「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第10部
白猫夢・既朔抄 3
麒麟を巡る話、第513話。
過放出。
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3.
「天狐」
病院に運ばれ、点滴をつながれて1時間ほどしたところで、克大火が目を覚ました。
傍らに座って様子を見ていた一聖が、ばつの悪そうな顔で応じる。
「あー、……と、まあ、とりあえず、おはよう。目ぇ覚まして良かったぜ。……あのさ」
「ミッドランドの『システム』は破壊されたようだな」
一聖が説明するよりも早く、大火が状況を察する。
「あ、そうそう、ソレな。……んで、まあ、この通り。一聖に戻ったよ」
「ふむ」
大火は上半身を起こし、一聖をじっと見つめる。
「な、なんだよ」
「お前のことは、一聖と呼べばいいのか?」
「お、おう。一聖で」
「それで」
大火は一聖を見つめたまま、続いてこう尋ねてきた。
「もう一方のお前は?」
「……なんで造ったってコトが分かんだよ」
「自ら『天狐』と号を付けたお前だ。あの姿はお前自身が気に入っていた節があるから、な。それにあの金毛九尾と似ても似つかぬその姿でミッドランドに戻って、元通りに受け入れられるとは思えん。
であれば再度あの体を造り直し、自律させて送り込んだ方が、何かと手間がかからんだろう。お前は策を弄し趣向を凝らすより、簡潔に済ませるのを好む性格だから、な」
「やーれやれ」
一聖は肩をすくめ、大火にぎゅっと抱きついた。
「全っ然、変わんねーな。前のまんまじゃねーか。マジで安心したぜ」
「……」
大火は一聖の頭にとん、と手を載せつつ、こう返した。
「一聖。お前の性格についてさらに言及しておくが」
「あん?」
「こんな姿を見られるのを、嫌がる方だろう?」
「……たまにはいいじゃん」
「そうか。笑みを浮かべてドアの向こうから様子を伺っている奴がいるが、構わないのか?」
「え」
一聖は慌てて大火から離れ、ドアの方に振り向く。
「うふふふ」
ドアの隙間に、ルナがニヤニヤと笑った顔で立っているのが見えた。
「うあー……」
赤面した顔を両手で覆い、がっくりとうなだれている一聖を横目に眺めつつ、ルナは大火に尋ねる。
「それで、伝説の奸雄さんがどうして、あんなところで罠にかかっていたのかしら?」
「そう複雑な話ではない。
麒麟とその従者が何かを企てていることを察知し、痕跡をたどっていた。その結果あの施設を発見し、侵入したところで罠に落ちた。お前たちも同様だろう?」
「そうね。じゃあ、あなたたちも麒麟と葵がホムンクルスを造ってることを……?」
「ああ。元々、いずれ麒麟がこの世に舞い戻るだろうと言う予測は立てていた。
そして近年、奴は葵・ハーミットと言う優秀な駒を手に入れている。己の魔術知識を十分に理解し、実践できる程度に優秀な駒を、な。
であれば、ああして実験施設を密かに築き、己が復活する手筈を整えさせるだろう、……と言うことまでは、容易に想像できた。
そして実際に探し発見したが、罠にかかった。……と言うわけだ」
「なるほどね」
そこで話が途切れ、ルナはじっと大火を眺めている。
「……なんだ?」
「大先生、もしかして」
一転、ルナは心配そうな目を向けてきた。
「魔力は全然、回復してないんじゃないの?」
「え?」
目を丸くする一聖に対し、大火は平然とうなずいた。
「ああ。回復には、もうしばらくの時間を要するだろう」
「やっぱり。前に会った時は、これだけ近付けば肌がぴりぴりするくらいに強い魔力を感じてたのに、今はまったく、何にも感じないもの。
一聖ちゃんの場合は元々、大先生とそんなに大差ないくらい魔力があったから、そう言うのを感じて無かったかも知れないけど」
「まあ……、な」
「体力に関しては既に、出歩くのに支障の無い程度には回復している」
大火は肩をすくめ、こう続けた。
「だが恐らく、これだけ魔力が枯渇しているとなれば、従来の状態に戻るまで少なくとも、数週間は要するだろう。
水瓶の体積が大きければ大きいほど、水が貯まるのには時間がかかるから、な」
「でしょうね。じゃ、しばらくはあなたのこと、誰にも知らせない方がいいわね。強襲されたら困るでしょ?」
「俺は構わん。強襲されて困るのはむしろ、お前たちの方だろう?」
「え?」
面食らうルナや一聖に、大火は肩をすくめて返した。
「俺が魔力を失った程度で、誰かに不覚を取ったり、ましてや負けると思うのか?」
「……大した自信家だこと。看病し甲斐が無いわね」
口ではそう言いつつも、ルナの顔は笑っていた。
