
「狼」が「狐」にまくし立てる。
「忙しいんだから、君がやれよ!」
「狐」も怒り気味に答える。
「そんなのあたしだって同じでしょ!?」
「じゃ、何で僕に押し付けるんだよ!? やれよ、君が!」
「ふざけたこと言ってんじゃないわよ! あたしが忙しい時、アンタがやる約束でしょ?」
「聞いてないぞ、そんな約束……」「うるせえ! いいかげんにしろ、ピース、ボーダ!」
ケンカを始めた二人を、朱海が怒鳴ってさえぎった。
「子供の前でくだらないケンカすんなよ! それでも親か、お前ら!」
「う……」「ご、ごめん」
ケンカしていた二人は同時に、朱海に向かって謝る。
「アタシに謝ってどうすんだ。謝るなら、あっちだろ?」
朱海は憤慨しつつ、すっとプレアを指差す。プレアを見た二人はさらに、ばつの悪そうな顔をした。
(……うん。師匠の言った通りだったな)
晴奈はしみじみと、師匠の話を思い出していた。
「本当に、ご迷惑をおかけしまして……」
プレアの父親、「狐」のピースが深々と頭を下げる。続いて母親の、「狼」のボーダがセイナに会釈する。
「助かりました、えーと……」
「あ、黄晴奈と申します」
「コウ、セイナ、さんですか。ひょっとして、央南の方?」
「はい、そうですが」
晴奈の返事を聞くなり、ボーダは嬉しそうな顔をして握手してきた。
「あら、ホントに~! いやね、あたしたち央南人には思い入れあるのよ! ねっ、ピース!」
ボーダの言葉に、ピースは腕を組みながらうんうんとうなずく。
「ああ、本当になぁ、色々と思い出が……、っと」
ピースは思い出したように、名刺を差し出した。
「今度の件は、本当に助かりました。いつか恩返しさせていただきますので、こちら、連絡先を載せておりますので……」
「いや、礼を言われるほどのことは、何も……」
「いえいえ! 人さらいも少なくないこのご時世、幼い子を守ってくれる方など、なかなかいませんよ。私たちの大切な子供を助けてくれたのですから、何としてもお礼はしないと。
私たちにできることがあれば、何でも仰ってください」
顔を上気させてまくしたてるピースに、晴奈は戸惑いつつも固辞しておく。
「は、はあ。まあ、その。また、何か用件が、できれば、と言うことで」
「はい、是非!
さあ、プレア。父さん、母さんと一緒に帰ろうね」
「うんっ」
プレアとピース、ボーダは手をつないで、そのまま帰っていった。
「……心配だな」
「ん?」
ぽつりとつぶやいた晴奈に、朱海が振り返る。
「あれほどの剣幕ですし、プレアが怯えやしないだろうか、と」
「ああ、うん。ま、心配無いよ。チェイサー商会の社長夫婦のケンカっぷりは有名だけど、お互いに相手が好きで、できる奴だって認めてるからこそ、ケンカしてんだから。
プレアもソレは分かってるさ」
朱海はパチ、と晴奈に向かってウインクする。
「じゃなきゃ、あんな風に手をつないで帰ったりしないって」
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夫婦喧嘩。
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4.
晴奈はプレアを連れ、朱海の店に戻ってきた。
「あ、晴奈ちゃん。おかえり」
朱海がカウンターから身を乗り出し、声をかけてきた。
「あれ? どした、その子?」
「迷子になったようでして、放っておくのもまずいかと思い、連れてきた次第です」
「あー、なるほどね。
……ん? キミ、もしかしてチェイサー商会さんトコの子か?」
朱海の問いに、プレアは目を丸くしてコクコクとうなずいた。
「なんで分かったの、おばちゃん?」
おばちゃんと呼ばれ、朱海は憮然とした顔をする。
「おば……っ!? ……コホン、おねーさんと呼びなさい、お嬢ちゃん。まあ、チェイサーとは商売柄、付き合いがあるしな。すぐ呼んできてやるよ。
小鈴、店番頼むー」
店の奥から小鈴が、のたのたとした足取りで現れる。どうやらうたた寝をしていたようだ。
「ふあ、ぁ、……ん。はいはい、やっとくわ」
朱海と入れ替わりに、小鈴がカウンターに立つ。
「ふあー」
立ちながら眠っているのではないかと思うほど、小鈴はうつらうつらと頭を揺らしている。
「小鈴殿、起きていますか?」
「ん、だいじょぶだいじょーぶ。起きてる起きてる。……ふあー」
