「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第10部
白猫夢・既朔抄 6
麒麟を巡る話、第516話。
克の契約。
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6.
大火の言葉に、その場にいた全員が息を呑む。
何故なら大火が放ったその一言は――一切の比喩無く――どんな途方も無い望みでも叶えてくれることを約束するものだったからである。
「え……、マジで?」
「ああ。俺と渾沌を窮地から救ったと言う、その行為。俺にとってはこの世界一つにも等しい価値ある行動だと断言しよう。
であれば、どんな願いも聞き届けてやらねばなるまい」
「えー……、うーん……」
葛は自分の尻尾を撫でながら、考え込む。
「んー、何にも思い付かないなー。あたし特に、欲しいモノって無いんだよねー」
「……えー」「ぷ、くく……」
葛の言葉に、半分は落胆し、残る半分は笑い出す。
「なんでだよ? お金とかあるだろ?」
「別にお金に困って無いしなー」
「一般的な20代女性であれば、美貌などを望むと予想されますが」
「あたし、別に自分の顔も体型も嫌いじゃないもん。気に入ってるよー?」
「力が欲しいとか思わねーのか?」
「力? カズセちゃんに修行付けてもらってるしなー」
「刀とかどーよ? 晴奈の姉さんみたいに」
「ソレもカズセちゃんからもらったしなー」
「……もったいねー」
葛のあまりに気の無い返答に、一聖と天狐が揃って残念そうな声を上げる。
「まー、確かにね。もしかしたらまた後で何か、お願いしたくなるかも知れないし。
だから今のところは、保留でいい?」
「構わん。どの道、魔力が無い今、願いを聞いてもすぐには叶えられんから、な。魔力が回復し、その上で何か叶えてほしい願いができたら、何でも伝えてくれ」
「ありがとね、タイカさん」
話が途切れたところで、今度はルナが一聖に声をかけた。
「ところで、一聖ちゃん」
「ん?」
「約束、守ってくれるわよね?」
「ああ、アレな。勿論だ。いつやる?」
「いつでも。本人次第ね」
そう言って、ルナはパラとフィオに目をやる。
「……」「あー、と」
「言っとくけど、ここまで来て『やっぱりやめ』とかは無しよ?」
「な、無い無い。無いけど」
「けど?」
「その前にさ、何て言うか、……心の準備を付けたいなって」
「心の準備ぃ?」
ルナはフィオの鼻をぐに、とつまむ。
「ふがっ」
「なーにが心の準備よ。一聖ちゃんに『人間にしてもらえる』って話聞いて、何年経ったと思ってんのよ? マークじゃあるまいし。
パラ。アンタはすぐしてもらうわよね?」
「いえ」
が、パラもフィオと同様、うなずこうとしない。
「はぁ? アンタも心の準備がどーのこーの言うつもりなの?」
「はい。人間になるにあたり、不安な要素が数多くあります。そしてその不安を解消できる回答を、わたくしはほとんど得ておりません」
「……んー」
ルナはフィオから手を離し、肩をすくめる。
「ま、今はまだ暇があるし、2日でも3日でも悩みなさいな。二人で話し合うなり、どっか遊びに出かけるなりしてね」
「……ああ、分かった。パラと二人で、まずは話し合ってみるよ」
「では、しばらく二人きりに……」
二人が揃ってルナにお辞儀し、その場を離れかけた、その時だった。
「ルナさん! フィオ! パラ! 帰ってきてたんだね!」
病室のドアをガタガタと開け、マークが入ってきた。
「マーク!」
フィオはドアの方に振り返り、入ってきたマークに駆け寄った。
「しばらくぶりだったね、本当」
「ああ、最後に会ったのは半年……、いや、もっとだっけか。……いや、罠にかかってた時間を考えたら、もっとになるのか」
「そうだね。僕の記憶じゃ1年以上は優に超えてるよ」
「そっか。……じゃ、その間に結婚も?」
マークの左薬指にはまった指輪を見て、フィオが尋ねる。
「あ、ああ。そうなんだ。……ごめんよ、本当。君には不義理なことをしてしまって」
「まさか! おめでたいことじゃないか。僕のことなんか気にしなくたって……」
言いかけて、フィオは傍らのパラに目をやった。
「……いや、まあ、できるだけ待っていてくれたことは嬉しい。『人間になってから結婚したい』って言ってた僕たちの事情を考えてくれていたんだし」
「それでも結局、押し切られたけどね……」
「相手がシャランなら、仕方無いさ。子供ももう、産まれたんだろ?」
「うん。実はまだ、シャランも子供も病院にいるんだ」
「そうなのか?」
フィオはもう一度、パラと顔を見合わせ――。