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過放出。
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「天狐」
病院に運ばれ、点滴をつながれて1時間ほどしたところで、克大火が目を覚ました。
傍らに座って様子を見ていた一聖が、ばつの悪そうな顔で応じる。
「あー、……と、まあ、とりあえず、おはよう。目ぇ覚まして良かったぜ。……あのさ」
「ミッドランドの『システム』は破壊されたようだな」
一聖が説明するよりも早く、大火が状況を察する。
「あ、そうそう、ソレな。……んで、まあ、この通り。一聖に戻ったよ」
「ふむ」
大火は上半身を起こし、一聖をじっと見つめる。
「な、なんだよ」
「お前のことは、一聖と呼べばいいのか?」
「お、おう。一聖で」
「それで」
大火は一聖を見つめたまま、続いてこう尋ねてきた。
「もう一方のお前は?」
「……なんで造ったってコトが分かんだよ」
「自ら『天狐』と号を付けたお前だ。あの姿はお前自身が気に入っていた節があるから、な。それにあの金毛九尾と似ても似つかぬその姿でミッドランドに戻って、元通りに受け入れられるとは思えん。
であれば再度あの体を造り直し、自律させて送り込んだ方が、何かと手間がかからんだろう。お前は策を弄し趣向を凝らすより、簡潔に済ませるのを好む性格だから、な」
「やーれやれ」
一聖は肩をすくめ、大火にぎゅっと抱きついた。
「全っ然、変わんねーな。前のまんまじゃねーか。マジで安心したぜ」
「……」
大火は一聖の頭にとん、と手を載せつつ、こう返した。
「一聖。お前の性格についてさらに言及しておくが」
「あん?」
「こんな姿を見られるのを、嫌がる方だろう?」
「……たまにはいいじゃん」
「そうか。笑みを浮かべてドアの向こうから様子を伺っている奴がいるが、構わないのか?」
「え」
一聖は慌てて大火から離れ、ドアの方に振り向く。
「うふふふ」
ドアの隙間に、ルナがニヤニヤと笑った顔で立っているのが見えた。
「うあー……」
赤面した顔を両手で覆い、がっくりとうなだれている一聖を横目に眺めつつ、ルナは大火に尋ねる。
「それで、伝説の奸雄さんがどうして、あんなところで罠にかかっていたのかしら?」
「そう複雑な話ではない。
麒麟とその従者が何かを企てていることを察知し、痕跡をたどっていた。その結果あの施設を発見し、侵入したところで罠に落ちた。お前たちも同様だろう?」
「そうね。じゃあ、あなたたちも麒麟と葵がホムンクルスを造ってることを……?」
「ああ。元々、いずれ麒麟がこの世に舞い戻るだろうと言う予測は立てていた。
そして近年、奴は葵・ハーミットと言う優秀な駒を手に入れている。己の魔術知識を十分に理解し、実践できる程度に優秀な駒を、な。
であれば、ああして実験施設を密かに築き、己が復活する手筈を整えさせるだろう、……と言うことまでは、容易に想像できた。
そして実際に探し発見したが、罠にかかった。……と言うわけだ」
「なるほどね」
そこで話が途切れ、ルナはじっと大火を眺めている。
「……なんだ?」
「大先生、もしかして」
一転、ルナは心配そうな目を向けてきた。
「魔力は全然、回復してないんじゃないの?」
「え?」
目を丸くする一聖に対し、大火は平然とうなずいた。
「ああ。回復には、もうしばらくの時間を要するだろう」
「やっぱり。前に会った時は、これだけ近付けば肌がぴりぴりするくらいに強い魔力を感じてたのに、今はまったく、何にも感じないもの。
一聖ちゃんの場合は元々、大先生とそんなに大差ないくらい魔力があったから、そう言うのを感じて無かったかも知れないけど」
「まあ……、な」
「体力に関しては既に、出歩くのに支障の無い程度には回復している」
大火は肩をすくめ、こう続けた。
「だが恐らく、これだけ魔力が枯渇しているとなれば、従来の状態に戻るまで少なくとも、数週間は要するだろう。
水瓶の体積が大きければ大きいほど、水が貯まるのには時間がかかるから、な」
「でしょうね。じゃ、しばらくはあなたのこと、誰にも知らせない方がいいわね。強襲されたら困るでしょ?」
「俺は構わん。強襲されて困るのはむしろ、お前たちの方だろう?」
「え?」
面食らうルナや一聖に、大火は肩をすくめて返した。
「俺が魔力を失った程度で、誰かに不覚を取ったり、ましてや負けると思うのか?」
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大火「……」
ルナ(あらら……、拗ねちゃった?)