そうは言いつつも、見ていて心配になるほどフラフラしている。
「……まあ、自分で大丈夫と言っているから、いいか」
晴奈はとりあえず、店の奥にある居間にプレアを連れて行き、そこで朱海とプレアの親を待つことにした。プレアもようやく安心したのか、ほっとした表情を見せている。
「何か飲むか、プレア」
「うん」
晴奈は小鈴に声をかけ、茶を出してもらう。
まだ眠たげにしていた小鈴が運んできた茶を飲みながら、プレアは晴奈に色々と質問してくる。
「セイナさんって、なんかへんだね」
いきなりの言葉に、晴奈は目を丸くする。
「ん? 変、とは?」
「ほかの人と、ふくもしゃべり方もちがう」
「ああ、それは私が央南の出身だからだろう」
「おーなん?」
「中央大陸の、南部地方だ。こことは大分、趣が違う」
「へえー。ねえねえセイナさん、良かったらおーなんのお話、聞かせて?」
晴奈は少し苦笑しながら、自分の故郷の話を聞かせた。
(今日は何故こんなに、話をする機会が多いのだろうか……)
話しながら、晴奈は何となくそんなことを考えていた。
30分ほど後、朱海がプレアの親と思われる「狐」と「狼」の二人を伴って戻ってきた。
(ん……? 確か、『狼』と『狐』は仲が悪いと聞いたが)
一瞬晴奈はいぶかしがったが、その二人はすぐに、そのうわさが本当だと証明してくれた。
「まったく本当に、ご迷惑をおかけして……。で、何でアンタ見てないのよ!」
「狼」が「狐」にまくし立てる。
「忙しいんだから、君がやれよ!」
「狐」も怒り気味に答える。
「そんなのあたしだって同じでしょ!?」
「じゃ、何で僕に押し付けるんだよ!? やれよ、君が!」
「ふざけたこと言ってんじゃないわよ! あたしが忙しい時、アンタがやる約束でしょ?」
「聞いてないぞ、そんな約束……」「うるせえ! いいかげんにしろ、ピース、ボーダ!」
ケンカを始めた二人を、朱海が怒鳴ってさえぎった。
「子供の前でくだらないケンカすんなよ! それでも親か、お前ら!」
「う……」「ご、ごめん」
ケンカしていた二人は同時に、朱海に向かって謝る。
「アタシに謝ってどうすんだ。謝るなら、あっちだろ?」
朱海は憤慨しつつ、すっとプレアを指差す。プレアを見た二人はさらに、ばつの悪そうな顔をした。
(……うん。師匠の言った通りだったな)
晴奈はしみじみと、師匠の話を思い出していた。
「本当に、ご迷惑をおかけしまして……」
プレアの父親、「狐」のピースが深々と頭を下げる。続いて母親の、「狼」のボーダがセイナに会釈する。
「助かりました、えーと……」
「あ、黄晴奈と申します」
「コウ、セイナ、さんですか。ひょっとして、央南の方?」
「はい、そうですが」
晴奈の返事を聞くなり、ボーダは嬉しそうな顔をして握手してきた。
「あら、ホントに~! いやね、あたしたち央南人には思い入れあるのよ! ねっ、ピース!」
ボーダの言葉に、ピースは腕を組みながらうんうんとうなずく。
「ああ、本当になぁ、色々と思い出が……、っと」
ピースは思い出したように、名刺を差し出した。
「今度の件は、本当に助かりました。いつか恩返しさせていただきますので、こちら、連絡先を載せておりますので……」
「いや、礼を言われるほどのことは、何も……」
「いえいえ! 人さらいも少なくないこのご時世、幼い子を守ってくれる方など、なかなかいませんよ。私たちの大切な子供を助けてくれたのですから、何としてもお礼はしないと。
私たちにできることがあれば、何でも仰ってください」
顔を上気させてまくしたてるピースに、晴奈は戸惑いつつも固辞しておく。
「は、はあ。まあ、その。また、何か用件が、できれば、と言うことで」
「はい、是非!
さあ、プレア。父さん、母さんと一緒に帰ろうね」
「うんっ」
プレアとピース、ボーダは手をつないで、そのまま帰っていった。
「……心配だな」
「ん?」
ぽつりとつぶやいた晴奈に、朱海が振り返る。
「あれほどの剣幕ですし、プレアが怯えやしないだろうか、と」
「ああ、うん。ま、心配無いよ。チェイサー商会の社長夫婦のケンカっぷりは有名だけど、お互いに相手が好きで、できる奴だって認めてるからこそ、ケンカしてんだから。
プレアもソレは分かってるさ」
朱海はパチ、と晴奈に向かってウインクする。
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