「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第10部
白猫夢・既朔抄 4
麒麟を巡る話、第514話。
「オリハルコン」。
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4.
「実際、魔力が俺自身に無くとも」
大火は壁にかけられていた自分のコートから、金と紫とに光る金属板――「黄金の目録」を取り出した。
「魔術書や魔杖など、他に魔力を蓄積したものがあれば、使用するのに問題は無い。この『目録』も、そうした事態に備えての機能を有している。
とは言え普段の俺のように、野放図に使うわけにはいかんが、な」
「そんなら、魔力結晶かなんか持ってきた方がいいか? 高出力のヤツ」
尋ねた一聖に、大火は小さくうなずいて返す。
「ああ。できれば……」「『オリハルコンMS―216』だろ?」「……そうだ」
再度うなずいた大火に、一聖は得意げに笑う。
「あのシリーズが何だかんだ言って一番だしな。マコトさんの……」「一聖」
が、大火はどこか、不機嫌そうな目を向ける。それを見た一聖は一瞬、慌てた様子を見せ、自分の唇に人差し指を当てた。
「……ま、うん、余計なコトは、だな。分かった、持ってくる。
あ、ついでにさ。天狐も連れて来ようか?」
「ああ、顔を合わせておこう」
「じゃ、ちょっと待っててくれよ」
そう言って、一聖はその場から瞬時に姿を消した。
「『オリハルコン』って?」
二人きりになったところで、ルナが尋ねる。
「魔力結晶と呼ばれている物質だ。魔力を蓄積・放出できる性質を持っている」
「ふーん……。天狐ちゃんの尻尾とかも、魔力結晶って話を聞いたけど。あれがオリハルコン?」
「いや、あれは『オリハルコン』ではない。だが、一房で約1000MPPの魔力を蓄積できる。
だが『オリハルコン』シリーズ、特に『216』は1万MPP以上の魔力蓄積量を誇る」
「1万! 大工場並みね」
「それだけに保管も難しい。放置すれば蓄積した魔力を維持できず劣化・崩壊してしまう。
本来ならばミッドランド島地下の巨大魔法陣など、大規模な施設に使用するものだ」
「あ、なるほど。じゃあ取ってきてって言ったのは……」
「そうだ。一聖がここにいる以上、あいつを封じていた魔法陣はその機能を失っている。ならばそこに使用していたものを使うことも可能だろうと踏んだ。
それに一聖ならば、万全な状態で保管しているだろうから、な」
「ま、その通りだな」
姿を消した時と同様、一聖が「テレポート」により戻ってくる。
その背後には、天狐が気まずそうな顔で立っていた。
「あ、あのー……」
「ほれ、お前が渡せって」
一聖が天狐の後ろに回り、彼女の背中を押す。
「分かったよ、押すなよ……。
その、えーと、お、おや、……お師匠」
「……クッ」
天狐の様子を眺めていた大火が、口に拳を当てて小さく吹き出した。
「どの道、お前の中身は一聖と同じだろう? 親父で構わん」
「……お、おう。じゃあ親父、コレ。ちょっと重たいかも知れねーけど、ベルトにでも掛けてくれれば、普段通り魔術が使えるはずだ」
ぼんやり橙色に光る金属片をそろそろと差し出した天狐に、大火は右手を差し出し――天狐の頭に乗せた。
「ひゃっ!?」
「一聖にもしてやったからな。お前にもしてやろう」
「……恥ずいって……アンタ、そんなキャラじゃないだろ……」
顔を真っ赤にしつつも、天狐はその手を払ったりせず、なすがままにされていた。
さらに1時間後、大火はルナと娘「たち」を伴い、病院を後にした。
「流石にあのまま寝ているのも、退屈だからな」
「まーな」
4人で連れ立って市街地をうろついているところで、大火が足を止める。
「……」
「どうした、親父?」
尋ねた一聖に、大火が応じる。
「渾沌のことを忘れていた。あいつは無事なのか?」
「無事よ」
これにはルナが答えた。
「でも『たまにはぐっすり眠りたい』って、病院で寝てるわ」
「そうか」
「……忘れてんなよ、親父。アイツ、泣くぜ?」
「泣きはしない。拗ねはするが、な」
「分かってんじゃない」
「差し入れでも買って帰るとしよう。ついでに何か食べるか?」
そう提案した大火に、天狐が心配そうな目を向ける。
「カネあんの?」
「俺が金を払わず盗むとでも? 『契約』と名のつくもので俺がそれを違えることは、決して無い。商売事も取引、契約の一つだ」
「いや、まあ、ソレは分かってっけどさ。親父がふつーにカネ出すイメージ、無いし」
「ふざけたことを」
大火はコートの懐から、普通に財布を取り出した。
「ここの通貨はコノンだったな? 手持ちは30万ほどある」
「十分過ぎるぜ。じゃ、あの店とかどーよ?」
「ああ、そうしよう」
一聖と天狐に引かれる形で、一行は露店へ向かった。
