「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第10部
白猫夢・既朔抄 1
麒麟を巡る話、第511話。
救出と復活。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
「じゃ、やってみるよ」
「ああ。成功を祈るぜ」
葛は扉の前で立ち止まり、精神を集中させる。
「それッ!」
とん、と前に一歩踏み出し――葛はその場から消えた。
「……」
一人残った一聖は、ごくん、と固唾をのむ。
「……」
そのまま、扉をにらみ続ける。
と――周囲でうなっていた機械群が、ぐうううん……、と沈むような音を立てて、光を失っていく。
「……お? まさか?」
やがてすべての機械は完全に停止し、一聖の足元に周囲のガラス瓶から漏れ出たらしい水が、ドロドロと流れ始めた。
「やったのか、葛?」
「やったよー!」
明るい声と共に、扉が開く。
「できたー! できたよカズセちゃん!」
「マジか! マジなんだな!?」
「うん、マジでま……」
言いかけた葛が、途中でぴたっと静止する。
「……葛?」
一聖は、まだ魔法陣の魔力が残っていたのかと警戒するが、そうではないと言うことがすぐに分かった。
葛が前のめりに、ばちゃっと水の中に倒れてしまったからである。
「おいおい……。またかよ」
「またって?」
扉の向こうから、懐かしい声が聞こえてきた。
「よお、ルナ。無事だったか?」
「ええ、何とかね。……その子、誰?」
「コイツは葛。葵の妹だよ。コイツがこの施設の装置を、全部止めてくれたんだ」
「へぇ」
一聖に助け起こされた葛の顔を見て、ルナが小さくうなずく。
「似てないわね、葵には。……むしろアイツにそっくり」
「アイツ?」
「それより、この子大丈夫なの?」
尋ね返され、一聖は「おう」と返す。
「なんつーか、まだ完全にはモノにしきってねーらしくて、な。
あの技を一回使っただけで、体力と魔力がすっからかんになるらしいんだ。まだ実戦にゃ、使えそうにねーよ」
「あの技って?」
そう尋ねたルナに、一聖は得意満面の笑みを浮かべて返した。
「『星剣舞』だよ」
双月暦574年、春。
一聖と一対一での、半年以上に渡る壮絶な修行の末、葛はどうにか「星剣舞」を使えるようになっていた。
しかし前述の通り、この技を使うと数分で体力・魔力を失い、糸が切れるように気絶してしまうのである。
「真っ青じゃない、顔」
パラの膝に頭を乗せて倒れ込んでいる葛を、ルナが心配そうに見つめている。
その間に、パラが診断を終える。
「血糖値40mg/dl未満、極度の低血糖症状を起こしています」
「オレのかばんにチョコあったろ、1枚全部食わしてやれ。ミルクたっぷり入ったヤツだから、すぐ元気になる」
「でさ、カズセちゃん」
こちらも心配そうに、フィオが尋ねてくる。
「あの二人は大丈夫なのかな。さっきからピクリとも動かないんだけど」
フィオが示した先には、大火と渾沌が並んで横たわっていた。
「少なくとも死んじゃいない。オレの見た限りじゃ、葛と同じよーな症状だな」
「はい。克大火様とコントンもカズラと同様、衰弱状態にあります。特に魔力の枯渇が、両者とも著しく見受けられます」
「ってコトは、『システム』だな」
「システムって?」
「魔力を吸い取って特定の何かに送り込む装置だ。親父と渾沌はどうもその装置に延々、魔力を吸われてたらしいな」
「大丈夫なの?」
ルナのその問いに、一聖は首を横に振った。
「死にゃしねーが、魔力ってのは人間の精神力、言い換えれば脳の活動に関係するからな。魔力が空になってるってんなら、意識なんてはるか彼方にブッ飛んじまってるだろう。
しばらくは昏睡状態が続くだろうな」
「復活するのか?」
「病院かどっかで点滴打って安静にさせりゃ、そのうち目覚めるさ。結局は葛と同じで、体に栄養が全くない状態だから、な」
「……うー……きもちわるいよー……めがまわるー……」
と、葛がか細い声でうめく。
「目ぇ覚ましたか。しばらくじっとしてな」
「……きーてたけどさー……はやくびょういんに……つれてったげたほうが……よくないー……?」
のろのろとした声で提案され、一聖は苦笑した。
「……ま、そりゃな。じゃ、オレとルナは一旦、親父と渾沌連れてトラス王国に戻るわ。お二人さんはココで、葛が元気になるまで看ててくれ」
「ああ、分かった」「承知しました」
パラとフィオがうなずいたところで、一聖たちはその場から姿を消した。
