「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第10部
白猫夢・紅丹抄 1
麒麟を巡る話、第520話。
もはや一枚岩ではなく。
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1.
白猫党の幹部陣が、揃って通信機の前に並んでいる。
「ロンダ。首尾はどうかしら?」
間を置いて、通信機から白猫軍司令、ロンダの声が返って来た。
《上々であります。
まず現時点で青州の主要港湾都市の掌握に成功しており、各都市の港も封鎖完了しております。北方からの大型旅客船『アイリーン』の央南圏内への到着には、十分間に合いました。
後は洋上にてナイジェル卿を待ち構えるだけ、と言う状況であります》
「そう。……問題無しね。
分かったわ、船が来るまでそのまま待機してちょうだい」
《了解であります》
通信が切れたところで、幹部陣が口々に今後の展望を語り始めた。
「後は兵をけしかけてナイジェル卿を追い返し、西大海洋で右往左往させる、と」
「その間に我々の前線を青州から翠州、白州方面へと展開し、央南東部全域を掌握すれば……」
「央南連合の支配圏は半減し、連合が発行・管理する玄銭は著しく暴落するでしょう」
「それに加え、国際的な地位も失墜するでしょうな。件の『裏取引』で焦げ付いているところに、『央南全域の安寧秩序の維持』を掲げる彼らが、こうまで我々に易々と侵略を許してしまっては」
「となればその責を巡り――いくら連合主席と同盟総長が蜜月関係にあるとは言え――両組織が仲違いすることは必須。我々がどう攻めようとも、連携を取って迎撃することなど、まずありえんでしょうな」
「同盟の一角、軍事国であるジーン王国の後ろ盾が無い連合の兵力なんて、恐るるに足らずよ。央南連合は本年中を以って、我々白猫党の傘下に下るでしょうね」
「すべて我々の思い通り、どこを取っても有益な展開、と言うところですな。
ところで総裁」
と、幹事長イビーザが手を挙げて尋ねる。
「央南連合を下したとして、それで央南全土が支配下に収まるわけではありません。焔紅王国については、どういたしましょうか?」
「ソレについては、当面は攻めない方針で行くつもりよ」
「それは何故です?」
「5年前、10年前の悪政下ならまだしも、今は政治的安定を保ってる状態にある。アタシたちは『腐敗・堕落した権力者層の排除』を公約してるし、今の王国を攻めれば矛盾するコトになるわ。
ソレに彼らが参戦してきたら、被害は飛躍的に大きくなるコトが予想されるわ。アタシたちがやりたいのはあくまで『権力者の排除』であって、『無分別な殺戮』じゃないもの。
だから王国とは、できるだけ距離をとっておくつもりよ。勿論今後、王国が失策を続けて腐敗し、国民の不満が噴出するようなコトがあれば、攻め落とす算段を協議するつもりではあるけど」
「ふむ……、承知いたしました」
特に固執する様子も見せず、すんなりとイビーザが引き下がる。
このやり取りに、政務部長トレッドは内心、ほっとしていた。
(まだ不安が残るとは言え、曲がりなりにも現在、シエナは党を掌握できているようだ。
これが以前の、シエナがアオイ嬢の後ろ盾を失いかけ、うろたえていた状況であれば、イビーザは強固に王国侵攻を主張していただろう。
できることならイビーザ幹事長にはこのまま、大人しくしていてほしいものだが……。どうも彼は、良からぬ野心を抱いているようだからな。『隙あらばシエナを党首の座から引きずり下ろし、自分がその座に就こう』と言う思惑が、少なからず透けて見える。
かつては私と同様、穏健派であったはずの彼が、何故こんなにがらりと、急戦派に変貌してしまったのだろうか……? いや、恐らくは央中と西方における侵略の成功が、彼に良からぬ変化を与えてしまったのだろう。
勝利はあまりに甘美な毒だ――人の上に立ち、人を下したことが、彼の人となりを著しく損ねてしまったのだろうな)
と、トレッドの肩をとん、と葵が叩く。
「……ん、どうされましたか、アオイ嬢?」
「あなたもいずれ、同じ道をたどるよ」
「え? ど、どう言う意味でしょう?」
尋ねたが、葵はそれ以上何も言わず、シエナと話をし始めた。
(『あなたもいずれ同じ』……、まさか、私が考えていたことを?
いや、それよりも今のは、まさか、『預言』だったのだろうか? 私もいずれはイビーザのように、人を虐げることを厭わぬような冷血漢になると、そう言うのか、アオイ嬢?)
