「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第10部
白猫夢・既朔抄 5
麒麟を巡る話、第515話。
罠の理由。
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5.
袋一杯に焼き菓子を買い、一行は病院に戻る。
が、当然――。
「困ります。病院にそんな一杯、持ち込まれても」
「……ま、そうよね」
受付で職員らに止められたため、やむなく袋ごと、職員らに差し入れることにした。
「流石に買い過ぎたな」
「へへへ……」
と、受付から離れ、階段の踊り場に差し掛かったところで、一聖と天狐が服の中から、それぞれ包みを取り出す。
「こーなると思って、隠しといた」
「抜け目ないわね」
「クク……」
2階へ上がり、渾沌のいる病室に入ったところで、一行は葛たちが先に来ていたのに気付いた。
「あら。もう帰ってきたのね」
「うん。いつまでも寝てらんないしー」
と、横になっていた渾沌が口を開く。
「無事みたいですね、先生」
「ああ。お前も無事なようだな」
近付き、傍らに置いてあった仮面を手に取った大火に、渾沌は「あ」と声をかける。
「置いといて下さい」
「うん?」
「かけたところで、看護婦さんたちに外されますし」
「分かった。……このまま、ここで寝ているつもりか?」
「少なくとも、今日一日はゆっくりしたいですね。
あそこで罠にはまる前まで、世界中あっちこっち飛び回ってましたし、罠にかかってた間は意識が全く無かったですし。
ここを離れたらまた、先生に引きずり回されるでしょうしね」
大火は肩をすくめ、仮面を机に置く。
「俺も多少疲れがある。しばらくはここに逗留するつもりだ。
と言うより、本拠に戻れるだけの魔力が無い、と言うのが実際のところだが、な」
「あら、先生もですか?」
渾沌は寝癖でくしゃくしゃになった髪を手で簡単に梳かしつつ、師匠と同じように肩をすくめて返した。
「私もすっからかんです。目一杯吸い尽くされたみたいですね。
でもああして封じられたのは、麒麟の意趣返しや魔力供給手段、対抗勢力の殲滅と言う目的だけでは無いでしょうね」
「だろうな。恐らくはあのホムンクルス研究に使われたのだろう」
「って言うと?」
尋ねたルナに、渾沌が答える。
「あれが未完成のものだってことは、あなたも分かってるでしょ?」
「ええ」
「私や師匠の体をお手本にして、完成を目指そうとしてた可能性があるわ。
この世界で現在、桁違いの魔力を身に有している人間は、私や師匠くらいしかいないもの。サンプルにするにはうってつけってわけよ」
「じゃあ、もしかして……」「いや」
大火が首を横に振り、皆の懸念を否定する。
「完成した可能性は低い。もしも本当に完成していたとなれば、あの研究所を保全・運用する理由が無い。同時に俺たちを生かしておく理由も、な。今日まで俺たちが封じられていたことから考えて、まだ研究途中であることは間違いないはずだ。
とは言え、何の成果も収められていないとも、考え辛い。葵の才覚は並外れている。最終目的である『麒麟の器造り』に至らぬまでも、何かしら麒麟や、あるいは自分にとって有益な結果を得ているかも知れん」
「ソレって……?」
不安げに見上げる葛に、大火はまた首を振った。
「何とも答えられん。あの研究所の機能が停止したことで、研究資料もまた、揮発・霧散しているだろう。
麒麟や葵が万一の事態を想定しない、とは考えられんから、な。手がかりを追わせぬよう、策を講じているはずだ」
「実際、葛が魔力源を破壊した途端にホムンクルスの培養槽が全部止まって、全滅してたしな。手がかりはもう無いだろう」
「……ごめん」
謝る葛に、大火が肩をすくめる。
「責めるつもりは微塵も無い。むしろお前が魔力源を破壊しなければ、俺たちは復活できなかったわけだから、な。
……ふむ」
と、大火が腕を組み、考える仕草を見せる。
「どうしたんですか?」
「考えてみれば、俺たちは葛、お前に助けられたわけだな」
「……あ」
大火の言葉に、全員の視線が彼と、葛に集中する。
「まあ、そうなるのかなー……?」
のんきに応じた葛に対し、大火は腕を組んだまま、こう返した。
「であれば、相応の対価を支払ってしかるべきだな」
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罠の理由。
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5.