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「オリハルコン」。
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「実際、魔力が俺自身に無くとも」
大火は壁にかけられていた自分のコートから、金と紫とに光る金属板――「黄金の目録」を取り出した。
「魔術書や魔杖など、他に魔力を蓄積したものがあれば、使用するのに問題は無い。この『目録』も、そうした事態に備えての機能を有している。
とは言え普段の俺のように、野放図に使うわけにはいかんが、な」
「そんなら、魔力結晶かなんか持ってきた方がいいか? 高出力のヤツ」
尋ねた一聖に、大火は小さくうなずいて返す。
「ああ。できれば……」「『オリハルコンMS―216』だろ?」「……そうだ」
再度うなずいた大火に、一聖は得意げに笑う。
「あのシリーズが何だかんだ言って一番だしな。マコトさんの……」「一聖」
が、大火はどこか、不機嫌そうな目を向ける。それを見た一聖は一瞬、慌てた様子を見せ、自分の唇に人差し指を当てた。
「……ま、うん、余計なコトは、だな。分かった、持ってくる。
あ、ついでにさ。天狐も連れて来ようか?」
「ああ、顔を合わせておこう」
「じゃ、ちょっと待っててくれよ」
そう言って、一聖はその場から瞬時に姿を消した。
「『オリハルコン』って?」
二人きりになったところで、ルナが尋ねる。
「魔力結晶と呼ばれている物質だ。魔力を蓄積・放出できる性質を持っている」
「ふーん……。天狐ちゃんの尻尾とかも、魔力結晶って話を聞いたけど。あれがオリハルコン?」
「いや、あれは『オリハルコン』ではない。だが、一房で約1000MPPの魔力を蓄積できる。
だが『オリハルコン』シリーズ、特に『216』は1万MPP以上の魔力蓄積量を誇る」
「1万! 大工場並みね」
「それだけに保管も難しい。放置すれば蓄積した魔力を維持できず劣化・崩壊してしまう。
本来ならばミッドランド島地下の巨大魔法陣など、大規模な施設に使用するものだ」
「あ、なるほど。じゃあ取ってきてって言ったのは……」
「そうだ。一聖がここにいる以上、あいつを封じていた魔法陣はその機能を失っている。ならばそこに使用していたものを使うことも可能だろうと踏んだ。
それに一聖ならば、万全な状態で保管しているだろうから、な」
「ま、その通りだな」
姿を消した時と同様、一聖が「テレポート」により戻ってくる。
その背後には、天狐が気まずそうな顔で立っていた。
「あ、あのー……」
「ほれ、お前が渡せって」
一聖が天狐の後ろに回り、彼女の背中を押す。
「分かったよ、押すなよ……。
その、えーと、お、おや、……お師匠」
「……クッ」
天狐の様子を眺めていた大火が、口に拳を当てて小さく吹き出した。
「どの道、お前の中身は一聖と同じだろう? 親父で構わん」
「……お、おう。じゃあ親父、コレ。ちょっと重たいかも知れねーけど、ベルトにでも掛けてくれれば、普段通り魔術が使えるはずだ」
ぼんやり橙色に光る金属片をそろそろと差し出した天狐に、大火は右手を差し出し――天狐の頭に乗せた。
「ひゃっ!?」
「一聖にもしてやったからな。お前にもしてやろう」
「……恥ずいって……アンタ、そんなキャラじゃないだろ……」
顔を真っ赤にしつつも、天狐はその手を払ったりせず、なすがままにされていた。
さらに1時間後、大火はルナと娘「たち」を伴い、病院を後にした。
「流石にあのまま寝ているのも、退屈だからな」
「まーな」
4人で連れ立って市街地をうろついているところで、大火が足を止める。
「……」
「どうした、親父?」
尋ねた一聖に、大火が応じる。
「渾沌のことを忘れていた。あいつは無事なのか?」
「無事よ」
これにはルナが答えた。
「でも『たまにはぐっすり眠りたい』って、病院で寝てるわ」
「そうか」
「……忘れてんなよ、親父。アイツ、泣くぜ?」
「泣きはしない。拗ねはするが、な」
「分かってんじゃない」
「差し入れでも買って帰るとしよう。ついでに何か食べるか?」
そう提案した大火に、天狐が心配そうな目を向ける。
「カネあんの?」
「俺が金を払わず盗むとでも? 『契約』と名のつくもので俺がそれを違えることは、決して無い。商売事も取引、契約の一つだ」
「いや、まあ、ソレは分かってっけどさ。親父がふつーにカネ出すイメージ、無いし」
「ふざけたことを」
大火はコートの懐から、普通に財布を取り出した。
「ここの通貨はコノンだったな? 手持ちは30万ほどある」
「十分過ぎるぜ。じゃ、あの店とかどーよ?」
「ああ、そうしよう」
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