不安に駆られ、トレッドが葵に声をかけようとした、丁度その時だった。
通信機から、悲痛な声が発せられた。
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もはや一枚岩ではなく。
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1.
白猫党の幹部陣が、揃って通信機の前に並んでいる。
「ロンダ。首尾はどうかしら?」
間を置いて、通信機から白猫軍司令、ロンダの声が返って来た。
《上々であります。
まず現時点で青州の主要港湾都市の掌握に成功しており、各都市の港も封鎖完了しております。北方からの大型旅客船『アイリーン』の央南圏内への到着には、十分間に合いました。
後は洋上にてナイジェル卿を待ち構えるだけ、と言う状況であります》
「そう。……問題無しね。
分かったわ、船が来るまでそのまま待機してちょうだい」
《了解であります》
通信が切れたところで、幹部陣が口々に今後の展望を語り始めた。
「後は兵をけしかけてナイジェル卿を追い返し、西大海洋で右往左往させる、と」
「その間に我々の前線を青州から翠州、白州方面へと展開し、央南東部全域を掌握すれば……」
「央南連合の支配圏は半減し、連合が発行・管理する玄銭は著しく暴落するでしょう」
「それに加え、国際的な地位も失墜するでしょうな。件の『裏取引』で焦げ付いているところに、『央南全域の安寧秩序の維持』を掲げる彼らが、こうまで我々に易々と侵略を許してしまっては」
「となればその責を巡り――いくら連合主席と同盟総長が蜜月関係にあるとは言え――両組織が仲違いすることは必須。我々がどう攻めようとも、連携を取って迎撃することなど、まずありえんでしょうな」
「同盟の一角、軍事国であるジーン王国の後ろ盾が無い連合の兵力なんて、恐るるに足らずよ。央南連合は本年中を以って、我々白猫党の傘下に下るでしょうね」
「すべて我々の思い通り、どこを取っても有益な展開、と言うところですな。
ところで総裁」
と、幹事長イビーザが手を挙げて尋ねる。
「央南連合を下したとして、それで央南全土が支配下に収まるわけではありません。焔紅王国については、どういたしましょうか?」
「ソレについては、当面は攻めない方針で行くつもりよ」
「それは何故です?」
「5年前、10年前の悪政下ならまだしも、今は政治的安定を保ってる状態にある。アタシたちは『腐敗・堕落した権力者層の排除』を公約してるし、今の王国を攻めれば矛盾するコトになるわ。
ソレに彼らが参戦してきたら、被害は飛躍的に大きくなるコトが予想されるわ。アタシたちがやりたいのはあくまで『権力者の排除』であって、『無分別な殺戮』じゃないもの。
だから王国とは、できるだけ距離をとっておくつもりよ。勿論今後、王国が失策を続けて腐敗し、国民の不満が噴出するようなコトがあれば、攻め落とす算段を協議するつもりではあるけど」
「ふむ……、承知いたしました」
特に固執する様子も見せず、すんなりとイビーザが引き下がる。
このやり取りに、政務部長トレッドは内心、ほっとしていた。
(まだ不安が残るとは言え、曲がりなりにも現在、シエナは党を掌握できているようだ。
これが以前の、シエナがアオイ嬢の後ろ盾を失いかけ、うろたえていた状況であれば、イビーザは強固に王国侵攻を主張していただろう。
できることならイビーザ幹事長にはこのまま、大人しくしていてほしいものだが……。どうも彼は、良からぬ野心を抱いているようだからな。『隙あらばシエナを党首の座から引きずり下ろし、自分がその座に就こう』と言う思惑が、少なからず透けて見える。
かつては私と同様、穏健派であったはずの彼が、何故こんなにがらりと、急戦派に変貌してしまったのだろうか……? いや、恐らくは央中と西方における侵略の成功が、彼に良からぬ変化を与えてしまったのだろう。
勝利はあまりに甘美な毒だ――人の上に立ち、人を下したことが、彼の人となりを著しく損ねてしまったのだろうな)
と、トレッドの肩をとん、と葵が叩く。
「……ん、どうされましたか、アオイ嬢?」
「あなたもいずれ、同じ道をたどるよ」
「え? ど、どう言う意味でしょう?」
尋ねたが、葵はそれ以上何も言わず、シエナと話をし始めた。
(『あなたもいずれ同じ』……、まさか、私が考えていたことを?
いや、それよりも今のは、まさか、『預言』だったのだろうか? 私もいずれはイビーザのように、人を虐げることを厭わぬような冷血漢になると、そう言うのか、アオイ嬢?)
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通信機から、悲痛な声が発せられた。
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