黄輪雑貨本店 新館


    「白猫夢」
    白猫夢 第10部

    白猫夢・紅丹抄 4

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    麒麟を巡る話、第523話。
    辰沙先生。

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    4.
     報告を受けた通り、既に大月には敵がおらず、ロンダと彼を守る兵士たちは、すんなりと港に着くことができた。
    「預言者殿は?」
    「こちらで手当しております。既に目を覚ましております」
    「ふむ、そうか」
     港に駐留していた兵士たちに尋ね、即席の救護用テントに案内される。
     すぐにあちこちに包帯を巻いた葵を見つけ、ロンダは小走りに駆け寄る。
    「預言者殿、ご無事でしたか!」
    「うん」
    「一体、その傷は?」
    「シンサって人にやられた。でも何とか追い返したよ」
    「そうでしたか」
     敵を撃退したと聞き、ロンダの顔がほころびかける。
     だが次に葵が発した言葉に、その笑みが凍りついた。
    「18時までに撤退して。そう話が付いたから」
    「……なんですと?」
     思いもよらない話に、ロンダは慌てて尋ねる。
    「どう言うことです? 敵を退けたのではないのですか?」
    「あと一歩って感じだったけど、力負けした」
    「……馬鹿な!」
    「事実だよ。前よりずっと強くなってた。簡単に勝てる相手じゃなくなってた」
    「む……? シンサと言う女に、以前に会ったことがあるのですか?」
    「うん」
     葵はすっと立ち上がり、ロンダに付いてくるよう促す。
    「もう一度言うよ。18時までに撤退して。それが約束だから。もし撤退が完了してなかったら、もう一度襲ってくる」
    「……我々がいたとしても、勝てませんか?」
    「シンサがいなかったら勝てるよ。あたしがいなくても」
    「納得が行きません」
     ロンダは悔しそうに顔を歪め、食い下がる。
    「アオイ嬢ともあろう方が、どこの誰とも分からぬ輩に後塵を拝すなどと言うことがあるのですか!?」
    「あるよ」
    「……っ」
     葵のそっけない返答に、ロンダは顔を真っ赤にして憤慨する。
    「そんな……っ! どれほど、どれほど私は、あなたを信頼・信奉してきたと……!」「でも」
     葵はロンダに振り返り、こう付け加えた。
    「二度も負けたりはしない。次に会った時は必ず、この借りは返すつもりだよ」
    「……信じておりますぞ」



     白猫軍は手際よく撤退の手筈を整え、ロンダ到着から30分後には、大月に兵士の姿は――生きている者、そうでないもの問わず――一人もいなくなった。
    「ちゃんと約束を守って下さったようですわね」
     そこへぞろぞろと、刀や小銃を手にした者たちが現れる。
     彼らは皆軍服を着ており、その上に紋の付いた羽織をかけている。その紋は紛れも無く剣術一派の名門、焔流のものだった。
    「それでもあたくしたちの土地を不当に襲う、非道で卑劣な輩。こんな約束一つ守った程度で、紳士だなどと思わないこと。皆さん、承知しておりますわね?」
    「勿論です、先生」
     羽織を着た者は異口同音に、先頭の女性にうなずいて返す。
    「よろしい。では今度は、政治のお仕事に取り掛かるといたしましょう」
     彼らを率いてきた、薄桃色の毛並をした狐獣人は、街の奥を刀で指し示す。
    「役場と軍の駐屯所、警察当局、それからこの街に駐在している報道機関と回ります。
     彼らにあたくしたちがこの街を解放したことを伝え、そして軍とお役所に対し、あたくしたちの中から若干名を防衛目的で街に駐留させる旨を伝え、了承させます」
    「できるのでしょうか? 我々のほとんどが焔流、それもこうして武装した、あからさまに武闘派の人間の言うことを、そう簡単に聞いてくれるとは思えませんが……」
    「平時、平常の場合でなら、そうなって然るでしょう。
     けれどこの街は今、白猫党に襲われたばかり。あたくしたちはそれを追い払った英雄ですのよ? その恩人まで追い払うようなことを、果たしてこの街の皆さんは容認なさるかしら?」
    「なるほど。流石は辰沙先生だ」
    「それほどでも」
     辰沙はにこ、と薄く笑みを浮かべた。

     と――辰沙の元に、黒いフードを頭からすっぽりかぶった者が現れる。
    「上出来だな、シンサ」
    「ええ、有矢(ありや)。これであたくしたちの英雄譚の、第一歩が刻まれたと言うわけね」
    「そうだ。今後も白猫党との戦いは続くだろう。
     そしてシンサ、お前がそれを全て撃破し、央南の……」「『央南の女王として君臨するのだ』、……でしょう? 聞き飽きたわ。
     いつもながら誇大妄想の激しいこと。よほど子供の頃、益体もない夢想ばっかりしていたのね、あなた」「……」
     有矢と呼ばれた黒フードの話を軽くあしらい、辰沙はすたすたと大通りを闊歩していった。
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