袋一杯に焼き菓子を買い、一行は病院に戻る。
が、当然――。
「困ります。病院にそんな一杯、持ち込まれても」
「……ま、そうよね」
受付で職員らに止められたため、やむなく袋ごと、職員らに差し入れることにした。
「流石に買い過ぎたな」
「へへへ……」
と、受付から離れ、階段の踊り場に差し掛かったところで、一聖と天狐が服の中から、それぞれ包みを取り出す。
「こーなると思って、隠しといた」
「抜け目ないわね」
「クク……」
2階へ上がり、渾沌のいる病室に入ったところで、一行は葛たちが先に来ていたのに気付いた。
「あら。もう帰ってきたのね」
「うん。いつまでも寝てらんないしー」
と、横になっていた渾沌が口を開く。
「無事みたいですね、先生」
「ああ。お前も無事なようだな」
近付き、傍らに置いてあった仮面を手に取った大火に、渾沌は「あ」と声をかける。
「置いといて下さい」
「うん?」
「かけたところで、看護婦さんたちに外されますし」
「分かった。……このまま、ここで寝ているつもりか?」
「少なくとも、今日一日はゆっくりしたいですね。
あそこで罠にはまる前まで、世界中あっちこっち飛び回ってましたし、罠にかかってた間は意識が全く無かったですし。
ここを離れたらまた、先生に引きずり回されるでしょうしね」
大火は肩をすくめ、仮面を机に置く。
「俺も多少疲れがある。しばらくはここに逗留するつもりだ。
と言うより、本拠に戻れるだけの魔力が無い、と言うのが実際のところだが、な」
「あら、先生もですか?」
渾沌は寝癖でくしゃくしゃになった髪を手で簡単に梳かしつつ、師匠と同じように肩をすくめて返した。
「私もすっからかんです。目一杯吸い尽くされたみたいですね。
でもああして封じられたのは、麒麟の意趣返しや魔力供給手段、対抗勢力の殲滅と言う目的だけでは無いでしょうね」
「だろうな。恐らくはあのホムンクルス研究に使われたのだろう」
「って言うと?」
尋ねたルナに、渾沌が答える。
「あれが未完成のものだってことは、あなたも分かってるでしょ?」
「ええ」
「私や師匠の体をお手本にして、完成を目指そうとしてた可能性があるわ。
この世界で現在、桁違いの魔力を身に有している人間は、私や師匠くらいしかいないもの。サンプルにするにはうってつけってわけよ」
「じゃあ、もしかして……」「いや」
大火が首を横に振り、皆の懸念を否定する。
「完成した可能性は低い。もしも本当に完成していたとなれば、あの研究所を保全・運用する理由が無い。同時に俺たちを生かしておく理由も、な。今日まで俺たちが封じられていたことから考えて、まだ研究途中であることは間違いないはずだ。
とは言え、何の成果も収められていないとも、考え辛い。葵の才覚は並外れている。最終目的である『麒麟の器造り』に至らぬまでも、何かしら麒麟や、あるいは自分にとって有益な結果を得ているかも知れん」
「ソレって……?」
不安げに見上げる葛に、大火はまた首を振った。
「何とも答えられん。あの研究所の機能が停止したことで、研究資料もまた、揮発・霧散しているだろう。
麒麟や葵が万一の事態を想定しない、とは考えられんから、な。手がかりを追わせぬよう、策を講じているはずだ」
「実際、葛が魔力源を破壊した途端にホムンクルスの培養槽が全部止まって、全滅してたしな。手がかりはもう無いだろう」
「……ごめん」
謝る葛に、大火が肩をすくめる。
「責めるつもりは微塵も無い。むしろお前が魔力源を破壊しなければ、俺たちは復活できなかったわけだから、な。
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「どうしたんですか?」
「考えてみれば、俺たちは葛、お前に助けられたわけだな」
「……あ」
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今日の旅岡さん

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
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NoTitle
作中で言及してはいませんが、この名前はいわゆるトリプルミーニングですね。
大火(騒動の一因)、対価(契約の悪魔)、大家(魔術と剣の達人)と言う感じで。
大火(騒動の一因)、対価(契約の悪魔)、大家(魔術と剣の達人)と言う感じで。
大火が対価を払う……。
すげえ、大火さんって、ダジャレもいえるんだ!(← そういう話ではない(^_^;))
すげえ、大火さんって、ダジャレもいえるんだ!(← そういう話ではない(^_^;))
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NoTitle
ちなみに「大火」の号は大火自身が付けたわけではありません。その辺の話は、いずれ明かすつもりです。