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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第4部

    蒼天剣・繁華録 5

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    晴奈の話、第177話。
    朝のラッシュ。

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    5.
     その夜、とある宿にて。
    「はぁ……」
     港で晴奈を見かけたあの少女は、彼女の姿をぼんやりと思い出していた。
    (あの方……。遠めで見ただけでしたけれど、りりしい顔をしていたわ。何だかすごく、気になってしまいました。
     央南の方ではないかと、オルソーたちが言っていたわね。央南……、わたくしの知識では確か、『仁徳と礼節の世界』だと聞いたことがあるけれど、一体どんなところなのか想像も付かないわ。ジントクとかレイセツって、一体何なのかしら?)
     少女は部屋の外で立番をしている「熊」たちに聞いてみようかと思ったが、少し考えてみてやめた。
    (オルソーとグリーズでは、文字通り『話にならない』わね)
     少女はすっかり真っ暗になった窓の外を眺め、もう一度晴奈の姿を思い浮かべた。
    (もう一度、会ってみたいわ。でも、オルソーたちがそう簡単に許してくれるとも思えないし。
     ……そうだ! 朝早くにそっと宿を抜け出せば、二人は気付かないかも知れないわね。あの二人、わたくしの前では偉そうに『殿下のことは四六時中お守りしております!』なんて言っていたけれど、夜中に部屋の外を見てみた時、ぐっすり眠っていたもの。早朝ならきっと、知られずに抜け出せるわ。
     そのまま宿を出て、あの方を探しに行きましょ。……うふふっ)
     もう一度晴奈の姿を思い返し、少女は胸に手を合わせて微笑んだ。

    「……む?」
    「どしたの、晴奈?」
     小鈴と共に寝床を用意していた晴奈は、何かを感じてきょろきょろと辺りを見回した。
    「……いえ。今何か、呼ばれたような気がしたのですが」
    「そう? あたしには、何も聞こえなかったけど」
    「そうですか。……気のせい、ですね」
     晴奈は枕を置き、後ろで束ねていた髪をほどいた。
    「さて、寝ますか」
    「そーね。あ、そうだ。明日は早めに街へ出ましょ。結局、旅支度してなかったし」
    「承知しました。それでは、おやすみなさい」
    「はーい、おやすみー」



     ゴールドコーストは、眠らない。
     夜が更けてからも、歓楽街は依然騒々しくきらびやかだ。そして東の空が明るくなる頃、ようやくそこの灯りは消える。
     だがその1時間、2時間前には既に朝市が開かれており、もう2時間も経てば街は本格的に動き出す。
     まさに、不夜城と呼ぶにふさわしい街なのだ。

     朝になって、「狐」の少女は部屋を出た。彼女の思った通り、あの二人は部屋の前で爆睡している。
    (護衛に来た意味が無いわね、この二人は)
     二人を起こさないよう、少女はそっと廊下を進み、階段を下りる。
    「おや、お嬢さん」
     が、1階に降りたところで、店主に声をかけられた。
    「随分早いですね。よく眠れましたか?」
    「ええ、ぐっすりと」
     少女は一瞬動揺したが、平静を装って店主に応える。
    (どうしましょう? お店の方、こんなに早くから働いていたとは予想していなかったわ)
    「お付きの方は、まだ眠ってらっしゃるんですか?」
    「ええ。夕べは遅くまで、わたくしの部屋の前で立番してくれていたようですから」
    「ほうほう。……いやいや、物々しくて息苦しいでしょう、お嬢さん」
    「ええ、とても」
     店主には、前もって自分の素性を明かしてある。店主も職業柄、少女が抱く不満を把握しているのか、優しく、そして親切に振舞ってくる。
    「どうです? 朝少しだけ、お散歩してきては?」
     まさか店主の方から自由行動を提案されるとは思わず、少女は目を丸くした。
    「よろしいのですか?」
    「いやぁ、ウチに来た時からお嬢さん、すごく暗い顔なさってるんですもん。確か、グラーナ王国でしたっけ」
    「ええ……」
    「この『狐と狼の世界』じゃ、お国でも気苦労が絶えんでしょう。お国から離れていらっしゃるこう言う時こそ、羽を伸ばさなくちゃ」
     少女はじっと店主の顔を見て、それからぺこりと頭を下げた。
    「ありがとうございます。……それでは、少しだけ」
    「お付きの方にはうまく言っておきますから、気兼ねなくどうぞー」
     少女はもう一度頭を下げ、宿を抜け出した。

     一方、こちらは晴奈と小鈴。
    「やはり市場は、朝から活気がありますね」
    「ふあ……、そーねぇ」
     二人は朝の市場に、旅支度を整えに来ていた。
     朝早くに起きる習慣が身に付いている晴奈とは違い、小鈴はいつも眠たそうにしている。どうやら軽度の低血圧であるらしく、小鈴と旅をするようになってからずっと、晴奈が小鈴を起こしていた。
    「小鈴殿、荷車が……」
    「ふあー、……おっとと」
     向かってきた荷車と、危うくぶつかりそうになる。
     起こしてからずっとフラフラとしているため、晴奈は市場に来てからずっと小鈴の手を引いていた。
    「……んう~」
    「小鈴殿、人がっ」
    「ほえ?」
     眠気覚ましに伸びをした小鈴の腕が、後ろからやって来た者を突き飛ばしそうになる。
    「おわっ!?」
    「……あー、ごめんなさぁい」
    「気を付けろ!」
     危うく殴られそうになった商人らしき男は、小鈴を怒鳴りつけてそのまま歩き去る。
    「小鈴殿。先程からいささか危なげですが、どこかで休みますか?」
    「ふああ、あ……。だいじょぶ、だいじょーぶ」
    「本当ですか?」
    「うんうん、だいじょぶ。……ふああ」
     小鈴はもう一度、伸びをする。
    「……くう~」
    「きゃっ!」
    「ん? あ……」
     今度は人にぶつかってしまった。
     小鈴が振り向いた先には、頭を抑えてうずくまる茶髪の、「狐」の少女がいた。

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    2016.04.21 修正
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