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救出と復活。
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「じゃ、やってみるよ」
「ああ。成功を祈るぜ」
葛は扉の前で立ち止まり、精神を集中させる。
「それッ!」
とん、と前に一歩踏み出し――葛はその場から消えた。
「……」
一人残った一聖は、ごくん、と固唾をのむ。
「……」
そのまま、扉をにらみ続ける。
と――周囲でうなっていた機械群が、ぐうううん……、と沈むような音を立てて、光を失っていく。
「……お? まさか?」
やがてすべての機械は完全に停止し、一聖の足元に周囲のガラス瓶から漏れ出たらしい水が、ドロドロと流れ始めた。
「やったのか、葛?」
「やったよー!」
明るい声と共に、扉が開く。
「できたー! できたよカズセちゃん!」
「マジか! マジなんだな!?」
「うん、マジでま……」
言いかけた葛が、途中でぴたっと静止する。
「……葛?」
一聖は、まだ魔法陣の魔力が残っていたのかと警戒するが、そうではないと言うことがすぐに分かった。
葛が前のめりに、ばちゃっと水の中に倒れてしまったからである。
「おいおい……。またかよ」
「またって?」
扉の向こうから、懐かしい声が聞こえてきた。
「よお、ルナ。無事だったか?」
「ええ、何とかね。……その子、誰?」
「コイツは葛。葵の妹だよ。コイツがこの施設の装置を、全部止めてくれたんだ」
「へぇ」
一聖に助け起こされた葛の顔を見て、ルナが小さくうなずく。
「似てないわね、葵には。……むしろアイツにそっくり」
「アイツ?」
「それより、この子大丈夫なの?」
尋ね返され、一聖は「おう」と返す。
「なんつーか、まだ完全にはモノにしきってねーらしくて、な。
あの技を一回使っただけで、体力と魔力がすっからかんになるらしいんだ。まだ実戦にゃ、使えそうにねーよ」
「あの技って?」
そう尋ねたルナに、一聖は得意満面の笑みを浮かべて返した。
「『星剣舞』だよ」
双月暦574年、春。
一聖と一対一での、半年以上に渡る壮絶な修行の末、葛はどうにか「星剣舞」を使えるようになっていた。
しかし前述の通り、この技を使うと数分で体力・魔力を失い、糸が切れるように気絶してしまうのである。
「真っ青じゃない、顔」
パラの膝に頭を乗せて倒れ込んでいる葛を、ルナが心配そうに見つめている。
その間に、パラが診断を終える。
「血糖値40mg/dl未満、極度の低血糖症状を起こしています」
「オレのかばんにチョコあったろ、1枚全部食わしてやれ。ミルクたっぷり入ったヤツだから、すぐ元気になる」
「でさ、カズセちゃん」
こちらも心配そうに、フィオが尋ねてくる。
「あの二人は大丈夫なのかな。さっきからピクリとも動かないんだけど」
フィオが示した先には、大火と渾沌が並んで横たわっていた。
「少なくとも死んじゃいない。オレの見た限りじゃ、葛と同じよーな症状だな」
「はい。克大火様とコントンもカズラと同様、衰弱状態にあります。特に魔力の枯渇が、両者とも著しく見受けられます」
「ってコトは、『システム』だな」
「システムって?」
「魔力を吸い取って特定の何かに送り込む装置だ。親父と渾沌はどうもその装置に延々、魔力を吸われてたらしいな」
「大丈夫なの?」
ルナのその問いに、一聖は首を横に振った。
「死にゃしねーが、魔力ってのは人間の精神力、言い換えれば脳の活動に関係するからな。魔力が空になってるってんなら、意識なんてはるか彼方にブッ飛んじまってるだろう。
しばらくは昏睡状態が続くだろうな」
「復活するのか?」
「病院かどっかで点滴打って安静にさせりゃ、そのうち目覚めるさ。結局は葛と同じで、体に栄養が全くない状態だから、な」
「……うー……きもちわるいよー……めがまわるー……」
と、葛がか細い声でうめく。
「目ぇ覚ましたか。しばらくじっとしてな」
「……きーてたけどさー……はやくびょういんに……つれてったげたほうが……よくないー……?」
のろのろとした声で提案され、一聖は苦笑した。
「……ま、そりゃな。じゃ、オレとルナは一旦、親父と渾沌連れてトラス王国に戻るわ。お二人さんはココで、葛が元気になるまで看ててくれ」
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