「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第10部
白猫夢・既朔抄 8
麒麟を巡る話、第518話。
合縁奇縁。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
8.
(オレは変に他人から恭しく扱われんの、イヤなんだけどな)
一聖はその様子を眺めながら、傍らの葛にそうつぶやく。
(うん。ウォーレンさんに怒ってたもんねー)
(いや、怒るってほどじゃねーんだけど、まあ、いきなりアイツみたいに幸甚云々、重畳云々って並べ立てられると、頭っから爪先までぞわーっとするんだよ。
もっと簡単に、『会えて嬉しいです』の一言でいいじゃんって思うんだよな)
(あたしはカズセちゃんのそーゆー気取らないトコ、好きだけどねー)
(そりゃどーも)
二人が眺めているのは、その堅苦しくて暑苦しいウォーレンの所作である。
彼も大火たちの救出に向かうことを強く要望していたのだが、一聖がそれを拒否した。理由は前述の通り、暑苦しい振る舞いをすることが目に見えており、それが彼女の癪に障るからである。
事実、こうして静養中の大火に面会した途端、ウォーレンはがばっと平伏し、かつて一聖が自分の正体を明かした際のように、長々と堅苦しい挨拶を述べていた。
「畏れ多くも黒炎様の御面前に拝しまして、恐悦至極に存じます。甚だ不肖、未熟な身でありながら、こうしてお目通りが適いましたこと、大変ありがたき幸せと心得ます」
「うむ」
娘の一聖は毛嫌いするその大仰な挨拶を、大火は泰然と受け流していた。いや――。
「楽にして構わん」
表情こそ変えないものの、大火は早々にそう言って返した。
(でもさ、タイカさんもじゃない? 堅苦しいの、好きじゃないみたいだよー)
(そうかぁ?)
(今のさー、『いいから普通に話せ』って言ってるようにも聞こえるんだけど)
(あー……、言われてみりゃ、確かにそうかも)
それを裏付けるかのように、顔を上げ、床に正座したウォーレンに対し、大火はうざったそうに椅子を指差した。
「そんなところで畏まるな」
「はっ、失礼いたしました」
おずおずと立ち上がり、カチコチとした仕草で椅子に座ったウォーレンを眺めていた葛たちは、思わず噴き出した。
「な、なんですか?」
聞かれたらしく、ウォーレンがぎょっとした顔を向けてくる。
「……ク、ククク、……いやいや、ウォーレンよぉ」
一聖は笑いをこらえながら、ウォーレンに突っ込んだ。
「なんでお前、そんな緊張しまくってんだよ」
「い、いや、それは当然でしょう。我々にとって黒炎様は……」
「分かってるよ、んなこたぁ。でもさ、オレも親父も、そーゆー堅っ苦しいのは好きじゃねーんだよ。な、親父?」
「ああ」
娘の問いに、大火はあっさりとうなずいて返した。
「えっ」
その返事を聞いたウォーレンは一転、顔を青ざめさせる。
「……こ、これはとんだご無礼を!」
「いや、構わん。お前の敬意・誠意の現れであると捉えこそすれ、無礼だなどとはこれっぽっちも思っていない。
ウォーレンと言ったな?」
「は、はい。ウォーレン・ウィルソンにございます」
「お前のことは良く覚えておこう。希望があれば教団に口添えするが、どうだ?」
「と、言いますと?」
口ではそう言いつつも、ウォーレンの顔に紅が差している。
「こうして話している限りでは、そう粗忽者とも、腕っ節だけの荒くれ者とも思えん。一聖に聞いた限りでは人材の管理能力も悪くなさそうであるし、教団で然るべき地位を与えるよう、教主に指示しても構わんが、どうだ?」
「そっ……、そうですか」
ウォーレンの顔に一瞬、これまでにないくらい嬉しそうな表情が浮かぶ。
だが――すぐにぺこ、と頭を下げた。
「お気持ちは非常に嬉しいのですが、私にはまだ、やらねばならぬことがございます」
「ふむ」
「私は娘御のカズセちゃ、……様より、カズラ君を守るよう仰せつかっております。彼女が今まさにその渦中にいる、アオイ氏との戦いを終えるまで、私はカズラ君の側に付いてやりたいのです」
「分かった」
大火は小さくうなずき、「目録」に何かを書き付けた。
「ではこの話は、戦いが終わってから改めてすることとしよう。
カズラ」
急に話を振られ、葛はきょとんとする。
「はい?」
「お前や、お前の叔母には人が集まってくる縁があるな。良い資質だ」
「へ?」
「大事にするといい」
「は、はいっ」
大火にそう言われたものの――正直な話、葛には何がなんだか分かっていなかった。
(人が集まってくる資質を大事に、……って言われてもなー。どうしろって言うのよ?