「もし良ければ、見せてもらっていい?」
「勿論さ。是非見て欲しい」
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克の契約。
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大火の言葉に、その場にいた全員が息を呑む。
何故なら大火が放ったその一言は――一切の比喩無く――どんな途方も無い望みでも叶えてくれることを約束するものだったからである。
「え……、マジで?」
「ああ。俺と渾沌を窮地から救ったと言う、その行為。俺にとってはこの世界一つにも等しい価値ある行動だと断言しよう。
であれば、どんな願いも聞き届けてやらねばなるまい」
「えー……、うーん……」
葛は自分の尻尾を撫でながら、考え込む。
「んー、何にも思い付かないなー。あたし特に、欲しいモノって無いんだよねー」
「……えー」「ぷ、くく……」
葛の言葉に、半分は落胆し、残る半分は笑い出す。
「なんでだよ? お金とかあるだろ?」
「別にお金に困って無いしなー」
「一般的な20代女性であれば、美貌などを望むと予想されますが」
「あたし、別に自分の顔も体型も嫌いじゃないもん。気に入ってるよー?」
「力が欲しいとか思わねーのか?」
「力? カズセちゃんに修行付けてもらってるしなー」
「刀とかどーよ? 晴奈の姉さんみたいに」
「ソレもカズセちゃんからもらったしなー」
「……もったいねー」
葛のあまりに気の無い返答に、一聖と天狐が揃って残念そうな声を上げる。
「まー、確かにね。もしかしたらまた後で何か、お願いしたくなるかも知れないし。
だから今のところは、保留でいい?」
「構わん。どの道、魔力が無い今、願いを聞いてもすぐには叶えられんから、な。魔力が回復し、その上で何か叶えてほしい願いができたら、何でも伝えてくれ」
「ありがとね、タイカさん」
話が途切れたところで、今度はルナが一聖に声をかけた。
「ところで、一聖ちゃん」
「ん?」
「約束、守ってくれるわよね?」
「ああ、アレな。勿論だ。いつやる?」
「いつでも。本人次第ね」
そう言って、ルナはパラとフィオに目をやる。
「……」「あー、と」
「言っとくけど、ここまで来て『やっぱりやめ』とかは無しよ?」
「な、無い無い。無いけど」
「けど?」
「その前にさ、何て言うか、……心の準備を付けたいなって」
「心の準備ぃ?」
ルナはフィオの鼻をぐに、とつまむ。
「ふがっ」
「なーにが心の準備よ。一聖ちゃんに『人間にしてもらえる』って話聞いて、何年経ったと思ってんのよ? マークじゃあるまいし。
パラ。アンタはすぐしてもらうわよね?」
「いえ」
が、パラもフィオと同様、うなずこうとしない。
「はぁ? アンタも心の準備がどーのこーの言うつもりなの?」
「はい。人間になるにあたり、不安な要素が数多くあります。そしてその不安を解消できる回答を、わたくしはほとんど得ておりません」
「……んー」
ルナはフィオから手を離し、肩をすくめる。
「ま、今はまだ暇があるし、2日でも3日でも悩みなさいな。二人で話し合うなり、どっか遊びに出かけるなりしてね」
「……ああ、分かった。パラと二人で、まずは話し合ってみるよ」
「では、しばらく二人きりに……」
二人が揃ってルナにお辞儀し、その場を離れかけた、その時だった。
「ルナさん! フィオ! パラ! 帰ってきてたんだね!」
病室のドアをガタガタと開け、マークが入ってきた。
「マーク!」
フィオはドアの方に振り返り、入ってきたマークに駆け寄った。
「しばらくぶりだったね、本当」
「ああ、最後に会ったのは半年……、いや、もっとだっけか。……いや、罠にかかってた時間を考えたら、もっとになるのか」
「そうだね。僕の記憶じゃ1年以上は優に超えてるよ」
「そっか。……じゃ、その間に結婚も?」
マークの左薬指にはまった指輪を見て、フィオが尋ねる。
「あ、ああ。そうなんだ。……ごめんよ、本当。君には不義理なことをしてしまって」
「まさか! おめでたいことじゃないか。僕のことなんか気にしなくたって……」
言いかけて、フィオは傍らのパラに目をやった。
「……いや、まあ、できるだけ待っていてくれたことは嬉しい。『人間になってから結婚したい』って言ってた僕たちの事情を考えてくれていたんだし」
「それでも結局、押し切られたけどね……」
「相手がシャランなら、仕方無いさ。子供ももう、産まれたんだろ?」
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