て言うか、叔母って誰のコトだろ? いないんだけどなぁ、あたしに叔母さんって)
葛はそれを大火の勘違いと思い、問いただしはしなかった。
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(オレは変に他人から恭しく扱われんの、イヤなんだけどな)
一聖はその様子を眺めながら、傍らの葛にそうつぶやく。
(うん。ウォーレンさんに怒ってたもんねー)
(いや、怒るってほどじゃねーんだけど、まあ、いきなりアイツみたいに幸甚云々、重畳云々って並べ立てられると、頭っから爪先までぞわーっとするんだよ。
もっと簡単に、『会えて嬉しいです』の一言でいいじゃんって思うんだよな)
(あたしはカズセちゃんのそーゆー気取らないトコ、好きだけどねー)
(そりゃどーも)
二人が眺めているのは、その堅苦しくて暑苦しいウォーレンの所作である。
彼も大火たちの救出に向かうことを強く要望していたのだが、一聖がそれを拒否した。理由は前述の通り、暑苦しい振る舞いをすることが目に見えており、それが彼女の癪に障るからである。
事実、こうして静養中の大火に面会した途端、ウォーレンはがばっと平伏し、かつて一聖が自分の正体を明かした際のように、長々と堅苦しい挨拶を述べていた。
「畏れ多くも黒炎様の御面前に拝しまして、恐悦至極に存じます。甚だ不肖、未熟な身でありながら、こうしてお目通りが適いましたこと、大変ありがたき幸せと心得ます」
「うむ」
娘の一聖は毛嫌いするその大仰な挨拶を、大火は泰然と受け流していた。いや――。
「楽にして構わん」
表情こそ変えないものの、大火は早々にそう言って返した。
(でもさ、タイカさんもじゃない? 堅苦しいの、好きじゃないみたいだよー)
(そうかぁ?)
(今のさー、『いいから普通に話せ』って言ってるようにも聞こえるんだけど)
(あー……、言われてみりゃ、確かにそうかも)
それを裏付けるかのように、顔を上げ、床に正座したウォーレンに対し、大火はうざったそうに椅子を指差した。
「そんなところで畏まるな」
「はっ、失礼いたしました」
おずおずと立ち上がり、カチコチとした仕草で椅子に座ったウォーレンを眺めていた葛たちは、思わず噴き出した。
「な、なんですか?」
聞かれたらしく、ウォーレンがぎょっとした顔を向けてくる。
「……ク、ククク、……いやいや、ウォーレンよぉ」
一聖は笑いをこらえながら、ウォーレンに突っ込んだ。
「なんでお前、そんな緊張しまくってんだよ」
「い、いや、それは当然でしょう。我々にとって黒炎様は……」
「分かってるよ、んなこたぁ。でもさ、オレも親父も、そーゆー堅っ苦しいのは好きじゃねーんだよ。な、親父?」
「ああ」
娘の問いに、大火はあっさりとうなずいて返した。
「えっ」
その返事を聞いたウォーレンは一転、顔を青ざめさせる。
「……こ、これはとんだご無礼を!」
「いや、構わん。お前の敬意・誠意の現れであると捉えこそすれ、無礼だなどとはこれっぽっちも思っていない。
ウォーレンと言ったな?」
「は、はい。ウォーレン・ウィルソンにございます」
「お前のことは良く覚えておこう。希望があれば教団に口添えするが、どうだ?」
「と、言いますと?」
口ではそう言いつつも、ウォーレンの顔に紅が差している。
「こうして話している限りでは、そう粗忽者とも、腕っ節だけの荒くれ者とも思えん。一聖に聞いた限りでは人材の管理能力も悪くなさそうであるし、教団で然るべき地位を与えるよう、教主に指示しても構わんが、どうだ?」
「そっ……、そうですか」
ウォーレンの顔に一瞬、これまでにないくらい嬉しそうな表情が浮かぶ。
だが――すぐにぺこ、と頭を下げた。
「お気持ちは非常に嬉しいのですが、私にはまだ、やらねばならぬことがございます」
「ふむ」
「私は娘御のカズセちゃ、……様より、カズラ君を守るよう仰せつかっております。彼女が今まさにその渦中にいる、アオイ氏との戦いを終えるまで、私はカズラ君の側に付いてやりたいのです」
「分かった」
大火は小さくうなずき、「目録」に何かを書き付けた。
「ではこの話は、戦いが終わってから改めてすることとしよう。
カズラ」
急に話を振られ、葛はきょとんとする。
「はい?」
「お前や、お前の叔母には人が集まってくる縁があるな。良い資質だ」
「へ?」
「大事にするといい」
「は、はいっ」
大火にそう言われたものの――正直な話、葛には何がなんだか分かっていなかった。
(人が集まってくる資質を大事に、……って言われてもなー。どうしろって言うのよ?
て言うか、叔母って誰のコトだろ? いないんだけどなぁ、あたしに叔母さんって)
葛はそれを大火の勘違いと思い、問いただしはしなかった。
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